第十八話 「大公城」
さんざん泣き腫らした後、遺体も残らなかった虫人のいた場所に目を向けるシグルド。
何もない……
何も……残ってない……
花紋に目覚めたばっかりに、狂人化して……
さんざんしたくもない事に手を汚した……
花紋がこんなに危険なんて……
ナディは大丈夫なのか……?
それに、そんなものを成人の儀に授けられるって、祝福って言ってたけど、リスクでしかない……
花紋ってなんなんだ……
ナディとの違いも気になる……
ん?
シグルドは、虫人の消えた場所に、キラリと光る宝石の様なカケラを手にする。
「……緑色の……カケラ……?」
不思議だ。手にすると少し落ち着く。
「気に入ったのなら持っててやると良い」
クラークにロケットペンダントを手渡され、中にそっとしまい、大事に掌で包み込む。
「……はい……」
シグルドの背を撫でた後、スッと立ち上がる。
「大公城はもうすぐだが、敵の全貌が見えていない以上、気を引き締めて向かうぞ」
「いえ、父様。浄化を施してくれた母様が心配です。父様は母様の元に戻って頂けますか?」
「バカな事を言うのはやめない。如何に母さんが浄化発動後で眠りに着いていたとしても、我が子を残していく選択肢はない。何より心配はいらないよ。アンナの事は強力な援軍に護って頂いている」
ポンッと頭を撫でると、シグルドは安堵の表情を向けた。
クラークとリオーネ騎士団の面々は、それぞれ馬に乗っている。子供たちと相乗りをしてもまだ騎士たちの人数の方が多い為、安全は確保出来るだろう。
「よろしくお願いします」
出発し、しばらく進むと、夜の静寂が恐怖を増長させる。
浄化発動後だとしても、先程までの敵の数を考えると、この静けさは逆に不気味でしかない。
子供たちは恐怖のあまり、ギュッと大人を掴んでいる。
無理もないな。まるで肝試しだからな。
周りには血の匂いも
家屋の残骸も
亡骸さえもが
壮絶な戦いを思わせるのだから。
しかし、その景色は突然一変する。
全てが凍り付いた氷の世界。
夏であるにも関わらず、長年露わになっていないような凍った地面。
雪と氷に覆われ
その冷気から空気は透き通り
青い景色に同化し佇む蒼い城
ウィニキートス大公城にやっと辿り着いた。
「おや、遅かったね。もう、準備は整えているよ。さぁ、大公城へ」
そこにいたのは、大公セドリック。穏やかな笑顔で出迎えてくれる。
なんでここに?事情も察しているようだけど、俺たちがここまで来るのに、さんざん戦っていたにしろ、ほぼ一直線のこの道で、先回りをされているなんて。
怪訝な表情で見つめるシグルドの前に、スッと立ち、礼を尽くすクラーク。
「これは、セドリック様。よくぞご無事で」
「この国に尽力して頂き感謝するよ」
互いに目は笑っていない。
それはそうだろう。
民を護るべき君主が、何もせず
そしてこのタイミングで
大公城前で待ち構えていたのだから。
「さぁ、大公城へどうぞ」
門番すらいない大公城の中は、静けさだけがその異質さを物語る。
中に入れないのかと思っていたけど、だとしたら、この静けさはなんだ?大公城だぞ?誰もいないなんて……
それにこの鍵は、入り口の鍵って訳じゃないらしいな。
ポケットに手を入れ、リンリンから託された鍵に触れる。
「この惨状の責任を、どうつけるつもりだ?セドリック」
警戒していたその時——
シグルドの目に映ったのは、蒼銀に輝く体毛を持つ、蒼い眼の狼だった。
すると、セドリックの口角は僅かに上がった。
「おやおや、ルフ様。まさかもう戻られていたなんて」
互いに、目と目で牽制し合い、セドリックの目が見開かれる。
「さぁ、レヴァ様の所へと案内するが良い!長年の我が一族の恨みだ!私がこの手で殺してやる!!」
お読みいただきありがとうございます!
面白いと思ったら、ブックマークやお気に入り登録をしていただけると嬉しいです。
評価★も励みになります!続きもぜひ読んでくださいね。
この物語は通常日・水・金の19時に更新しますが
GW期間中は明日以降二章ラストまでは
毎日更新します!
次回もお読み頂けると嬉しいです!




