第十五話 「反撃」
頭から流れた血を拭いながら立ち上がるシグルド。
「……お見事、と称賛しておきましょう……しかし、おやおや……一撃でその様ですか……やはり脆弱な肉体ではワタクシの攻撃に耐えられない様ですね……」
いてぇ!畜生が!あんな硬い外骨格で蹴りを入れやがって!
だが、シグルドは不敵に笑い、手の中で、さらりと零れる砂粒を握る。
これだ!
砂か!絶対強いぞ!前世のアニメでも砂使いは強キャラばっかりだったしな!
ん?でも魔法には詠唱がいるよな?砂魔法なんてこの世界で聞いたこともないのに、使えるのか?
詠唱……そうだ!父様が言っていた!詠唱とは、願いだって!!
そうか!願いを紡ぐのか詠唱だから、さっきの土魔法が不完全だったのに威力が大きかったのは頷ける話だぞ!
それならいつものクイックサラスの詠唱の土壁の部分を流砂に変えても発動可能なのかやってみるか。
「土を司る精霊ラゴンよ。
橙煌めく全てを飲み込みし流砂を
我が魔力を糧に顕現せよ!
『クイックサラス』」
橙色の光を放ち、顕現された少しの砂が少し動いた様に感じる。
うーん、やっぱりクイックサラスの詠唱じゃないからかな?それとも詠唱として不完全なのか?
でも、大事なのはそこじゃない!ちゃんと砂の魔法だったって事だ!
これなら砂の魔法が使える!
「踊れ、舞え、流れろ——」
次々と音を当て、橙色に輝く光。
「……何か、思い付いた様ですが……失敗ですか?ワタクシを楽しませて頂けるのなら期待したい所なのですがね……実験をする余裕がある……その1点に関しては……腹立たしい限りですよ!!……ワタクシはこのブラッシアの花の花紋使い!!……舐められる言われは有りませんね!!」
自身の手の甲に刻まれた花紋を撫で、シグルドへと狙いを定める!
「カーネイジ・ラティスッッッ!!」
今までの白い糸ではなく、その体躯と同じ黄緑色をした糸が編み出され、至る所に紡がれていく!
それは、糸で紡がれた格子状の檻!
その糸はシグルドの顔ギリギリにも紡がれており、触れた頬が、血を滲ませている。
「……ふふふ……これでもう逃げる事は出来ませんよ……この糸の切れ味は一級品です……ワタクシが作る糸の中でも一番鋭利な斬糸網で紡いでいますからね……残念ですが貴方は終わりです……」
「確かにこれでは動けない、が、ペラペラ喋っている間に、準備は整った!」
「土を司る精霊ラゴンよ
橙に揺れる煌めきで
我が魔力を糧に我を阻む者から
身を隠す粒子を顕現せよ!
『ダンスサラス』」
その直後、砂粒は舞い踊り、大規模の砂嵐が巻き起こる!
「鋭利な糸ってのは、それだけ鋭いものだ!しかし、残念ながらお前は蜘蛛。その糸の粘性は、細かな砂の粒子を捉え離さない!」
鋭利な糸に砂粒はどんどんくっつき、あっという間に黄緑であった色すら失った糸は、鋭利ささえも失い、目に見える程に太さを増していく。
「残念だったな!相性最悪だよ」
「……ふ、ふふ……無知とは愚かですね……蜘蛛の糸の縦糸には、粘性は無いのですよ!!」
張り巡らされた糸を操り、攻撃をしてくる虫人!
「愚かなのはお前だよ。格子状にしている事で縦糸が思う様に動かせていない!これならただの梯子にしかならない!」
瞬時に糸の上に移動し、太くなった横糸を走り抜けるシグルド!
「土を司る精霊ラゴンよ
橙に煌めく粒子の恐怖を
我が魔力を糧に顕現し敵を侵食せよ!
『グラインドサラス』」
発動と共に顕現された砂の粒子は、渦を巻き、虫人に触れた直後に霧散する。
「——はっ?」
虫人が眉をひそめる。
が、ぴくりと動く脚がわずかに震えた。
「……な、なにを……何をしたのですか……!?」
「気付かない程に細かな粒子なのか、それとも、お前が鈍感なのか。まぁ、違和感くらいはある様だけどね」
「……何をしたのかと聞いているのですよ!!!」
黄緑色の斬糸網を新たに作り、今度は格子状に紡ぎはせず、縦糸だけを放ってくる。
しかし——
「『バーストサラス』」
——破裂。
その直後——鈍い音と共に、糸を操作していた、虫人の肘から先の右腕が弾け飛んだのだ!!
「ギィィィィィィィィィィィィィ!!!」
「……ワ、ワタクシの腕がぁぁぁぁぁ」
血と肉片が飛び散り、斬糸網もろとも地面に投げ出された腕は、ゴロゴロと転がり落ちる。
「終わりだよ。お前の身体の中には幾億の砂粒が入り込んでいる。それは俺の合図でいつでも弾けるから、お前に勝ち目は無い」
「……は、この程度……ワタクシの再生速度を舐めて貰っては困りますね……」
ギチギチと奇怪な音と共に右腕を再生してみせる虫人。
「『バーストサラス』」
再生と同時に右腕が弾け飛ぶ!
「ギィィィィィィィィィィィィィ」
「幾億と言っただろう?拷問の趣味は無いんだ」
まだ諦めの付かない瞳で睨む虫人に、小さくため息を吐く。
「……それとも精神が壊れるまで続ける?」
月明かりを背景に、シグルドの瞳からは、冷たく光を無くすのだった。
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