第五話 「初めての戦場」
蜘蛛達は数が多い。大小様々な蜘蛛達はガサガサと黒い体躯を蠢かせ、少しずつ近寄ってくる。
数が多いな。それに囲まれている。
100を超える蜘蛛たち。だが、生後8ヶ月の頃から土魔法を使い、広大な土地で畑仕事をやっていたシグルドには、些か拍子抜けである。
ようは、正確な位置を把握するだけ、だろ?
精神を研ぎ澄ませれば、空間の把握ができる。こういうのは得意だ。前世でもずっとやってたからな、瞑想。
小さくても大人の拳くらいのサイズの虫で良かった。これなら捕らえられる。生きてるもの、動いてるもの、生きていないもの、呼吸、大きさ、いるな、全部で、105匹。
「土を司る精霊ラゴンよ。
橙煌めく全てを飲み込みし土壁を
我が魔力を糧に顕現せよ!
『クイックサラス』」
蜘蛛一匹一匹の周りに次々と土魔法を展開するシグルド!そして魔力を帯びた橙色の土を一箇所に誘導し、ドーム型に集結させる。
土に足を取られ、流される様に集まった蜘蛛達は、土のドームの中で暴れ回っている!
「残念だけど、虫取りなんかには時間かけられないよ」
その瞬間、土のドームは一気に圧縮し、蜘蛛たちを殲滅した。
「すげーじゃねぇか、坊主!蜘蛛の魔獣の大群をこんなにもアッサリと!」
「えっ?この蜘蛛ただの虫じゃなくて、魔獣だったの!?なんで街中に!?」
「さぁな、どうも虫の魔獣だけは昔から、結界を潜り抜けることがあるんだが、このサイズでってのは、些かおかしな話だな。だが坊主、でかしたな!」
「ふふんッ!当然です!!シグ坊ちゃまが、あんな虫如きに遅れを取るはずがありませんもの!しかし、見事な土魔法!毎日広大な畑を耕してるだけあります!!」
目をキラキラさせながらリンリンが大はしゃぎしている。それを見てコバルトもテンションをら上げている。
どうやら、この蜘蛛の魔獣セフスパイダーは、父様と狩猟で狩ったセフララビットと同格のFランクらしい、同じセフって付くくらいだし、Fランクの魔獣にはみんなこの名前が付くのかな?確かセフラビットは、子供を頭から丸呑みする程には危険って言ってたからこの蜘蛛も、程々には凶悪だったんだろう。
グチャ、グチョ、グチ…グシャ——
ん?なんの音だ?圧縮させた土ドームの中から変な音がするぞ!
魔法を解除し霧散する土の中から現れたのは、一匹のセフスパイダーだった。
一匹仕留め損ねたらしいな、いや、それより、こいつ、仲間の死骸を喰ってやがるのか!?気味の悪い奴だ!さっさと殺してやる!
シグルドがハンドガンを速射し、命中したが、様子がおかしい!
なんだ?なんの動きも見せないぞ?即死しただけか?
いや、あれは脱皮してやがる!!
最後の仲間を食し終わったセフスパイダーは、シグルドの弾丸が放たれたと同時に街中の平屋の壁に張り付いていた。
「ギィィィィィィィィィ!!!!」
デカい!!脱皮って、こんなにも大きさが変わるのか!?しかも、仲間を貪る姿が生々しくて…気分が悪い、というか、キモイな!しかも、かなり素早いらしい。
でもなッ!威嚇されて怯むタマじゃないんだよッッッ!!!やってやるッ!!
自分と同じ大きさにまで巨大になり、強化された蜘蛛と対峙するシグルドは、蜘蛛へと威嚇射撃を開始する!
「こんなに大きなセフスパイダー、見た事ないわ!それに魔物が共喰いして、脱皮までするなんて!」
「まぁ、坊主は余裕そうだからな!ちょっと様子を見るか!だがリンリン、セフだとは思うな!いつでも出られるようにな!」
「あら、誰に言ってるの?あんなに弱かった子が、言うようになったものね?」
「こ、子供の頃の話はよせよッッ」
蜘蛛は弾丸を瞬時にかわし、鋭い糸を吐き、足元や視界を縛ろうと襲いかかる。
あまい、あまい!
「土を司る精霊ラゴンよ。
我が魔力を糧に
橙の生命の大地で
我ら護る盾を顕現せよ!
『プロテクトサラス』」
土魔法で防御を展開しつつ、ハンドガンで応戦する。
狙いは蜘蛛の足だ!ひとつひとつ、確実に撃ち砕いてやる!
ガンっ!
しかし、蜘蛛の魔獣の外骨格は思った以上に硬く、銃弾を弾かれてしまった。
嘘だろッ!?いや、まぁ良い!驚かされたけど、俺の銃弾は小さいんでね!的がデカくなったなら、より正確に狙うだけだ!!
シグルドの手に馴染む様にサイズの変わったハンドガンは、弾丸もまた小さくなっている。当然威力も落ちている為、蜘蛛の魔獣の外骨格に弾かれてしまったようだ。
「狙うは、ここだよ!」
シグルドの射撃のセンスは父クラークのお墨付き。初めてハンドガンを習い始めてからは3つの季節を跨いでいるのだ。動く敵の、更にはほんの小さな的、関節部位を狙う事も造作もない。
「キィィィィィィ!!!」
関節を打ち抜き、1本の足が後方に吹き飛び、蜘蛛の魔獣はたまらず奇声を発する。
甘い!そのまま、あと3本貰うぞ!
続けて速射で更に3本の足を失った蜘蛛の魔獣は、よろめき、体勢を大きく崩した!
8本足だからって、全部奪う必要はないならな!片面4本失えば動けないのは道理!だけど、もう終わりか?呆気ないな!動かない的なんて、殺してくれって言ってるのと同じだぞ?……ハッ!
どう回り込ませたのか、蜘蛛の糸が背後から伸びシグルドを捕らえにくる!
「『プロテクトサラス』」
だが、土魔法で完一発障壁を作り、糸は弾かれ、力なく地面に落ちた。
あぶねー!なんとかの最後っ屁ってやつか!いや、初めて使ったわ、この言葉!しかし糸にはもっと警戒しないとな。死に際の敵が一番、何するか分からないってねー!常識常識!
ぺろっと舌を出すも、警戒は怠らないシグルドを、四方から何本もの糸が襲いかかる。
ほーら来た!動けないからこそ、糸での攻撃は必須だよな!しかし、この糸、なんで何本もあるんだ?普通、蜘蛛は1本の糸しか出せない筈じゃあ?まぁ、魔獣だしってか?
ん?そうか!こいつ、デカくなったから、糸も太くなってる!それを細い糸に分離させて飛ばしてるのか!デカくなって知能まで上がったのか?器用な奴だな!
シグルドは全ての糸を土魔法で弾きながら、器用に回避する。
だが、残念!糸なんてのはな!先端潰されたら終わりなんだよ!!
シグルドは、弾丸を入れ替え、速射!次々と糸の先端に命中させる!すると、糸の先端には土がまとわりつき、動きを封じたのだ!
「父様から貰った土の弾丸。魔法で狙うのはさすがに難しくても、これで動きは止められる!ってね!さぁ、終いだ!お前もそろそろ逝ってくれ」
「土を司る精霊ラゴンよ。
橙煌めく全てを飲み込みし土壁を
我が魔力を糧に顕現せよ!
『クイックサラス』」
呪文と同時に、蜘蛛の魔獣の周りを土壁が覆い、次第に縮んでいく!
「キィィィィィィ」
「殺せてなかったら嫌だしね!続けていくよ!」
「土を司る精霊ラゴンよ。
橙に艶めく硬く鋭利な岩石を
我が魔力を糧に顕現せよ!
『ニードルサラス』」
圧縮された土のドームの中から無数の土の棘がドームを貫通し、飛び出してくる!
「ギィィ……ギ………」
ほら、やっぱり生きてた!でもこれでさすがに倒しただろう!初戦にしては、まぁまぁ、って所かな?
ドヤ顔でコバルトとリンリンを見るシグルドを、二人はなんとも言えない喜びの顔で迎えてくれた!
「うわー!シグルド様!よくご無事で!お強くなられましたね!何度も何度も耐えて見ていて良かったですぅぅぅ」
「すげーじゃねーか、坊主!!その歳でそこまで戦えるなんて思ってなかったぜッ!!あれはナサンレベルだったからな!Dランク魔獣の強さはあったぞ!」
Dランク?ナサンレベルって、あの熊の魔獣のナサンベアクラスって事か!
そうか、あの時恐怖した熊魔獣と同じランクか!確かナサンベアはCランクに近いDランク上位って言ってたからな!強さとしても、村を壊滅する程の脅威だったか。
それにしてもセフスパイダーの脅威のレベルアップにも驚きだな!FからからDって飛び級で上がってやがる!
だけど、そうか!俺も着実に強くなってるんだな!
ワァーっと周りからも歓声が聞こえる!
そうだ!ここはウォーターショーの会場のすぐ側!戦闘に集中し過ぎていて、周りが見えていなかったなんて、ハンドガンを使ってるのに反省でしかない。
「誰も怪我とかしなかった!?俺、気付かなくて銃撃ちまくって…!?」
「なーに、大丈夫さ、ここの人たちは、お前が思ってるより、めっぽう強いからな!」
「そーだよ!お兄ちゃん!だーれも流れ弾になんか、当たりゃしないさね!」
「そうそう!俺たちゃ、青の国の民、武家の末裔だからな!」
そう言い放ち、皆が皆、所持する武器を前に出す!槍や刀、苦無に、鎌、国取りにでもいくのかと言うほどに、和の武器を全員が装備している!
「は、はは、頼もしい国だな…!」
「そりゃあね、聖女様の浄化はもちろん信じてるけどね、それはそれ、これはこれ。自分らの国くらい、自分らで守る事なんて当たり前よ!」
「な!頼もしいだろ?じゃなきゃ、騎士団長の俺が坊主の御守りなんてやってねーよ!おっと、また蜘蛛が大量に出てきたぞ…なんだ?何かの陰謀か?よし、お前ら!ここは任せた!こんな小せぇ坊主がぜんぶ一人でやってのけたんだ!誰もやられんじゃねーぞ!分かったな!」
「おう!やってやるよー!!」
コバルトの激昂に応え、臨戦体制になる青の民たち!
ははっ!戦闘民族ってこーゆー人たちの事を言うんだろうな!なんだよ!頼りにしかならない!
「坊主、俺たちは結界を見に行くぞ!何かおかしい!」
「分かった!!」
結界は、母様たちがいる祭壇にあるらしい!みんなが心配だ!丁度良い!
だがそこに、ゆっくりとゆらゆら蠢く、アンデットの大群が姿を現した。
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