第十二章 序章
宗教国家イェンエン。通称≪神の国≫と呼ばれている。
その国は、既に存在していない神様と呼ばれる存在を絶対的な神と認定し、それ以外の統治者を世間的には置いていないこととなっている。
かの国は、神によって守られているとも言われており、その周囲を神木から拝借した木々で囲んでおり、またその信仰心は厚く、神のためにという名目であれば死んでも構わないと国民は本気で考えて居るのだそうだ。
この世界を作った神、それはこの世界に最初に降り立った物とも、あるいはこの世界から悪魔を完全に排除した英雄だとも言われている。イェンエンはその神の教えとして≪自身に害をもたらす存在は徹底的に排除する事≫を守り抜き、また≪命は粗末にしてはならぬもの≫という言葉を何百、あるいは何千、何万年と受け継いできた信心深いお国であった。
故に、武装蜂起や武力鎮圧などをほとんどせず、世界情勢に関しては完全に中立の立場を担ってきた。
あの、クラクやエイミーの両親が死亡した例の世界大戦もそうだった。それが起こった理由も定かではなかったが、とにかく多くの国々が戦力を持ち合い、大きな戦に発展。危うく他の者達をも巻き込む戦争の勃発まで引き起こすことになりかけた戦は、しかし最終的にはイェンエンが仲裁に入ることによって和解、イェンエンのその力と世界中からの信仰心の厚さ、そして影響力という物を世に知らしめた。
以降、俗称としての絶対的神国という名称が独り歩きする程にかの国はありとあらゆる国で信徒を増やし、今年で建国九千と少しを数える長寿大国となっており、何か危機的な状況に陥れば多数の国からの援助をもらい受ける信頼を受ける国となっているのだ。
そんなかの国に対して。
「戦争、するよ」
と簡単に言えばそう言ったわけなので移動国家ヴァルキリーは騒然となったわけで。
果たして、この選択を、私たちは甘んじて受け入れるべきなのか、ソレを考える時間もなくついに国は発進した。
考えて見れば、この一連の事件が、始まりだったのかもしれません。
全ての常識を。
命を。
人生を。
可能性を。
そして人間を狂わせる転生者リュカ。
これまでのすべてが今回のための序章に過ぎなかったのかもしれない。
そう、ここから全てが始まるのだ。
この事件から、彼女の本当の意味での天下取りへの道のりが。
いや、違う。人間を狂わせる、というのは間違いだ。
人間はいつだって狂ってしまう物なのだ。例えどれほど心の強い人間であったとしても、例え周りがどれほど明るい人間であると言っても、それでもなお人間は心の中に闇を隠し持っている。
今回の事件は、そんな人間の中に潜んでいる心の闇、悪魔を解き放った事件。そう、言えるのかもしれません。




