第七話 「下剋上宣言」
「……そ……そんな……。先生! 私はシグが最上級魔法を使えるのも知っています! 何度も何度も魔法で助けてくれました! 橙の国のアトラクションの建設だって、シグが魔法で手伝っていたのも、青の国の話だって、有名な話ですよ!」
「ええ、分かっています。ですが、現状それは過去の話。彼が有名だからと言って、それを試験結果に組み込むことは出来ません。何か原因があるにせよ、今現在、魔法がほとんど使えないのは確かです。これからの授業をその状態で受けさせる訳にもいきません。それも踏まえてリハビリをしなさい。自身を見つめ直すのです。クラスは試験結果でいつでも変われます」
「……でも……」
「いいんだ、ティナ。これは試験だから。結果が出せなかった俺に責任がある。それに、俺自身、自分を見つめ直す時間が必要だから、ちょうど良かったよ。魔法について、改めて一から学んでみたいんだ」
「でも、最下位クラスなんだよ? シグが隷位だなんて……そんな扱いされたくないよ……」
「大丈夫だ。必ず次の試験で隷位から脱却してみせるから」
——その時、周囲からシグルドへと嘲笑が起きた。
「……ププッ! お前、何も分かってないんだな! この学園は、クラスごとに配属される食事も、金も、更には今年から全寮制になったから、部屋すらも分けられるんだ! 当然授業のレベルも段違い! だからこそ、クラスを上がれる人間なんて、数年に一人しかいないんだ! つまり、お前の人生は終わりってことだよ!」
こいつ、ルグニオスの取り巻きの、確かペギスだったか。あいつに着いて行かなかったのか? いちいちうるさい奴だな。
「だから! シグは元々魔法が得意だって言ってるじゃない! ここにいる誰にも負けないんだから!」
先程のティナの最上級魔法の記憶が鮮明に残る中、そのティナ本人の意見とあっては、かなり信憑性が高い。
その光景が脳裏に浮かび、ペギスは一瞬たじろぎはしたものの、彼らの前で見せた無力なシグルドの魔法もまた事実であるため、再び嫌な笑みを浮かべ始めた。
「ふん! まぁ、首席が隷位落ちしたのだって、前代未聞だからな! せいぜい元の自分ってものを取り戻すんだな!」
クラス全体が嘲笑に包まれる中、ティナは悔しそうに歯を食いしばる。
「ありがとう、ティナ。俺、頑張るからさ、ティナが俺を庇わなくても良いように、必ず、魔法を使えるようになるから。ティナは冠位で待ってて欲しい」
「……うん。って、シグ? 私の結果はまだ出てないよ?」
「いや、あれだけの最上級魔法を使ったんだ! ティナが冠位じゃないなんて考えられない。ですよね? 先生」
「ええ、その通りです。ティナ・アトリビュート・ジュメイリッヒは、最上級クラスとなります。現時点で、このクラスへ配属となった新入生は彼女だけです。他クラスの試験結果次第では、新入生で唯一かもしれませんね」
「まさか、私が冠位なんて……シグに追い付きたくて魔法の練習頑張ったのに……シグがいないなんて……全然、嬉しくないよ……」
「なんでだよ? 凄く光栄なことじゃないか。俺はティナの実力が認められて、凄く誇らしいよ。それに、目標が出来た方が上達も早いだろ? だから、笑って欲しいな」
「……シグ……」
「ティナは、笑顔が可愛いんだから。笑って俺を待っててよ」
「うん。ありがとう、シグ。私待ってるからね! ちゃんと信じて待ってるから!」
「ああ。案外早く駆け上がって行くかもだから、踏ん反り返ってて良いぞ? あと、やられた分はきっちり俺がやり返すから、ここにいる奴等への仕返しにティナが動くことはないからな」
「なんだと! 調子に乗るなよ! お前みたいな雑魚に負けるわけがないだろ!?」
——その時
シグルドが一気にペギスとの距離を詰め、顔面に回し蹴りを叩き込む。
——ッッッ
だが、顔面に当たる直前。
ギリギリで寸止めされ、ペギスは目を見開いた。
「——ひッ……」
「いい加減にしろよ? ただでさえ思うように魔法が使えなくてイライラしてるんだ。お前らなんて魔法が使えないくらいじゃ、ハンデにもならないんだよ」
そのまま腰が抜け、崩れ落ちるペギス。
間髪入れず
次は、周りの生徒を睨み付ける。
「あまり俺を怒らせるなよ? ティナにも迷惑をかけるなら、俺はすぐ駆け付けるからな」
シグルドの凄みを肌で感じ、後ずさる生徒たち。
——その後
悔しそうに目を背け
ペギスを抱えながら、生徒たちは去って行った。
「ほう。やはり、実力自体は申し分なさそうですね。よろしい、最下位クラスは特別に私が指導するよう掛け合いましょう」
「——え?」
いや、何を言ってるんだよこの人は!
「楽しみが増えましたね。これからよろしくお願いしますね。シグルド・アトリビュート・リオーネ」
「嘘……だろ……?」
いや、物は考えようかもしれない。
かなり強引でサイコパスな先生だし、闇の魔石を使ったのは異常だけど、ルグニオスの最上級魔法が、確実に向上したのは事実。
もしかしたら、俺自身の原因究明に一躍買ってくれるかもしれない。
にっこり微笑むルーベルへと向き合ったシグルドは、ボウ・アンド・スクレープで一礼する。
「シグルド・アトリビュート・リオーネの明るい未来の為に、どうぞご尽力ください」
「エレガント! よろしい! この私ルーベル・ウィニキートス。謹んでお受け致しましょう」
「ウィニキートス!? あ、先生も、リンリンと同じ傍系なんですか?」
「そうですね。挨拶が遅れました。私は、コバルトの弟です。兄が大変お世話になっております。そして、セドリックは、私の従兄弟です。その節は、大変御助力頂いたこと、心より、感謝申し上げます」
「——えッッッ??」
この人、コバルトの弟だったのか。それなら、氷付けの状態のコバルトのことは、かなり心配だっただろうな。
しかも、あのセドリック大公の従兄弟って。
ってことは、コバルトとセドリックも、従兄弟同士だったのか。
「7年前、既にこちらで職員をしておりました私は、青の国の惨事に何も出来ず、リンリンさんから知らせを頂くまでの数日間は、何一つ、情報がなかったもので、気が気ではなかったのですよ。唯一大公城に吊るされたセドリックの死体で、ある程度察しはしましたがね」
そうか。
青刈りの二次被害を防ぐ為に、そのまま隠れ里へと向かったから、情報の伝達が遅れてしまったのか。
「俺は出来ることをしたまでです。ルーベル先生も、青刈りは脅威だったでしょうが、よくご無事で」
「この青紫の髪は、青の民の証明である、私の誇りです。これからも、敵は全て返り討ちにしますのでご心配無用ですよ」
「そうですね。青を隠さず生きているかたは、皆決まってお強いですからね。これから、どうぞ、よろしくお願いします。って言っても、隷位なので基礎からになりますが」
「自身を隷位だなどと言うのはおやめなさい。
学園側は、冠位も隷位も、そのような呼称は認めていません。それに、元々私はあなたのクラスの担当になるつもりだったので、どこのクラスでも本望ですよ。もちろん、試験結果であなたのクラスが変われば、私の受け持つクラスもまた、あなたのクラスになります」
「——えッッッ!?」
そんな横暴は許されるのか!?
仕事なのに、かなり利己的過ぎるだろう!
一人の生徒に執着するなんて!
「在学中、ずっと見守らせて頂きますので、よろしくお願いしますね」
いや、そこまで俺に強い思いを抱いていても、俺を隷位に落とした人だ。
特別視はしても、平等に扱ってくれているのは確かか。
「光栄です! よろしくお願いします」
にっこりと笑みを浮かべ、ルーベルに向き合うのだった。
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