第十一話 「性質変化」
翌日になり、さっそくオリエンテーションのために黒階段のある敷地内の森にある祠のような古びた建物の中へと向かった。
へー。カルロに連れて行って貰った白階段とは違って、やっぱり降り階段は黒いんだな。
しかも、階段が5つ並んでる。違う出口に繋がってるのか?
「では、向かいましょう。最下級生が入れるのは、一番奥の階段になります。Fランク相当ですから、特に問題はないでしょうし、まずは一人ずつ、技能を見せて頂きます」
Fランクか。リオーネの森にいるセフラビットクラスだな。
初めてダンジョンに潜ったあの試験では、みんなで競争したな。それだけ、余裕のある階層だった。
だけど、それは星のカケラの指輪を付けた俺たちの話だ。小さい頃からずっと修練してきた。
だからこそ、一般の生徒たちは、もしかすると手こずるかもしれないしな。
何より今の俺も、魔法の修練に使えるから丁度良いかもしれない。
「では、シグルド・アトリビュート・リオーネ。あなたをこのチームのリーダーに任命しますので、危険があれば、あなたが助けなさい」
「俺で良いんですか? まだ、魔法が使えるかも分からない状態なのに」
「そうですね。ご心配なら、まずはあなたの魔法以外の実力を見せていただけますか?」
「あぁ。そういうことなら」
黒階段を降りると、一面荒野と化した、なんとも寂しい街並みが広がっていた。
なんだ? よく見ると、昔栄えた都市の残骸が至るところにあるな。
下の階層にも、人は住んでいるのか?
「では、よろしくお願いします。シグルド・アトリビュート・リオーネ」
「はい」
精神を集中させ、周りを警戒するシグルド。
いるな。しかもかなりの数だ。
100以上か。
これだけの魔獣に囲まれていると、青の国でセフスパイダーに囲まれた光景を思い出すな。
あの時も、同じような数だった。
ただ、違うのはあの時は、クイックサラスで全てのセフスパイダーを一撃で仕留めたけど、今回は、魔法なし。
それなら、相棒の初お披露目といこうか。
ドワーフのモジュカに改良された、新生ハンドガンには、火水風土の4つの魔石が組み込まれている。
『よく聞きな、チンチクリン! 四元素の中で、他の三元素の影響を受けて、性質変化するなんてのは、土だけなんだぜ! だからこそ、あんたの放った粘土も、石も作れたってわけだな!』
モジュカの言葉を思い出す。
そう。つまり、俺の土魔法に水の魔石の効果を混ぜた粘土や、石なら火の魔石の効果となるわけだ。
そのまま撃ち抜いてもつまらないからな。
色々試させて貰おうか。
土の性質変化か。
まずは、泥。
シグルドへと突進する、猪の魔獣の足場をぬかるんだ泥に変化させるシグルド。
泥に足を取られた猪の魔獣は、転倒。泥はそのまま硬質化され、石化し、猪の魔獣は身動きを失う。
さらに、砂。
飛翔する鷹の魔獣は、散弾銃と化した砂の弾丸を避けられず、そのまま落下。そのまま石化した砂の影響もあり、なす術がない。
次は、効果範囲でも見てみるか。
速射で数十発放たれた弾丸は、どんどん地面を泥へと変えていく。
これは、さらに打ち込んだら、もしかして——。
どんどん泥の中へと打ち込まれる弾丸は、泥を更に変化させ、遂には大きな沼へと形を変えていく。
ぶくぶくと次々に魔獣を沈めていくと、見える範囲が一面沼と化した。
逃げのびることが出来た魔獣たちは、木に登れる個体と、飛べる個体のみ。
それなら、次は——
さらに次々に空中に弾丸を放つと、激しい砂嵐が巻き起こる。
木に登り隠れている個体も、飛翔し、逃げていく個体も巻き込み、無数の砂の粒は次第に大きさを増し、砂利や、小石ほどまで肥大化してく。
その影響は、砂嵐に囚われている魔獣たちへダイレクトに反映され、容赦なく身体を打ち付けられ、じわじわと肉片を削り取っていく。
ふむふむ。泥沼も、砂嵐もかなり効果的に使えそうだな。
じゃあ次は、石化の範囲を広げていくかな。
「——なさい! シグルド・アトリビュート・リオーネ!」
——ん?
声の方へ振り向くと、ルーベルが珍しく焦りを見せている。
「え? どうかしましたか?」
「あなたは、魔法が使えないはずではなかったのですか?」
「ええ。今回は魔法の使用はしていませんよ? 魔導具の使用はしましたが。あれ? 魔導具も禁止でしたっけ? そーなると肉弾戦のみって話になるよな。接近戦だけでも問題はないけど、殲滅するとなると、鳥系がなぁ。さすがにカルロみたいに走って木は登れないし」
「誰が殲滅しろと言いましたか……お陰で地形まで変わり、この一帯の魔獣たちが全て死に絶えてしまいました」
「あぁ。戻しましょうか」
パチン、とシグルドが指を鳴らすと、辺り一面の泥沼は消え、砂嵐も止んだ。
それを見ていたクラスメイトたちが、目を輝かせ、シグルドの元へと集まってきた。
「おぉー! なんだよ! やっぱりすげーじゃねーか、シグ!」
「さすがシグ様ですわ! 魔法が使えなくとも、お噂以上の実力なのですね!」
「凄ーい! 魔獣ちゃんたちみーんな一瞬だったねー!」
「さすがに、あの規模の攻撃は僕じゃ対処できないや。凄過ぎるよ」
「あー、ありがとうな。まぁ、今俺は魔法が使えないからさ、武器頼りになっちゃうけど、何かあったら、ちゃんと護るから、リーダーとして、任せてくれ」
「「「「(おー!)頼りにしてるよ(ぜ)(ますわ)シグ!!」」」」
んー。Fランクのセフのエリアだし、お前たちもそこそこ戦えそうだから、そこまでの反応にならなくてもなぁ。
Bランクのリーン相手じゃあ、こんな小手先の攻撃、どこまで通用するか分からないしな。
だが、そんなシグルドの自己評価をよそに、ルーベルは感嘆していた。
「なんとも……素晴らしい」
不遇とされ卑下され続けている土属性を、これ程まで応用を利かせるとは。
土属性の性質変化。
これは、歴史が塗り替えられるほどの偉業を成し遂げる可能性すらある。
この方は、将来確実に、土属性への偏見など、なくされるでしょう。
「おお、教師人生始まって以来の逸材とあなたのことですよ」
「え? あー、まぁ、劣等生ですけど、頑張りますね」
周りの反応に、苦笑いしか出来ないシグルドだった。
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