第十一話 「燭台の花紋使い」
首と胴が切り離された民たちからは、赤い噴水が激しい飛沫をあげ、みるみる辺りは血の池へと変わった。
音もなく、気配もなく、元からそこにいたかの様に、男は平屋の瓦の上にいる。
「き……貴様ぁぁぁぁ!!!」
異質な雰囲気の男は、ゆっくりと手袋を外した。
そこに刻まれているのは花紋。
「そ、それは……!?」
あの日ナルディアに刻まれた、異形の力。それは、この男がその力と同等であろう力を有するという事。
にっこりと微笑む男は、燭台の形をした花紋が刻まれた手の甲をゆっくりと見せながら話し出す。
「ボクの花紋の事かなぁー?これはねぇー、ショクダイオオコンニャクと言う花でねぇー、燭台の形をしているんだぁー。あーそうだよねぇー、見たら分かるよねぇー。ごめんねぇー。能力が知りたいんだよねぇー?ヒントが欲しいかなぁー?別名はねぇー」
にっこりと笑う男は言った。
「死体花」
「お前、がッッッッ!!!?」
「そうだよぉー、ここにいる死体はみーんな、ボクの意のままにぃー、操れるんだよぉー」
すると、コバルトがリンリンの方を向き、攻撃の構えを取る。
「な、なんで!?コバルトッ——!?」
「君はさぁー、気付いてなかったみたいだねぇー。彼はねぇー」
「そ……んな……リンリン……逃……げろ」
極上の下卑た笑顔で破顔する。
「死んでるよ」
なぜ。いつ殺されたのかも分からない。何より傷もないコバルトをただ見つめ、動けずにいるリンリン。
「君も見ていたじゃないかぁー?彼は昨日、君の腕の中で、死んだでしょおー?」
「ど、どういう事よッッッ!?彼は蘇生したわ!心臓だって、ちゃんと動いているわッッッ!」
「不思議だよねぇー。そーなんだよぉー、まだ生きてるよぉー?ちゃんと心臓も動いてるしねぇー。でも死んでる。ボクが生かしてるからねぇー」
混乱——それすらも優しく感じる程に、思考がめちゃくちゃに渦巻き続ける。
本来ならば動悸がしてもおかしくない程の焦りや焦燥感ながら、心臓は平静を示したまま変わる事はない。
違和感に気付いたコバルトは、己の呼吸と心音のズレに眉を寄せる。
一拍。
二拍。
三拍——
心臓の音が、自分のものじゃない。
「……違う」
遅れて聞こえる鼓動。
吸っているはずの息と、身体の動きが合わない。
「……なんだ、これ……」
理解したくないものが、形になる。
そして、不意に——理解した。
「俺は……」
喉が詰まる。
「生きてない……のか……?」
ただ、立ち尽くし、思考が停止する。
リンリンの視線が、一瞬だけコバルトの胸元に落ちる。
「……違う」
そう言って、すぐに首を振る。
「いいえ!生きてるわッ!コバルトはちゃんと生きてる!生きてるなら、お前さえ倒せば!!!」
リンリンが怒りに任せ、花紋使いの男に円月輪を投げようと身構える。
「あれぇー?良いのかなぁー?」
ちゃんと声が届いているのを確認し、ニタリとした笑顔で呟く。
「ボクが死んだら彼も死ぬよ」
言葉が出ない。
足が動かない。
ただ、目の前の現実だけが、ゆっくりと形を持っていく。
「ねぇー、ほら」
コバルトの首が、一瞬だけ“カクン”と揺れた。
男が指を軽く動かすと、コバルトの腕が勝手に動き、落ちていた剣を拾い上げ、自分の首に当てる。
「ほらねぇー?いつでも殺せるんだよぉー?」
「どぉーする?殺す?殺される?ねぇー、ねぇー!!」
「撃っていいよぉー?」
必死に声を振り絞り抵抗するコバルト。
「……やめろ……リンリン……に……俺を殺させる……なんて……そんなもん背負わせ…られる……かよ……逃げろ……逃げてくれ」
そんなコバルトを見て再び笑みを浮かべる花紋の男は——
「それはねぇー、出来ないよねぇー。選択肢はぁー」
更に下卑た笑顔を浮かべ——
「君が殺すか、君が殺されるか」
破顔する。
「それだけだからぁー」
どんどん呼吸が荒くなり、絶望に顔を歪めるリンリン。
「……やれ、リンリン」
「ふざけないで」
「俺はもう、あいつの手の中だ」
「いいのぉー?彼、ちゃんと生きてるよぉー?」
泣き崩れるリンリンが円月輪を構える。
「……ごめん」
だが、手が震え、動くことが出来ない。
「ねぇ、見てコバルト……私……怪我をしたわ」
強く握った事で出血した掌を見せるリンリン。
「私……やっと……解放、されたのよ……」
それを見て、驚き以上に安堵の笑顔を見せるコバルト。
「せっかく……せっかく、同じ時を生きられるようになったのに……あなたがいないなら……意味が、ないじゃない……」
操作がゆるまったのか、泣き崩れるリンリンの頬にそっと触れるコバルト。
「良かった……良かったなぁ、リンリン……それなのに……ごめんなぁ……俺は、ずっとお前の中にいるから……だから……」
次の瞬間、その手はリンリンの首を絞めたのだ。
「……やめ……ろぉッッッッ!!やめて……くれッッッッ!!!」
「キャハハハハハハハハハハハハハッッッッ」
「せっかくのノーブルがぁー、あの忌々しいノーブルがぁー、使い物にならなくなったなんてねぇー!良い!良いよぉー、君たちぃー!!!愛する二人を分かち合うのはぁー、どうしようもない理不尽さぁー。ねぇー、愛ってさぁー、壊れる瞬間が一番綺麗だよねぇー?そう、思うでしょー?」
静寂の中、薄汚い笑い声だけが響き渡る。
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