第八話 「南部の戦い」
一方、南側に向かうクラークとリオーネ騎士団たち。
そこには巨大な蜘蛛、数十匹と戦うウィニキートス騎士団たちがいた。
それは、シグルドが倒した巨大な蜘蛛ナサンスパイダー。辺りにはセフスパイダーやナサンスパイダーの死骸がごろごろと転がっている。
騎士団たちは皆、和装の戦装束に身を包んでいた。羽織や袴はウィニキートスの象徴である青で染め抜かれている。
腰には刀、背には弓、手には槍、薙刀、鎖鎌。それぞれが相当な達人なのだと一目で分かる程の屈強な戦士たち。
先頭に立つ若き武者が、刀を抜き、静かに言う。
「ここは青の国。武家の血を継ぐ我らが守る地だ。ナサン相手でも負けはしないッ!」
背後の仲間たちもまた、武器を構える。
その瞬間、敵が動く。
ナサンスパイダーたちは、一斉に地を這うように走り、素早く屋根から屋根へと飛び回る。
「来るぞッッッ!」
騎士団の弓兵が矢を連射する横で、槍の騎士が屋根に飛び乗り、蜘蛛の飛び移る先を封じる。
蒼い羽根の矢が空を裂き、蜘蛛の胴体の外骨格を貫いた。
しかし蜘蛛は倒れない。糸を飛ばし、屋根や木へ飛び移り、そして数十匹のナサンスパイダーの姿が消える。
「き、消えた…!?どこだッ!」
突然見失った敵に、警戒する騎士団の頭上に、ふいに影が落とされた。
「上だ!!!」
空を見上げると、いつの間にか屋根や木々に張り巡らされた無数の蜘蛛の糸の上に乗り、黒光りする巨体が、こちらを睨んでいた。
「キィィィィィィィィィィ!!!!」
すると、無数に転がっていた蜘蛛たちの死骸が、動き出したのだ!!!
「なんと面妖な!蜘蛛もまたアンデットと化しているのか!」
狼狽える騎士団を他所に、身体のあちこちを失いながらも、這い回る蜘蛛達は、いつの間にか蜘蛛の巣へと化した、上空へと移動する。
グチャ、グチョ、グシャ、グチ……。
「こいつら!!また進化する気だ!!!食い止めろーーーッッッ!!!」
騎士団たちは各々が武器を使い攻撃をするが、もう遅い。蜘蛛は1つの個体を中心に全ての個体が囲うような陣形を崩さない。
蜘蛛たちは皆、お尻から食べられながら、目の前の同胞を食べているのだから。
やがて、食事は終わり、1体の蜘蛛だけが残った。巨大なその蜘蛛はすぐ様脱皮し、2つの鋭利な鎌を携えた、6つの頭を持つ異形へと進化したのだ!!
「あれは、リーン……!?リーンスパイダーだーーーッッッ!!!!」
リーンとは、Bランクモンスターの相性である。それは、一匹で国を壊滅する程の脅威とされ、凄腕冒険者に要請し、軍隊で国を挙げて討伐隊が組まれる程の脅威。
リーンとは戦うな。これは、生きる者全ての共通認識。如何に武家の末裔のウィニキートスでも、一小隊の騎士団が相手に出来る相手ではない。
「援軍を呼ぶべきではなかったな……。悪い事をした」
小隊を任された男は、小さく後悔を溢す。そして、強く、自身の刀を握り、鼓舞をする!
「悪いがみんな、ここで俺と死んでくれ。コイツはここで食い止めないとならない。必ず、必ず!!我等が倒すぞ!」
「おうッッッ!!!」
皆一丸となって、リーンスパイダーへとかけて行く!
リーンスパイダーは中心の胴体の周りに6つの頭を持つ構造である。では、糸はどこから吐くのか。
リーンスパイダーは、全ての口から糸を吐き、向かって来る騎士団員の足を次々と糸で絡め取って行く。
「うわぁーッッッ!!!」
糸を切断し、逃げ延びる者、足を絡め取られ、引き摺られて行く者、切断しようと武器を振り下ろそうとした腕すらも糸で絡め取られる者、騎士団は一気に半数の者が、糸で身体を巻かれ、蜘蛛の巣に宙吊りにされてしまう。
「キィィィィィィィィィィッッッ!!!」
6つの頭からの奇声が反響し、残された騎士たちの顔は一気に絶望へと変わる。
そこに、銃声が響き渡る!
宙吊りにされた騎士団たちは皆、バタバタと地面に投げ出されたのだ。
「遅くなってすまない。私は元帝国騎士団副団長クラーク・アトリビュート・リオーネ。これより、参戦させて頂こう」
絶望感から一気に解き放たれた騎士団員たちの歓声がこだまする。
クラークは爆裂弾を蜘蛛の巣へと速射する。
すぐ様、けたたましい爆音と共に蜘蛛の巣は灰と化した。
不遇の土属性持ちでありながら、帝国騎士団副団長へと上り詰めたクラークの実力は伊達では無い。
しかし、蜘蛛の巣に乗っていた筈のリーンスパイダーは、瞬時に移動している。
「ふむ。さすがは、リーン。爆発には巻き込まれてはくれぬか」
素早さを理解したクラークは、リーンスパイダーの退路へと次々と魔導弾を放ちながら魔法を詠唱していく。
「同時詠唱……」
通常魔法を詠唱する事は、それだけで集中力を要する。それを、魔導具である魔導銃を扱いながら、である。
魔導銃は、扱いが非常に難しく、込める魔力を誤ると、暴発し、四肢や命を失いかねない危険なものだ。
それを同時に、別々に魔力を込めているのだ、クラークの実力は折り紙つきなのだと実感する。
「土を司る精霊ラゴンよ。
橙に艶めく硬く鋭利な岩石を
我が魔力を糧に顕現せよ!
『ニードルサラス』」
リーンスパイダーの足元の地面から無数の土の棘が顕現し、襲いかかるが、瞬時に躱されてしまう。しかし、その退路からも土の棘が顕現され、逃げ場を奪う!
四方を土の棘が襲い、リーンスパイダーを中心に球状の土の棘が浮いている様な奇妙な光景だ。
激しい土煙が起こり、次第に晴れていく。
しかし、土の棘は全てへし折れ、バラバラと落ちて行く。そこには、傷一つない黒光りした体躯が姿を現したのだ。
「なんだとッッッ!?」
「キィィィィィィィィィィ!!!」
全ての棘を鋭利な鎌で薙ぎ払い、動き出すリーンスパイダーは、ただただ、突進して来る!!
「くそッッッ!!!」
ウィニキートス騎士団たちが一斉に斬りかかる!
しかし、激しい金属の衝突音がなり、騎士団の攻撃は弾かれてしまう。
すぐ様リオーネ騎士団たちも攻撃に加わるが、同様に鎌で弾かれてしまう。不意をついたクラークの銃弾でさえも外骨格に弾かれてしまった。
そして、戦略をねり、シグルドがした様な関節への攻撃さえも攻撃は通らない。
「な、なんという硬度だ……」
攻撃が通らないと理解したリーンスパイダーは、避けるのをやめ、ゆっくりと、獲物を捕獲しようと、近付いて来る。
「……くそッ」
その時だった。
——ドン。
鈍い音が響いた。
よく見ると、いつの間にか、蜘蛛の懐に一人の老人が入り込んでいたのだ。
拳が、わずかにめり込んでいる。
外骨格は、割れていない。
だが——
「キィィィィィィィィ!!?」
巨体が大きく仰け反る。
「な、に……?」
クラークの目が細められる。
効いている。明らかに、今までのどの攻撃よりも。
老人は、静かに拳を下ろした。
「……まだまだ若いな」
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