第五話 もしも貴方が願うなら
自分たちはいつも一緒だった。
一緒に行動をして、一緒に戦って、一緒に生き、煮湯を飲まされることもあった。怒られたり、悲しいことがあったりしてもいつもソレを共有して。
いつの間にか、自分たち二人がいつも、と言うのがどの人間から見ても共通事項となっていて、勝手に組まされて勝手に親友扱いされて。
その日の見回り任務もまた、それが理由で一緒に組まされていたと言ってもいいだろう。
タリンとサレナ。二人はこの広大なる移動国家の中をずっと歩き回って敵がいないかを目視にて確認していた。
「今のところ、敵はいないみたいね……」
「まぁ、よしんばいたとしてもウワンさんが見つけてくれてるでしょ?」
サレナは肩を窄めながらそうねと呟いた。確かに、彼女はこの国に害をなすものが入った瞬間に探知能力が発動し、敵の動きを察知することができる。実際にマナゴから侵入した間者をすぐさま探知し、その範囲を狭めていくことによって追い詰めて言ったのは、彼女たちの頭の中でも真新しい事実だ。
という事で、この警戒任務という物自体も、あまり意味をなさない物。九十九%安全であるが、ほんのわずかな一%の可能性を消すために山中を歩き回っていると言うだけの、あまり意義を感じる事のない行為であるのだ。
詰まるところ、彼女たちは今かなり暇なのである。
故に、なのだろう。例の話に移り行くのは当然の話だった。
「サレナ、貴女はどうするの?」
「どうするって?」
「イェンエンの」
「答え、聞く必要ある?」
「……」
即答だった。当然、タリンの答えも同じだったから。
「もう、聞く必要もないわよね」
「えぇ、そうね」
聞く必要も答える必要もない。自分たちは次の戦に参戦する。例え、何があったとしても。この国の中でも最古参、と言えるのかもしれない彼女たちは。最初に国を作ることを宣言した時から、一番最初から仲間として国に入国した人間たちの内の二人。
命の危険が目の前にあったとしても、死に類する毎日が待っていたとしても、ソレを望んでこの国にやってきたのが奇特な人間が、この二人を含めた元ヴァルキリー騎士団リュカ分隊の数名。
だから、彼女たちに断ると言う選択肢は与えられていなかった。
「……ねぇ、タリン」
「何?」
「……今夜、家に来ない?」
「……」
ふとこぼしたその言葉に、サレナは訝しむ。どうして、いきなりそんな言葉を使ったのかと。いや、決まっている。二人ともが同じことを感じていたから。
「それで、生を実感できるのなら」
サレナは、笑みをこぼしながら冗談めかして言った。
まったく、こういったやり取りをしているから自分達が相棒みたくなってしまっているのだと彼女は思ったそうだ。
そう、いつも同じ。命のやり取りをする前、これが最後、コレでもう終わりかもしれないと鼓動を早くして二人一緒の寝床に入って互いの命が近くにあることを確かめている。
そんなことを毎回のように戦前後に行っているのだ。
毎度毎度、互いの命がここにあることを再認識するために。
そうしなければならない程、この国で経験する戦は激しい物であると言う事の証左であるのかもしれない。明日死ぬか、明後日生きて居られるかの瀬戸際に立たされる。そうやって神経をすり減らしている少女たちにとっての数少ない娯楽がそれであるのだ。
悲しい事なのかもしれないが、それが現実、生の実感をなんら与えられることのない国に居続けると言うこと。覚悟。信念。
ここ国の大地を踏み荒らしているのが、自分たち。数少ない食料という命の恵みと残火を喰らう自覚をしているからこそ、二人は何とか生きて来られているのかもしれない。そう思いながらそろそろ交代要員が来る頃だと考えて居た時、二人はある人物を見つけた。
「あ……」
「どうも」
マナゴの国から同伴している少女、クォーツである。彼女は、その手に何かキラキラした物を持っていた。鉱石、だろうか。
「それって……」
「ロウがとってきてくれたもの……でも質の悪いの……」
話を聞くに、どうやらケセラ・セラの配下のロウ数匹がクォーツ専任の鉱石探しの任についているそうだ。
そもそもロウという種族自体が二十数匹しかいなかった。ソレは自分たちが合流する前のいざこざが原因だというが、ケセラ・セラの一族の数の少なさに関してはリュカも少し思うところがあったらしい。そのため、旅が始まってからほとんどが戦に出っ張ることはなく、大体がこの山の中でのんびりと暮らしながら、繁殖の機会を待っている状態であるのだ。
その中でも、特に探索能力に長けたロウが時折ヴァルキリーから飛び降りて鉱石を探したり、他色々な食材をこの国に持ってきている。
ロウというのは瞬発力と鼻がいいらしい。二日三日離されても絶対にこの国に戻って来るし、何らかの成果を一つ二つ持って帰って来る。帰巣本能という物なのだろうか。それが国に根付いているのか、それともケセラ・セラという人間に根付いているのか分からないが、何にしてもその行動力には目を見張るものがあった。
そして、そんなロウが持ってきたのが今クォーツが持っている鉱石、であるようなのだが。どうやら芳しくない成果らしい。
「そう、残念だったわね。マナゴから出たら質のいい鉱石が手に入るはずだったのに」
そもそもクォーツがこの国に入ったのは、質の高い鉱石を手に入れて、綺麗な宝石を作るためだった。でも、それが彼女曰く質の悪い物ばかりであったのならば、裏切られた気分になってもおかしくないだろう。
そう考えての言葉だったのだが、クォーツは首を横に振って言う。
「ううん、違う。ちゃんと質の良い鉱石も持ってきてくれる。でも、時々こうやって質が少しだけ劣る鉱石が混じってて……今、最終判別をし終えたところ」
ソレを聞いて安心したタリンは、『そう』と息を吐くように呟いた。
「その鉱石はどうするの?」
「子供たちに、使ってもらう」
「子供たちに?」
「何人か、宝石づくりに興味を持った子がいるから……」
「そっか……」
それがミウコか、あるいはニカムリバ、もしかしたらマナゴの子供たちなのかもしれない。そのどこかの子供にとって一つの目標、夢のようなものが彼女によってできたのならば、幸いなことだろう。
クォーツが言うには、確かに宝石づくりには魔力が必要だが、ちょっと時間と手間をかければ魔力が無くても宝石を作ることができるそうなので、魔力のないニカムリバから来た子供たちにも、宝石を作ることができるそうだ。
そう言うと、クォーツは鉱石をじっと見つめて呟いた。
「でも、力の使い方を間違えないようにしてあげないと」
「どういうこと?」
「宝石を作る魔法は危険。下手をすれば、生きている人間や獣を、宝石に変えてしまうから……」
「……」
「そのためには、相手の構造を知っておかなければならないけれど」
クォーツははかなげな笑みを浮かべて言った。そう言えば、この子マナゴでの戦いのときにマナゴの兵士を宝石に変えて倒していたなと今更ながらに思い出す。考えてみればあの魔法はかなり特殊であり物騒な物、一度敵に触れさえすれば、あっという間に敵を宝石に変えて殺せてしまう。そんな他の追随を許さないのではと思うほどに凶悪な魔法を、彼女は使えるのだなと思うのと同時に、一体どれだけ彼女が恐れられてきたのか、そんな実情が、言葉の端々から漏れているような気がした。
「ニカムリバから来たリーゼさんが言ってた、裏競売では宝石にされた女の子が売られていたって」
「……」
「宝石で作られた女の子は……高値で売られていたんだって」
「……」
「だから、もしこの国が路頭に迷ったら私が宝石になって売られるから安心して」
「「いや何の話!?」」
「場を和ませようとしたんだけど……」
体型には自信があるんだけどなぁ、なんて続けた彼女。どう考えても場を和ませるための話題ではない気がするのだが。
いきなしにとんでもない話をブッ込んできたことにタリンとサレナはついついツッコミを入れてしまった。一瞬だけ[シリアス]な話を放っておいて、最終的には[ブラックジョーク]に転嫁させるなんて、もしかしたらこの子、意外と腹黒なのだろうか。そんな思考を抱いてしまうのも当然の事であっただろう。
そんな日が来ないことを祈りつつ、しかしその手もあったなと思ったサレナは言った。
「ねぇ、クォーツ……」
「ん?」
「もし、何だけど……」
そんな日が来ないことを再度祈りつつ、彼女はあることをクォーツに頼んだ。




