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武龍伝〜貴方の世界を壊した転生者〜 魔法当たり前の世界で、先天的に魔力をあまり持っていなかった転生者、リュカの欲望と破滅への道を描いた伝記録  作者: 世奈川匠
第11章 絡み合う意図、黒と白の糸

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第四十六話 愚王の大罪

 本物の軍人の兵隊が入れば、それが一体どういう意味を持つのか、周りにいる人間たちは当然のように理解していた。この辺りを察することができないクラクの残念さも勿論際立っているのだが、リュカの方は異世界からの転生者ではあるが五年間リュウガの指導を受けていたのでまあ良い。

 だが、そんな物一切受けていないはずのケセラ・セラですらも気づくことができたと言う事の方がもっと凄い気がする。それが、周囲にいる人間たちの反応であった。その視線にやや誇らしげな笑みをうかべ、彼女は語る。


「私たちが倒した兵士、あれってほとんどが新人か、平民でしょ。いてもいなくても同じ兵士、辺りかな?」

「……」

「え……それってどういう……」


 最初にあの城に突入した時に感じたのは、違和感だった。ソレが鉄仮面の感じたもの。リュカもまたこの国に入ったその時から違和感を感じていた。

 戦った兵士の熟練度の低さ、あまりにも脆弱な魔法、そしてむざむざと殺され、城への道を明け渡していく兵士たち。

 ≪事前に≫断片的な情報をいくつか貰っていたが、しかしそれで全ての答えに辿り着くことができないような、自分を試すような情報。

 そして、国の中で感じた、兵士たちが弱すぎると言う違和感が、ソレら全ての答えを一瞬で引き出した。

 リュカは説明する。ゆっくりと、丁寧に、時間をかけるように。


「二つの可能性が考えらえれた。一つは、マナゴの国を王と一緒に逃げるために強者を遠ざけたか。もしくは……」

「アルベスタのように逃げ出されたか……か」


 その言葉をマモウが発した時、元国王である男は忌々しげな顔をした。恐らく、後者なのであろう。

 彼女、マモウもまたリュカと同じ違和感を感じ取っていたのだ。いくら奇襲に成功したとしても、一つの国をうち滅ぼすためには一国の兵士を遥かに凌駕する程の戦力が必要。イホの国の戦力でも二倍以上の兵士を用いなければ、それも最大級の犠牲を払う事を覚悟せねばならぬほど、そう考えて居た。

 だが、実際にはイホの国の兵士、並びに移動国家ヴァルキリーの人間たちには一人たりとも犠牲者は出なかった。いや、それどころかけが人の一人もいないと言う。これは奇妙を通り越しておかしかった。

 そして、合流したリュカからもたらされた情報。これにより、確定した。この国はすで守護者たる兵士が存在せず、守護するべきはずの民が立たなければならない状況となっていると言う異常事態になっているのだと。

 もしそれが事実であり、リュカが≪敵をあまり殺すな≫の理由につながっていると言うのならば、何という甘い人間であろうか、それが彼女の中のリュカへの見解であった。


「……イホの国を襲撃した後だった」

「……」


 数ヶ月前、マナゴは突然イホの国を攻撃した。しかし、イホの国が常々築いてきた防御策が功を奏し、多少の犠牲はあったもののイホの国を撤退に追い込んだのだ。


「国一つ潰した手見上げをもってイェンエンと同盟を結ぼうとしたのに、敗北し、その責任を全部俺が背負うことになって……戦で国の重鎮を大勢失って、しかもイホはマナゴに報復にくる始末……」


 マモウも、またその戦に参戦していたからよく覚えている。あの時は、今回と違って自分自身も命の危機に瀕する事態が何度もあり、今思っても生き残れたのは奇跡。

 しかし、なるほどその戦に全ての力を注いでしまった、からだったのか。ならばこそあれほどの被害に繋がったのなら説明がつく。その時に戦力を注ぎ込んだからこそマナゴの戦力低下に繋がった。

 国が傾くほどの戦力の一点集中。リュカの所属しているような小規模な国ならともかく、マナゴのような中堅の国が絶対にやってはならない戦略だ。その時点で、この国の明暗は別れていたのだろう。

 その後の報復だって予想できていたことのはずだし、どう考えても国王の取る行動は全てが愚策。リュカ以上の大馬鹿者と言っても良いのだろう。

 蛇足だが、メンカは当時訓練兵だったためその戦には参加せず、現在移動国家ヴァルキリーに所属しているマモウの妹の方の≪某大馬鹿者≫は、その戦で大働きをしてくれ、イホの国の大勝に繋げてくれていた。本当に、≪本当に≫彼女は酒さえなければどこの国にも嫁に出して良いくらいに優秀なのだ。酒さえなければ。


「俺は、どうすればいいのか分からなかった。そんな俺に、いやこの国に見切りをつけた兵士たちはみんな逃げて行った! 残った兵士はあとわずか。その兵士たちも、さっきの戦いで死んで行ったがな」

「つまり、貴方が国を見捨てたんじゃない。貴方が、国に捨てられたのね」


 と呆れるように言ったリュカ。考えてみれば、目の前の人間はもしかしたら自分が辿るかも知れなかった。いや、これから辿るかも知れない自分の人生の写し鏡のような物。あまり他人事のように見てはならないのかもしれないという自責の念も込めての彼女の言葉に、流石に怒り心頭に発する元国王は叫んだ。


「黙れ!!」


 ただ一言だけだ。それしか言葉を知らないかのように叫んだその男に、リュカは見切りをつけるように頭上に伸ばしていた呆れの象徴たる手をゆっくりと下ろすと、元王を真っ直ぐに威圧するように見て言う。


「だってそうじゃない。貴方なんて捨てられて当然よ。国民をないがしろにして、肉親をも自分の策略の一つに加えて名誉欲しさに他の国を攻撃して……」

「黙れと言っているだろ!!」


 叫んだ元王は、拙い動きで剣を抜くと、その先をリュカに向けた。一方で、彼女の後ろにいたレラ達はそんな彼女に対して呆れていた。

 何故なら、彼女は今無防備だからだ。

 あの城の中で龍才開花を使用したことで彼女の魔力は零。今の彼女の武器は刀一つというわけで、もし今魔法による攻撃を喰らったら致命傷になりかねない。であると言うのにこの言いぐさ、この肝の据わった物言い、流石自分達の国の長と言ったところか。

 だが、彼女はいたって冷静に状況を見渡していた。


「剣を、抜くの?」

「こうなれば、一人でも多くその首を貰ってイエンェンへと向かう! そうすれば……」

「……」

「何故だ……どうして、どうして剣を抜かない!!」


 その時、ようやく元王は気がついた。どうして、リュカは剣を抜かないのか、と。自分が、ここまで好戦的になっていると言うのに、身を守る手段を行使しないのかと。他に守る手段があると言うのか、そう元国王は考えた。

 だが、違っていた。違うのだ。リュカが何もしなかったのではない。


「抜く必要はないからよ」

「何!?」


 何もする必要がなかったから、刀を抜かなかったのだ。

 もし、相手が魔法を使っていればまた違っていたのかもしれない。だが、元国王はただ剣を抜くだけ、それ以上の行動を起こさなかった。その時点で、リュカは刀を抜くという必要性を欠いていた。そして、思ったのだ。


「もう、戦は終わりよ」


 そう、呟くのと同時に、アルベスタがリュカの前に出た。その手に剣を持ち、そして魔力を込めた拳を天に掲げて言う。


「兄さん、もしも……もしも兄さんが心変わりしてくれればと思った。でも……」

【炎】

「兄さんは、兄さんのまま死んでくれ」

「なッ……」


 その瞬間、この国の崩壊が始まった。いや、あるいは元国王がイホの国を攻めると言う蛮行をした時点で、既にこの時が来るのは決まっていたのかもしれない。

 なんにしても、その小さな魔法で一つの国を潰すことができるのだ。

 これは、別に特別な魔法でもなんでもない。

 極々平凡で、誰にでも使える魔法だ。

 しかし、下準備ができている段階で使用すれば、絶大なる効果を発揮する。

 時間稼ぎは、十分だった。

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