幕間
ジャガイモ、ニンジン、それから玉ねぎとお肉。私はそれを鍋の中に入れてグツグツと煮込み続ける。十分、いや十五分だろうか。ここには、[キッチンタイマー]なんて物はないからなんとなくの間隔でゆでなければならない。
外は雷雨。ゴロゴロと音が鳴り響いて正直恐ろしい。アサカはそう思っていた。
{リーゼさんは濃い味付けが好きだったんですよね}
お玉でかき混ぜながら彼女は呟く。美味しくなれという魔法の言葉と、今日も一日無事に終わりますようにという願いを込めて。
この世界に来てから、彼女にとって毎日が過酷そのものだった。毎日毎日死の危険と隣り合わせで、寝るのすらも怖くなるくらいに、明日が来ないかもしれないと思うほどに恐怖とともにあった。でもそれでも彼女はその国から降りると言う選択肢を取らなかった。
別に、取れなかったわけではない。マナゴという国との戦が終わった時には、イホの国への移住もまた進言された。イホは安全な国で、戦争は時たまするけれど国民が戦争に巻き込まれることは絶対にないちょっと矛盾気味な国。でも、それ自体は前世の世界でもおんなじだった国。
そこにいれば安心であると、そうリーゼから促された。でも、自分は拒否した。
多分、気になったからだろう。転生者、リュカの事が。
あの子のお姉ちゃんだった存在である少女の事が。
前世で、自分が出会ったときには明るくて、眩しくて、外見なんて当然関係なく内面が素晴らしい人で。時々遊びに行ったときには笑顔でもてなしてくれた。そんな女性のことが、どうしても気になった。
多分、転生者だから。自分のクラスメイトが嫌っていると言うソレだから。
その男の子は言っていたのだ
{転生者は侵略者の事……か}
明確に、転生者という存在がどのような物なのかを表している言葉だと思う。最初は、どうしてと思ったけれどよくよく聞いてみると確かだと思うような正論で、その説得力は周りのクラスメイト皆彼の言葉にどこか納得してしまう程であった。リュカの、竜崎綾乃の妹もまた、その子の言葉に同調してより説得力を増すような言葉を付け加えていたし、正直、自分だけじゃない。あのクラスの全員が転生者という物を良い目では見ていなかったはずだ。
だって、もし自分の世界に転生者がいたとしたら、とても恐ろしいから。
鍋の中身と同じだ。たくさんの具材がごちゃ混ぜになって、別の味付けをしたら違う料理になって。
それが、人によっては美味ある物になれば、でも人を殺す毒になることもある。口にするまでその味は誰にも分からない、恐ろしい物なのだ。それが、料理。それが、転生者。
{綾乃さん……}
アサカは曇天の空を見上げる。その先にあるはずの青空なんて、見えるはずがなかった。
まるで、この世界と自分の世界を隔てている壁のように感じた。




