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武龍伝〜貴方の世界を壊した転生者〜 魔法当たり前の世界で、先天的に魔力をあまり持っていなかった転生者、リュカの欲望と破滅への道を描いた伝記録  作者: 世奈川匠
第12章 縁と書いてエン、終焉と読みてハジマリ

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第一話 異世界の常識

{綾乃さん、喜んでくれるかな?}


 その日も、アサカはヴァルキリーの中でいつもと同じような生活を送っていた。が、しかしいくばくかの不安を彼女が襲っていた。

 そう、羞恥心の欠落である。

 この世界、というかこの国に来てからずっと彼女は周囲にいる人間を観察していた。その顔色、疲れ具合から今日はどんな料理が喜ばれるか、適切なのか見極める。

 それから、明日はどんな材料が入って来るのか等期待に胸を膨らませて、献立を考える毎日を送っていた。しかし、だからこそこの国の異様さが目に付いた。

 下着を履くことなく歩く女性たち。中には短めのスカートを履いて、走った瞬間に下腿が露出するような女性もいて、同じ女である自分もつい顔を赤くしてしまう。この国の女性たちはそんなの気にしないとばかりに走って飛び回って、時には堂々と服を脱ぎ去って日光浴をしている人間もいる始末。噂によると、最近夜裸で過ごす人間も徐々に多くなっているのだとか。

 そんな、いろんな意味でおおっぴろげにしている女性たちを見ていると、下着をちゃんと履き、そしてそこから漏れる尿に対して恥ずかしがっていた自分の方が間違いじゃないのかと思うときが多々あるという。

 これは、産まれた世界の価値観の違い、であろう。当然アサカの世界の過去にだって、女性が下着を履かないという文化が存在した。しかし、その文化はある事件を境としてどんどんと廃れて、今では裸族を除いたほぼすべての人間が下着を付けている。

 対して、この国は綾乃、ではなくてリュカがエリスに提唱するまで下着の文化がなかったという。こういった文化の違い、文明の違い、価値観の違いに対して文句を付けてはならないことを十分に理解している。

 そもそも自分は彼女たちからしたら完全な異物。この世界にあってはならない存在。そんな人間があれこれ文句をつけるのは筋違い甚だしいのだ。

 けど、だけれども思う。自分よりも美しい女性たちが嬉々として裸で走り回るのはどうかと。

 そんな光景をいつもの光景だと思うようになってきた自分の羞恥心が薄くなってきた現実を。

 こんなことに慣れて、もしあの世界に戻れたときに元の生活に戻ることができるのかという不安を。

 そんなことを考えながら、その日の昼食である≪野菜をふんだんに使った特性焼き飯≫を調理していた時だった。


{アサカ、今日……何、作ってる?}


 と拙い日本語で彼女に問いかける人物がいた。リーゼである。


{あ、リーゼさん……じゃなくて}

「こんに、ちは……リーゼ」


 アサカはこちらも同じくこの前覚えたばかりのこの世界の言葉でリーゼに返事をする。やはり自分が使っているのとは別の言語、それも異世界の言葉というのは普通に言葉を覚えるのよりも難しい物だ。

 加えて、彼女は元の世界の{エイゴ}という世界的に標準的な言語になっている物を習得するのもできなかった人間だ。なので、ゆっくりとこの世界の言葉を覚えるようにと、リュカからは言われた。かくいう彼女自身も五年間かけてこっちの世界の言葉を覚えた、いや覚えさせらてようやく人並みにしゃべれるようになったというので、それまでこっちの世界にいたら彼女くらいぺらぺらとしゃべれるのだろうか。などと、普通に考えたら嫌な妄想を思い浮かべたところでリーゼが淡く微笑みながら言う。


「今日は、ニカムリバの野菜と獣の飯か」

「はい!」


 この言葉は何度も言っているから簡単に理解することができた。というよりも、リーゼの方がアサカに会わせて同じ言葉を反復することによって覚えてもらう方法を取っているという感じだ。

 リーゼの他にも同じ言葉を使ってアサカに話しかける女性が福数人いる。自分に気を使ってくれているというありがたさと、どこか迷惑をかけているのではないかという不安を感じてしまう、がしかし羞恥心への不安に比べればまだマシな方の部類だと、思うようにした彼女は言う。


「わたし……まだ……しゃべれない、ことば……」


 まだまだ言語を覚えたての赤ん坊のような拙い言葉を聞いたリーゼは、やはり優しく微笑みながらアサカの頭を撫でながら言う。


{この世界、言葉、難しい。少しずつ、覚えていく。私も、アサカも}


 と、普通ならこの世界の言葉だけで十分なはずなのに、自分に会わせるために異世界の日本という小国の言葉を頑張って発語しようとしてるその姿に、やはり申し訳なさがあったアサカ。がしかし頭を撫でられている感覚は悪くはなく、照れ笑いを浮かべながらも言う。


「ありが、とう、ございましゅ!」

{違う、正しくは}

「ありがとう、だ」

「あ、りが、とう……ありが、とう……ありがとう!」

「それでいい」


 少しずつ覚えていくしかないのだ。この世界で生きるために、この世界の優しい人間たちの負担を少しでも減らしていくために。少しずつ、少しずつ。

 ところで、アサカはこの国に来た料理人の例にもれずもれなく個室を与えられているのだが、その床は吸収性があり、消臭効果のある鉱石を使用しているのだそう。一体、何のためにそんなことをしてくれたのかに関しては、みなまで言うまい。

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