第五話 「掴んだ糸口」
「で? これで闇の魔石の効果ではないことは証明されましたが、あなたはどういった心境で魔法の詠唱をやめ、更には醜い言い訳まで放つのでしょうか? シグルド・アトリビュート・リオーネ」
目を見開き、威圧感を放つルーベル。
「……本当に、魔法が不発しただけです……俺にも……何がなんだか……」
「ほう。今まで使えていた魔法が使えなくなる事例は過去存在しません。それは、突然歩けなくなるような、病気が原因であること以外は、有り得ないお話なのですよ。だからこそ、私は自分の保身のために、婚約者を売った愚か者であることを疑っているのです」
何が起きているのか分からず、口をつぐむことしか出来ないシグルド。
……どう、して発動しないんだ……?
……まさか、本当に無意識にでも、魔法をキャンセルしたのか……?
——その時
ティナがルーベルへと反論した。
「——撤回してくださいッ!! シグはそんなことをする人じゃありません!! いつも誰かを護るために、身を挺して、誰よりも先に動く人です!! きっと本当に何かがあったとしか考えられません……シグの査定は最後にして、少し、休ませてあげてください……」
いつも明るく、笑顔を絶やさないティナが、明らかに怒りを露わにしている。
「……ティナ……」
……俺を、護る為に……
「ほう。それは私が耳にしていた通りの、素晴らしい人柄ですね。ですが、試験を受ける上で体調管理は絶対条件です。延期もしない。あなたも、魔獣の前で体調不良を言い訳にはしないでしょう?」
「で、ですが……」
「ふむ。まぁ、良いでしょう。シグルド・アトリビュート・リオーネ。特別サービスです。ここにいる生徒の査定時間分だけは、待ってあげましょう。闇の魔石も、全て別室に移します。それなら醜い言い訳も出ては来ないでしょうしね。ですが、それでも魔法が使えなかったとしても、戦闘時、あらゆる場面で対処出来ること、それもまた力量です。一人でなんとかしなさい。ティナ・アトリビュート・ジュメイリッヒも、分かりましたね? 手助けはしてはいけませんよ」
「……分かりました」
心配そうに視線を送り、ティナは唇を噛む。
——ドクンッッッ。
情けない……
ティナに護られてばかりだ……
魔法なんて、赤ん坊の頃から使ってたんだ。使えて当たり前なのに、なんで発動しなかった……?
原因が、必ずある筈なんだ……
とりあえず与えられた時間の中で、無詠唱で試してみるしかない。
一人、また一人と生徒の査定が続いていく中、修練場の部屋の隅で自身の魔法についての検証を始めるシグルド。
「『プラウサラス』」
発動しない
「『クィックサラス』」
発動しない
「『プロテクトサラス』」
発動しない
……な、んでだ……
やっぱり……発動しない……
……いや、諦めてたまるかよ……試しに砂魔法もやってみるか……
「『ダンスサラス』」
——すると
薄らと、橙色の光が灯り、砂が、舞い上がった。
「——!?」
使え、た——?
いつもの砂嵐みたいな威力じゃないけど
ほんの少し……
集めても、掌に収まる程の少しの砂だけど
ちゃんと、舞ってる……
良かった!!!
魔法が使えなくなったわけじゃないんだ!!
……じゃあ、原因はなんだ?
なんで砂魔法は使えて、今まで使いまくってた土魔法が使えないんだ?
ふと、顔を上げ、生徒たちが次々と査定を終えていく様を眺める。
すると、橙の国の生徒たちが放っていく土魔法で生成された土が、どんどん溜まっていってることに気が付いた。
土だ——。
屋内だから、さっきまでまったくなかった土がある。
確か、エイシャリアが言ってたな。
土は魔法で生成するものだって。
土以外でも、水でも火でも魔法とは、無から有を作り出す、『生成』が基本的なことだって。
俺はずっと土属性は土を『操作』する魔法だと思ってたから、あの時、かなり驚いたんだった。
『操作』、か。
ケマンソウの妖精のハーティにも、俺の魔法が特別だから、誰にも教えて貰えないって言われたんだよな。
もしかしたら……
俺は、無から土を作り出す、『生成』の魔法じゃなくて、土そのものを操る、『操作』の魔法しか使えないんじゃないのか?
前世と違ってアスファルトがないから、常に、土や砂がある環境だったから、気付かなかったけど、青の大公城での魔法の不発も、屋内だったからなんじゃ……
ここにもさっきまでは、土がなかったし。
今みたいに少量の砂魔法が成功したのも、靴の底に付いた微量の砂を操作してるんだとしたら
あの青の大公城での不発も、大公城に辿り着くまでに冷え切った氷や雪の足場を踏んでいたから、砂が固まってしまっていたからなんじゃ?
それなら、それなら……
今、生徒たちが生成した土が目の前にある
今なら……
土属性魔法が……使えるんじゃ……ないのか……?
「シグルド・アトリビュート・リオーネ」
——その時、シグルドを呼ぶ声がした。
逸る気持ちを抑えられないシグルドへと、ルーベルが声をかけたのだ。
「ほう。先程までとは違い、その自信に満ちた瞳、悪くないですね。さぁ、シグルド・アトリビュート・リオーネ、あなたの番ですよ」
「はい!」
今なら大丈夫だ!
きっと、やれる! やってみせる!
立ち上がり、査定へと赴くシグルドだった——
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