第二十二話 「生きるという事」
あの後全ての青の民は集結し、国を捨てる事で話は纏まった。
このまま永遠に青刈りは続くのだと、そう宣言された様な宣戦布告に対し、気力を保てている者は少なかった。
首都だけで数万人はいた人口は、たった50人程度にまで減少した。
青の国全土を襲った今回の襲撃は、青の国の総人口100人を下回る程に、大きな爪痕を残したのだ
国を捨てる。
その選択がどれほどの事かは分からない。当事者でも無い俺には、どの言葉も当てはめちゃいけない、そう思ってしまう。
あれから3日が過ぎた。
敵は、あれから全く現れてはいない。
せめて、遺体を埋蔵する。
それだけは必ずするのだと
皆が強い意志で決めた事だった。
大量に並べられた遺体を前に、赤の巫女たちが、弔いの舞を踊ってくれる。
アンナはまだ眠り続けたままである、この祭壇での最後の舞は、僅かな観客の中の錫杖の浄化なのだから。
並べられた遺体を目にしたシグルドは
自身に子を託した母たちに
目が止まった。
「……約束だけは、守れました……」
「……ですが……あなた達がいないんじゃ……」
「……誰が……これからあの子達を……護るのですか……」
息が詰まる
人の往来でかき消される程の
か細い声に想いを乗せる。
だが——
その声はちゃんと届いていた。
「心配いらないよ」
そこにいたのは年長の男の子。
「僕らはここを去るけど、これからは隠れ里へ向かうから。表向きは滅びてしまう。でもね、青の血を絶やすことは絶対にないから!」
にっこりと
清々しいほどに希望に満ちた
「護ってくれて、ありがとう!シグルド様!」
笑顔をくれた。
ストンッと
心に響く——
音がした
そうだ
俺は今度こそ
護りきれたんだから
危うい所も沢山あった
でも
強くあれたのは
護るべきこの子たちがいたからだ
「名前……」
噛み締めた様な、受け止めた様な、なんとも形容し難い不思議な笑顔を向けられ、少し困惑気味になる男の子。
「あの時は、無我夢中だったから、聞けてなかったね。君の名前を教えてくれるかな?」
破顔して、屈託のない笑顔で教えてくれる。
「僕の名前は、アシュリー!将来はシグルド様よりも強い女騎士になるんだから!しっかり覚えててね!」
えっ!
……女の子、だったのか!
綺麗な青髪は短く切られてるし、綺麗な赤い瞳も、凛々しささえあるのに!?
ボーイッシュ過ぎるよッッッ!!!
ダメだ……この誤解はバレてはいけない
「……もしかして、男の子だと思ってたの!?」
「え!?なんでバレ……」
「コラーーーーッッッ!!!」
追いかけ回されるシグルドを、笑顔で見護る一同。
「シグお坊ちゃまは、立派に成長されておりますね」
「あぁ、シグは土の進化属性を使ったらしい。まさか、この歳で選ばれたのかも知れないな」
「そうですね。やはり運命からは逃れられないのでしょうか」
夕焼けでオレンジ色に染まる空、夏の終わりの近付くこの季節独特の哀愁が漂う。
しばらくし、走り疲れたシグルドは、改めて遺体を目にすると、違和感を覚える。
しかし……なんで、全部の遺体は胸に穴が空いてるんだ?
俺の目の前で死んだのは、虫人と、セドリックだけだから、今一、村人の死因が分からない。
いや、虫人が並べていた遺体にはそんな傷は無かったはずだッ。
よく見ると、首の切断された遺体の胸にも穴が空いている。
死因は調べて……ってそうだ……
この世界は医療技術がまったく進んでいないんだ。
解剖なんて、あり得ないだろう。下手をしたら、異端者扱いで極刑とかもあるかもしれない。
必ず何かがあるのに……
この世界の医療技術を進める必要がある。
俺の
残りの寿命の為にも——
翌日、ルフがシグルドから鍵を受け取り、大公レヴァの私室のある地下へと向かう。
そこは
一面凍り付き
ただ一つの氷塊の中に
15歳くらいの青年が眠っているのが分かる。
顔がハッキリ見えないけど、たぶん凄く綺麗な顔の人だな。
「では、主人。共に参ろう」
ルフの額にある蒼い石が光り
氷塊が
消えた
「我の使命は、主人を護る事だ。主人は我の中に封印された。これで何の支障もなくこの地を離れられる」
レヴァの私室の奥にある書斎をスライドさせると
滝が流れている。
ここは、湖に浮かぶ、浮島の最北端に位置する大公城の更に最北の地下なのだ。
その壁の向こうは湖の底でしかない。
「この滝の奥は、水のトンネルがある。だからこそ、道は見えない。行き先も誰も分からない」
「……あの……聖獣様……」
別れの前に、シグルドがルフを呼び止めた。
「……聖獣様……ナディになら、その眼も治せるかもしれない……」
「でも、隠れ里の場所を秘匿にするのなら、聖獣様の光は、戻って来ません……」
「……俺を庇ってくれたから、その傷を負ってしまった……」
「……どうか、お願いです……ナディが戻って来るまで、リオーネに来て頂けませんか……」
悲痛な叫びに、心を打たれた青の民たち。
それは、同時に、隠れ里への連絡手段を断つ決断をした彼らの意向でもあった。
真剣な目で見つめるシグルドと
それを受け止めるルフ
そして——
ルフは笑った。
「良かろう」
「そなたの事は気に入っている。我が主人の意向でもあるのでな」
「では、民たちよ、達者でな。また会おう」
「……聖獣様もお元気で。リオーネの皆様も、リンリンも、助けて下さりありがとうございます」
この国に来て色々な事があった。
別れも
悔しさも
理不尽も
自身の手で振り払わないとならない
乗り越えないとならない
強く
前を向く
そう——
心に近い
それぞれの岐路へと旅立った
————————
こうして青の国から去った人々とシグルドたち。
ただ、荒野と化したこの街で、唯一埋葬されず吊し上げられた、セドリックの遺体。
その側には、長い緑の長髪のエルフがいた。
「失敗でしょうかぁー?」
「まぁ、今回はこれで良い。大方回収は済んだのでな」
「また祭りの時は呼んでくださいねぇー、ズィーブ様」
二章完結しました!
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