第十二話 「見ていたのは両面世界だった」
「ハァ……ッ、ハァ……ッ……」
首を絞める手を振り解き、崩れるように膝をつくリンリン。
喉を押さえ、酸素を貪るように呼吸を繰り返す。
視界が揺れる。音が遠い。
それでも——目の前の男だけは、はっきりと見えていた。
「いいねぇー、その顔ぉー」
男は楽しげに目を細める。
「このまま壊れていくのを眺めるのも悪くないけどさぁー」
「そろそろ“次”が始まる頃なんだよねぇー」
リンリンの呼吸が止まる。
「……なに……?」
男は、わざとらしく肩をすくめた。
「ボク、一人で来たと思ったぁー?」
にたり、と笑う。
「北の大公城、向かってるんでしょ?」
「——ッ!!」
一気に血の気が引いていく。
「まさか……シグお坊ちゃま……!」
————————
土の壁に挟まれた一本道を、シグルドと子供たちは駆けていた。
崩れた街を抜け、北へ。託された想いを守るために。
だが——
その道の先に、“それ”はいた。
「……おぉ〜ッ……!!」
歓喜に震える声をあげて。
「本当に……現れましたねぇ〜……!貴方が噂の……」
蜘蛛の足に、人間の胴体が生えた、まるでケンタウロスの様な見た目の男。
その異形は、うっとりとシグルドを見つめ、フフフと笑っている。
「なんて……なんてぇ……」
肩を震わせ、高らかに笑う。
「フォビュラス・アンシャンテッ……!!」
「あれは、虫人!?亜人の一種です……いくら虫人でも虫を操る事なんて出来ない筈ですが」
子供たちの中で一番の年長者の少年が、声を震わせ教えてくれる。
虫人?!亜人もいるのか、この世界は!?いや、でも虫人ってさ、最初に会うなら獣人とかに会いたかったよ。
それより蜘蛛を操ってたのは蜘蛛の虫人って訳じゃないのか?いや、無関係な筈はないだろう。
!!?
その背後には、無惨にも積み上げられた死体があった。
ただの山ではない。
突き刺され、組み上げられ——まるで生花のように。
ただ息を呑み、緊張が全身に行き渡る。
「お前ッッッッ!!!」
目を見開く蜘蛛の虫人。
「あぁ……いい顔……いい顔ですねぇ……」
虫人は、恍惚と呟く。
「あぁ…上がる、上がるぅ〜…」
高揚感に満ち足りた表情を浮かべ、自身の身体を抱き締める。
「あぁ……貴方は、どんな声で泣き……、どんな事で……その表情を歪ませますかぁ……?」
一歩、踏み出し、瞳孔の開いた、焦点の合わない目を向けてくる。
「感情を……感情を擦り合わせましょう……!!えぇ……!是非とも……ワタクシも……そうしたいのです!!」
高らかに声を上げ
高らかに手を上げる
——————————
「……なんで、知ってるの……」
リンリンの声は、かすれていた。
「いつから……そこにいたの……」
目を見張り怒気を露わにするリンリンは、不可解な男の言動に更なる恐怖を感じる。
「んー?」
男は首を傾げる。
「さっき来たよぉー?」
くすくすと笑う。
そして、足元の死体を軽く蹴った。
コロコロと転がる騎士の首。
「でもねぇー」
しゃがみ込み、耳元に囁くように言う。
「“この人”は、ずっと君の隣にいたよねぇ?」
一瞬、———呼吸が止まる。
「ボクは屍属性」
にたり、と笑う。
「この人が見たもの、聞いたものはねぇー、ぜーんぶ、知ってる」
リンリンの瞳が揺れる。
「だからさぁー」
男はゆっくり、立ち上がる。
「急がないと——」
ニタリと笑みが、歪む。
「君の“大事な人”、別の奴に壊されちゃうよぉ?」
—————————
蜘蛛の男の手が、ゆっくりと持ち上がる。
その甲に刻まれた紋様。
それは、蜘蛛の花紋——
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