第四話 「本質の問い」
「おはようございます。では、修練を見せて頂きましょうか。説明の通り、現在上級、中級、下級の、3クラスに分けられていますが、この試験結果で更に最上級、最下級の2クラスを追加した5クラスに再編されます。心して取り組んで頂きたい」
朝の挨拶も早々に、修練場に移動した生徒たちは暗い表情を浮かべる。
無理もない。
ここから、最上級の『冠位』と最下級の『隷位』が追加されるんだ。
属性色を持たない奴らが大半の中で、この査定がどれだけ大きなことなのかは、想像に難くない。
それだけの覚悟を持って、挑まないとならないんだ。緊張して当然だろう。
「では、お手本に、首席である——」
「——お待ちください。俺も国の代表です。俺に、やらせて下さい」
——ルーベルの言葉を遮った茶髪の生徒。
それは、赤の国の代表生徒である、ルグニオスだった。
「おや、意気込みは素晴らしいですが、最初の査定とは、基準でもあり、極めて厳しい審査となります。それを遮ったあなたには、より査定が厳しいものとなりますが、よろしいので? ここで辞退なさるならば、見なかったことに致しますよ?」
——ザワッッッ
生徒が口々にざわつき始める。
そうか。ルグニオスは、赤の国の代表だけど、属性色を持っていないもんな。
茶髪に灰色の瞳だからこそ、この査定に懸けてたんだろうが、見るからに厳格そうなルーベル先生がより厳しくすると言ったら、最上級への登竜門は、針に糸を通す程、厳しいものになるんじゃないのか!?
「おい、ルグニオス。先生の指名は俺なんだ。ここは下がった方が——」
「——黙れ! 土属性如きが、良い気になるんじゃあねぇ! 俺はルグニオス・アトリビュート・ペントームス! 同じアトリビュートのお前とは同格だ! それなら、劣等属性の土なんかに、俺の火属性は負けねぇ!」
——くッ。
確かに攻撃力の一番高い火属性は、一番高火力だが、これは修練度を見る試験なんだ。
熟練度を試されてるのであって、属性は関係ない。
やはり、こういう輩には、目に物を見せてやらないとな。
前に出ようとしたシグルドだったが、ルーベルの乾いた笑いが、それを制止させた。
「ふふ、ふふふ。ほう、その意気や良し。では、あの的に向かって、己の最大魔法を放ってみたまえ」
——ヤバいッ、ぞ……
肌にビリビリ感じる。リンリンに似た、強者の威圧だ……。
「へッッッ! 分かってるよ!! 見せてやる! この俺の、最上級魔法をな!
火を司る精霊イオンよ。
我が魔力を以て
この赤き猛々しい怒りの波動を贄に
荒れ狂う業火の奔流となり
我が敵を呑み込む力を顕現せよ!
『インフェルノ・フューリー・トレント』」
詠唱と共に、赤く光り輝き顕現した業火が
激しく勢いを増し
まるでドラゴンのブレスのように
的へと放たれた!!
「キャーーーッッッ」
あまりにも激しい魔法のため、生徒からは悲鳴が聞こえる。
業火は赤い熱を持ち
的全体が、火柱を立てながら燃え盛る。
——しかし
火を纏っているものの、的は微動だにしない。
それを見たルーベルは、ため息を漏らした。
「まったく、残念でなりませんね。それでは的に当てただけ。的は一切傷の一つも付いていませんよ。奔流とは、こういうことを言うのですよ。
水を司る精霊ルフよ。
我が魔力を糧に
青き清流の怒りを以て
激流より生まれ落ちし龍を模した渦潮よ
我が敵を穿つ力を顕現せよ!
『タイダル・メイルストローム・トレント』」
——これは、アシュリーが使った水の最上級魔法!!
顕現された水龍の如き巨大な水流。
——直後
激しく渦を巻く水流が
どんどん激しさとスピードを加速させ
一直線に的へと向かい
木っ端微塵に、粉砕したのだ!!
——なんて、威力だ!! この魔法は、こんなに威力のある魔法だったのか!!
通常、四属性の中で最も高い攻撃力を誇る火属性魔法が、同じ最上級魔法の水属性魔法に攻撃力で負ける筈はない。
それは、ひとえに修練不足。下手をすると、この火属性の最上級魔法は、未完成である可能性すらあり得る。
その実力の違いを見せつけられたルグニオスは、わなわなと震える。
「……なん、だって……」
「なんとも嘆かわしい。確かにあなたはアトリビュートであり、赤の国の代表生徒です。だが、それでも新入生の中ではたかが三位、首席でも次席でもない。そのような完成されてもいない最上級魔法で粋がるなど、言語道断。最下級クラスからやり直しなさい」
——最下級クラス!?
あれが火属性の最上級魔法の完成系かは、俺には分からないけど、それでもそこまで低い査定結果をくだされるものなのか!?
「……お、俺が、隷位……? ……そんな……!! それだけは、それだけはやめてくれ!! 俺が、俺が隷位なんて……そんなわけ……」
「……まぁ、冗談はさておき。最初に査定をしたあなたが、これからの査定の基準になる以上、最上級魔法を使えない生徒は、皆、最下級クラスにならざるを得なくなりますからね。残念ながらそれはできませんから。ひとまず、上級クラスのままにはしておいて差し上げましょう。ただ、私に盾付いた責だけは負って頂きますがね」
そう言って、ルーベルは黒い魔石を取り出した。
——あれは、闇の魔石!?
青の国で、セドリックが使っていた
デバフ効果の、魔石……!?
束の間の安堵の直後、ルグニオスの顔は、どんどん青ざめていく。
「……な、なにを……するんだ……」
「まぁ、何も魔力そのものを押さえ込む訳ではありませんよ。ただ、枷を敷いて貰うだけです」
迫り来るルーベルに、激しく抵抗するルグニオス。
「仕方がありませんね。
水を司る精霊ルフよ。
我が魔力を糧に
青き静寂なる微睡みを以て
我が眼前の者を縛る波紋を顕現せよ!
『バインドザーム』」
一枚の暗い青色の膜のような水魔法が、ルグニオスへと放たれる
「——うわぁッ!!」
——バシャッ、と、ルグニオスに水がかる。
「な、なんだ……何を……したんだ……」
「あまり知られていない魔法なんですがね」
「……動け、ない……」
その光景を見ていた生徒たちの表情は、どんどん青ざめていく。
なんだ……この魔法は……
……この先生は……ヤバい
「では、枷を。これは、魔法が使えなくなる訳ではありません。怖がることはないのですよ」
「やめろ……やめろぉぉぉぉ!!!!」
くっ、さすがに見ていられない!!
「土を司る精霊ラゴンよ。
我が魔力を糧に
橙の生命の大地で
我ら護る盾を顕現せよ!
『プロテクトサラス』」
ルグニオスを護るため、シグルドは、咄嗟に土魔法の盾を唱える。
「女神よ我が歌が届くなら
我が敵から我が身を護る
聖なる光を与え賜え
我が身は女神の御使い
聖女である我が歌が届く限り続く強固なる盾を!
『セイクリッドプロテクション』」
——同時にティナからも、神聖力の盾が放たれる。
——しかし
ルグニオスの前には、白く輝く聖なる盾だけが顕現されたのだ。
「おやおや、あなたも私の邪魔をするというのですか?聖女ティナ・アトリビュート・ジュメイリッヒ」
「やり過ぎですよ。教職員であるのなら、生徒への指導は生徒の為にあるべきです」
「おぉ、素晴らしい。あなたはとても素晴らしい」
——その直後、くるりとシグルドへと向き直るルーベル。
「ですが、あなたはどうして詠唱をしておいて、魔法を発動しなかったのですか? 土の神童であるあなたが」
——な、んで……なんで魔法が……発動しない……んだ……?
「まさか、あなたは婚約者である女性を盾にする為に、魔法の発動を止めたのですか?」
……いや、俺は……確かに……
……そういえば、前にも……こんなことが……
いつだ……?
——そうだ……
「……以前も、青の大公城の中で……セドリックが闇の魔石を使った影響で……当たってもいないのに……魔法が使えなかった……」
「ほう、それは興味深い。その時の魔石はどんな効果が?」
「……ルフの、聖獣の魔法を完全に封じる……効果が……」
「ほう。では、これは関係ありませんよ。この魔石は、魔法が使えなくなる効果はありません。むしろ、ただ、垂れ流すだけのホースの蛇口を窄めるが如く、マナの放出を1点に集中させる効果のある物です。これをマスターすれば、あの様に威力のない奔流を放つ事なく、魔法の精度が上がります」
言葉を放つと同時に、ルグニオスの前に立っているルーベル。
まだ、生徒の誰もルーベルの言葉を理解する間もなく、ルグニオスの手の甲に闇の魔石を埋め込んでいく。
「——え?」
埋め込んだ闇の魔石は、黒い光を放ち、ルグニオスを包み込んだ。
「う……うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ちょっと、先生!!!」
ティナが必死で抗議をする光景を、シグルドはただ見ている事しか出来ないでいた。
な、んだ? 俺に、いったい何が起きてる……?
なんで、魔法が……?
闇の魔石のせいでも、ない……のか?
「まったく、落ち着きない。では、ルグニオス・アトリビュート・ペントームス。もう一度、最上級魔法を放ってみなさい」
——パチンッ、とルーベルが指を弾くと、ルグニオスを拘束していた水魔法は霧散した。
拘束から解かれたルグニオスは、闇の魔石が埋め込まれた自身の手の甲を押さえながら、忌々しそうにルーベルを睨み付ける。
「たかが、一塊の教職員が……この俺に……」
「戯言はよろしい。さぁ、やりなさい」
——だが、ルーベルは、さも、当然と言うように、淑女をエスコートするような仕草で、的へと手を差し出した。
「くっ、クソが!!! やってやるよ!!!
火を司る精霊イオンよ。
我が魔力を以て
この赤き猛々しい怒りの波動を贄に
荒れ狂う業火の奔流となり
我が敵を呑み込む力を顕現せよ!
『インフェルノ・フューリー・トレント』」
先程と同じく、顕現した業火が激しく勢いを成し、まるでドラゴンのブレスのように的へと放たれた。
——だが
その業火は、凝縮され
一本の奔流となり
一直線に的へと向かい
まるで、ルーベルの水の最上級魔法の様に
木っ端微塵に、的を粉砕したのだ!!
「な、なんだこれは……」
——あ、明らかに威力が増したぞ……魔法ってこんな使い方もあるのか……
確かにホースを摘んだら、水の威力が格段に上がるのなんて、常識だけど
魔法でも、こんな事が出来るなんて……
「ふむ、よろしい。その感覚に慣れるまではその枷を外しませんので、精進なさい」
「……あ……あ……」
言葉も出ない生徒たちをよそに、ルーベルはシグルドへと向き直る。
「で? これで闇の魔石の効果ではないことは証明されましたが、あなたはどういった心境で魔法の詠唱をやめ、更には醜い言い訳まで放つのでしょうか? シグルド・アトリビュート・リオーネ」
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この物語は日・水・金の19時台に更新します。
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