第四十八話 必要とされる、その時まで
「捜索の手を休めないで、巻き込まれている人はいないとは思うけど……」
「けが人は皆こっちに回して! エイミーが回復させるから!!」
{はい暖かい【スープ】です。飲んでください}
「吸い物のようなものだそうだ。口にあうか、分からんがな」
元、マナゴの国の領地。そこはもはや瓦礫の山と化していた。もう、そこに元国があったなんて分からない程に粉々になったその土地で、生きている者がいるかもしれない。
ソレをなした者たちは、そのすぐ近くにあるイホの軍の陣地の中にかくまったマナゴの国民たち共々腰を下ろしている者半分、しかし現場で指揮を取る者とり救助活動を行う者と分かれる。
鉄の球によって周囲を囲まれていた人間たちを瓦礫の中から救助し、けが人はエイミーやキンが回復させ、そして料理の上手なリーゼやアサカ達が避難民に料理を振舞う。また、いないとは思うが崩落に巻き込まれた人間がいないかの捜索も継続していた。
なお、そのさなかで元国王の死体が発見された。瓦礫によって身体を傷付けられたためかかなり損傷が激しくて区別がつきずらなかったが、場所が場所だけに特定してほぼ間違いないはずだ。
元国王の死、そして土地の崩落。この二つによってマナゴという国は事実上消滅したと言ってもいいだろう。となると、問題は彼女たちが救助したマナゴの国民であるのだが。
「それじゃ、元マナゴの国民は全員イホの国が引き取るんですね」
「あぁ」
そんな言葉を交わすのは、リュカとイホの国の副将であるイトナである。イトナの方から、イホの国の女王からの手紙での文章でのみ締結していた同盟を再度締結させたいとの申し出があったのだ。
リュカは、他の兵を刺激してはならないという理由で一人で向かうと提案したのだが、流石にソレは危険すぎると言う事でレラと鉄仮面の二人、そしてその後ろにメンカとトア、人質という体裁をとっていたセキーヌを連れて来た。イトナの方もまた、マモウを含めた数人の兵士を背後に付けており、なかなかの威圧感を感じ取る。
天幕の中に入り、イトナが用意した椅子に座り、彼女から提出された同盟のための書類にざっと五回は繰り返し目を通した。自分たちの国に不利になるような事は書いていないはず。一応レラにも見せるが、今のところは大丈夫なのだと言う。けど、実際問題こういった国同士の政治的なやり取りに関しては今までにやったことはないし、ニカムリバの時も最終的にはレラがあいだに入ってくれたのでやはり彼女は頼りになる存在だとありがたがる。
その中で、文章に更に一文加えたいと提案してきたのはイトナ、そしてその提案というのがマナゴの元国民を引き取るという提案であったのだ。彼女は続ける。
「敵対していた国であったとはいえ、あの様な者の下で働かされた国なき難民だ。我々の国で引き取ることにする」
「何年も、怯えて暮らすことになりますよ?」
「ふ、その程度の事で怯えるような人間は、我が軍にはいないし怯えさせるような国民もいない」
なるほど、復讐をさせないし、させる心を持たせるようにはしないと言う事、か。恐怖政治をしようとは全く思ってはいなさそうだが、しかしはたから見ればそう思ってしまう。
が、マナゴの元国民にとっては自分たちは国から、そして王から捨てられた存在。そして今は自分たちの属する国もなく、右往左往するしかない状態。そんな中で、受け入れてくれると言う国があること自体、嬉しい事なのかもしれない。
本当は、自分だって同じようなことをしたい。だが、移動国家ヴァルキリーの住民は子供たちを除けばほぼ全員が兵士、戦闘に特化した人間しか受け付けることができないしまだ守れる自信がない。自分たちの身を自分たちで守れる人間しか受け入れることができないのだ。
なので。
「流石……それじゃ、私からもお願いが」
「なんだ?」
「その難民の中から、私と一緒に戦ってくれる子たちを連れて行っていいですか?」
少しばかりは、こっちにも戦力という形でマナゴの国の難民を受け入れることくらいはできるであろうか。そう考えての言葉だった。
「ほう、戦力補給か? だが、いたのは素人か、新米の兵士くらいなのだろう? いいのかそれで」
「いいんです。戦いたいって言う人を集めて回るのが、私たちの国ですから」
イトナはこの時、それはもはや国家というよりも傭兵の集まりではないのかと感じたと言う。しかし土地があり、住んでいる国民がいて、その国を愛している。その時点で、そこはただの土地ではなく国となる。そして、その国を国であると立証している人間が多くいる。であるのならば、国として認めなければならない。
なんとなく、イトナは自分の母親がこの国と同盟を結んだ理由が分かった気がする。
似ているのだ。感覚が。柔軟な発想というか、奇天烈な考えというか、とにもかくにも他人には考え付かないような発想をするこの人間性が、母と似ている。そう感じたのである。
イトナはため息をついてから言った。
「いいだろう。我がイホの軍も、えりすぐりの≪女兵≫を提供しよう」
その言葉に、眉が少しだけ動いたリュカ。
「いいんですか?」
「女王陛下からの指令だ。何人か新人が混じることになるが、いいな?」
「えぇ、勿論です」
というよりそっちの方がありがたい。経験のある人間が欲しいのは確かだが、しかし何かに染まっていない新人の教育というのもまた一興。自分たちが育て上げることによってどんな人間になるか、楽しみという物だ。そんな単純な思考をしていたリュカに対して、レラは問う。
「女性だけというのは、どういう事でしょうか?」
「貴方がたの軍は子供を除けばほとんど女性で運用されている。そう聞いた女王陛下からの指示だ。周りが女性ばかりである方がより輝く人間もいるだろうと判断なされたこともある」
聞いた、か。なるほど。レラはその言葉にスッと後ろに引いた。
「それと、トアさんやメンカについてですけど……」
「先も言った通りだ。三十八人の罪人は、偽物とはいえ王や間者を国から逃がしたいらぬ存在。好きにしてもよい」
つまり、その三十八人は先に言った移動国家ヴァルキリーに派遣される兵士とはまた別、という事、完全にこちらの国に帰属することとなると言う事なのだが、リュカの中に本当にそれでいいのかという思いがあった。特に。
「イトナ副将……」
「もう、私はお前の上官ではない。好きに呼んで構わない、メンカ」
「……」
メンカ、つまりイトナの息女の一人であり、マモウ曰く成長度合いによっては自分よりも強くなると思っていたそんな女の子もまた手放すことになる。娘を、他国に譲ると言うことになるのに、どうしてこの人はこんなにも表情を崩さずに淡々と言葉を述べることができるのだろうか、それがリュカにとっては懐疑的であり、そして理想系なのだろうなと思っていた。
「いつか……」
「ん?」
「いつか、私がイホの国でいる存在になったら、帰っていいですか?」
けど、そんな考えリュカだけの物、彼女たちには彼女たちの考えがある。メンカは、元から自分が姉達よりも劣っているのを知っていた。足手まといになっていると感じていた。だから、こうなっても仕方がないと分かっていた。
ならば、と彼女は言う。もしも自分がイトナにとって欲しい人間になった、その暁にはイホの国に、母の所に帰ってもいいのかと。
「……ふぅ」
この場合、≪軍人としての自分≫としては、いらぬと言った以上帰って来るなと言えばいい。
けど、≪母親としての自分≫ならば、どう答えるか。決まっている。
「そうなれるように、勉強してこい……世界を見て、戦いを見て、学んで来い。帰るか帰ってこないかは、その後に決める」
「はい、お母さん……」
娘の成長を楽しみにする。ただ、それだけだ。メンカは、その言葉を聞いて頭を下げて、礼を言った。
いつか、自分がもう一度あの国の大地に立てるようになる。その時まで、母と、父と、祖母と顔を合わさないと、そう覚悟を決めて。
ここから、元イホの国の副将の三女、メンカの旅が始まるのだ。
「頑張んなよ、メンカ」
「何を言ってる、セキーヌ」
「へ?」
「貴様も移動国家ヴァルキリーに行くのだぞ」
「え? えぇ!?」
あとついでに次女の旅も。
「なんで!!?? 私、巻き添えであの国行っただけなのに!!?」
まぁ、確かにセキーヌだけは人質という扱いであったため、他の元イホの国の人間とは違って牢屋の中に入れたりなどの処遇を取っていた。だが、この同盟を結ぶにあたって彼女の身柄もイホの国に返すのが恐らく正解であるのだろうが。
「自軍の中とは言え大酒を毎日のように飲んで、おまけに敵の捕虜になるという情けない醜態をさらしておいて何を言っている?」
「グッ!」
「ついでに言えば移動国家ヴァルキリーへの赴任は女王陛下からの指示だ」
「おばあちゃんが!?」
「少しはその酒癖を治してこいとのことだ」
「ぐがっ……!」
「親族とはいえ王女にまで知られる悪酒飲みって……」
「一晩で国中のお酒を全部飲んだっていう伝説があるくらいなんですよ」
「へぇ……」
色々な意味でそんな人間を受け入れて大丈夫なのだろうか。こっちはこっちで少し心配になって来る。更にイトナから話を聞くと、同盟国同士で人員の交換、いわゆる同盟が破棄される可能性を考慮しての人質交換というのが定積であるから、その人員としてセキーヌを差し出すという体裁をとったようだ。こちらからの人質はマナゴの国の人間、ということになるそうなのだが、それはそれで人質として機能するのか少しだけ疑問であり、多分形だけの人質交換だと鉄仮面が捕捉してくれる。
まぁ、何はともあれ
「これからよろしく。セキーヌ」
「うぅ、酒のない生活なんて私、どうすればいいの……」
「頑張るしかないんじゃないかな?」
「うぅ……」
ここに、イホの国の軍人セキーヌを含めた軍人たちの移動国家ヴァルキリーの正式譲渡が決定し、並びにイホの国との正式な同盟が取り決められたのであった。
―――なんとなくだが、[トラブルメーカー]を押し付けられたような気がするのは、たぶん気のせいだろう。




