6話『過去とお箸と最適化』
ちょっと、幽希がどのくらい頑張っていたかを分かるようにしてみました。(伝わるかな……)
「くそっ!なんでだよ!!」
幽希の苛立った声が響く。
今日もまた、才能が無いと言われてしまった。
初めは褒められる事が嬉しくて始めた努力。だが、次第に成長すること自体が目的となっていた。
だがしかし、
「何も才能が無いなんて、おかしいだろ!」
どうしようもない現実は、中学一年の時にやってきた。
小学生の時は、どんなに下手でも褒めて伸ばす事が多い。でも、中学生になれば話は違う。
「君には向いていない。」
そうハッキリ言われるようになった。
他の場合は、こんなものがあった。
「練習していないんだろう。ちゃんとやりなさい。」
そんな事は無い。幽希は人の何倍もやっている。
だが、何もしていないと思われる程に幽希の才能は壊滅的だった。それも、試した事全て。
だとしても、諦める理由にはならない。
毎日必死に練習して、上手くなろうとする。
そのうち、人から上手だと言われるくらいにはなれた。
だが、そこで止まってしまう。
どんなに時間が過ぎようとも、先には進めなかった。
「大丈夫、ゆーくん。やりたい事、何でも試してみよう。あ、もちろん、悪い事以外だからね?」
母親も父親も、頑張れ、いくらでも試せと言ってくれた。
「ありがとう……」
(ありがとう)
声を出そうとすると、自分のものと、声変わりする前のものが重なって聞こえてくる。
それで気づいた。ああ、これは夢なんだな、と。
もう、この2人には会えない。
(俺はもう、新しい世界に居るんだから。)
「ゆーくん、起きて!」
そんな声が聞こえてきた。
母親と同じ呼び方で、髪の色も似ている金狐。
(今起きるよ、ルナ)
今度の人生は、迷惑をかけないように頑張らないといけない。2人に会えない事は悲しいけれど、自分で選んだ道なのだ。
(さよなら、父さん、母さん)
―――――――――切り取り線―――――――――――
目が覚めた幽希は、非常に困っていた。
「なあ、起きたから降りてくれないか?」
「……すぅ…すぅ…」
「……寝てんのかよ」
幽希の上で寝ているルナ。
さっきまで起こしていたのは間違いないのだ。
「眠気に負けて、二度寝したって所か。」
その通りである。
まず、幽希が目を覚ます5分程前に起きていた。
そして、構ってもらう為に起こそうとする。
そこまでは良かったのだが、幽希の上は心地よくて、つい寝てしまった。乗った状態で。
どうしたものかと悩む幽希。
そんな時、扉が開かれた。
「朝食が出来たから起きなさ……何があったの?」
性格的には少しツンツンしているユニ。
しかし、この有様を見て理不尽に怒るなんて事はなかった。幽希が子供だからというのもあるのだろう。
「おはようございます。俺も起きたばっかりなので分かんないですけど、多分、起こそうとしてたんだと思います……」
ユニと話しながら、ルナの肩を揺さぶる。
最初はイヤイヤするだけだったが、少し続けると目を覚ました。
「……ふわぁ〜……ゆーくん?」
「不思議そうな顔をしない。ルナが自分で乗ったんだろ?」
「そうだった!起きて……るんだった」
思い出して起こそうとしたルナが、目の前の幽希を認識した。名前を呼んでいたのに寝惚けていたらしい。
「ほら、ご飯だから早く来なさい」
「わっ!?お、おはようママ」
「気づいてなかったんだな」
後ろから声をかけられたルナは、驚いて猫のように飛び上がった。狐なのに。
その衝撃が幽希に来たせいで少し痛かった。
ルナが降りると、部屋を出る3人。
テーブルには既に座って待っていたセツナがいる。
「おはよう、パパ!」
「ルナもユウキ君もおはよう。昨日はよく眠れたかい?」
「おはようございます。お陰様でぐっすりと寝れましたよ」
これは、決して世辞などではない。
ルナと同じになってしまうが、抱き枕にされていた幽希も温かさが心地よかったのだ。
とはいえ、そんな事をルナの親である2人に言う事は出来ない。引かれる可能性もある。
そして、椅子に座って食事を済ませた。
料理についてはセリナよりも上手いので、是非とも教えてあげて欲しいと思う幽希。
「やっぱり、箸が欲しいよな……」
料理の中に米が出てきた為、思わずそう呟く。
作ろうとすれば作れるが、両親に違和感を持たれる。
それをセツナに聞かれていた。
「?ハシってなんだい?」
だが、セツナとユニに話す分には問題ない。
ルナに分からないように言葉を選んで話す。
「俺の故郷では、食事に2本の棒を使うんですよ。こんな感じで。この米も主食としていつも食べてたので、思い出したんです。」
こんな感じで、と言いながら箸を動かす真似をするが、あまりピンと来ないようだ。
「ああ、前のって事ね?ふぅん……ちょっと作ってみるわ。後で詳しく教えなさい。」
「私の分もよろしく頼むよ。」
幽希としては、見た目を教える事には何の問題も無い。
それよりも、2人……いや、気になっている様子のルナも含めれば3人に、箸の使い方を教えなければならないだろう。
「でも、あれは良いものだ。」
「ゆーくん……?」
うんうんと頷く幽希に、ルナが首を傾げる。
しかし、その時にフォークを咥えていたせいで、「駄目でしょ」なんて言われていた。
―――――――――切り取り線――――――――――
その後、本当に箸について聞かれた。
そこまで複雑な物でもないので、絵に描いて見せると、早速作って来たユニ。
「上手くいかないな……」
「何でユウキは簡単そうにやってるのかしら……」
その後3人は、何かの豆で箸の練習している。
幽希がお手本として次々と豆を持ち上げるが、出来ない人も多いのではないだろうか。
当然、初めての人にやらせる事では無い。
なので、10分程経った今も依然としてセツナとユニは苦戦しているのだが、ルナだけはちがった。
「出来た!……あ、落ちちゃった……」
顔を上げた直後に落としてしまったが、出来たのには変わりない。ルナが子供というのもあり、要領がいいのだろう。
「さて、このくらいにしておこうか。箸については後で練習するよ」
「あ、やるんですね、後で」
「当然だとも。ルナが出来たのに、私が出来ないなんて……親としての威厳が無くなってしまうよ」
「私は箸で威厳を保とうとするセツナにビックリよ」
幽希とユニから、「何言ってんだこの人」という目を向けられても、平然としている。
「そんな事より、昨日話していた通り色々教えてあげるつもりだけど、今から始めるかい?」
「いや、唐突過ぎますよ!……でもお願いします。というか、威厳はそんな事なんですね?」
「じゃあ、お昼の後は私と交代にしましょう。」
本当は、朝食後すぐに言うつもりだったセツナ。
だが、箸への興味の方が勝ってしまったのだ。
それでもちゃんと、箸の事が終わったらと決めていた。
「先に庭へ行っててくれ。必要な物を取ってくるからさ」
そう言われた幽希は庭へ向かう。
ユニは家事をしに、ルナは幽希と一緒にいる。
子供に見せるものでもないだろうと思ったのだが、一人でいても暇だと言って着いてきた。
「ゆーくん、遊ぶの?ならルナも!」
「そうじゃないんだ。ルナは見てるだけ」
自分だけ仲間外れだと思ったルナは、「えー!ずるーい」と言っていたが、まさか戦闘訓練に混ぜる訳にもいかない。当然見学だ。
幽希がルナを説得した所で、セツナが戻ってきた。
「待たせたかな?多かったからちょっと嵩張ってね」
「それはいいですけど……随分と、色んな武器を持ってるんですね……」
あらゆる武器を使いこなすというのは、意外と本当なのかもしれない。別に疑ってもいなかったが。
「戦う上で必要なものを覚えてたら、いつの間にかね」
「じゃあ、刀とか分かりますか?」
分からないようなので、幽希が日本刀の形状を説明してみたところ、思い当たる節があったらしい。
「刀……ああ!確か、過去の勇者から伝わった武器だったね」
「ありましたか。別に使った事はないんですけど、少し気になったんです。」
すると、セツナが武器の山から一振りの刀を取り出す。手入れはされているのだが、名刀という訳ではない。
「切れ味は良いよ。でも、耐久性に難があるから、あまり使ってないんだ。」
「あー、それは細いですもんね。にしても、何で武器を持ってきたんですか?訓練をするだけなら木と……木剣でいいんじゃ?」
思わず木刀と言いそうになったが、両刃の剣が普通の世界なら、木剣の方だろう。
ちなみに、木刀言いそうになる理由は、幽希は元剣道部員だからである。そして、竹刀よりも重みのある木刀が好きだった。
それは、カッコイイとかではなく、竹刀だと筋肉が鍛えられなかった為に、木刀で練習するのは有意義だったのだ。
「そうだけど、一応どんな感じか確かめてもらう為だよ」
「なるほど?なら、とりあえず持ってみますか」
取り落とす程の重さだと思っていた幽希は、恐る恐るセツナから刀を受け取るが、予想に反してしっかりと持てる。
さすがに振り回すことは出来ないだろうが、普通の素振りくらいなら出来るだろう。
「思った程じゃないです……」
「ユウキ君のステータスが高いお陰だね。ユウキ君が来たのは勇者達と同じ世界のようだから、ステータスも無かったんだろう?それなら、自分の筋力についてあまり分からないんじゃないかってね」
もう少しステータスが上がると、金属の塊である剣や刀を振り回せるそうだ。物理法則は何処へ?
その後も色んな武器を持たされた。
弓、片手剣、片手棍、斧、鞭……etc……
軽く振ってみたりもした。
「どうだい?自分に合ってそうな物はあったかな」
「まあ、刀か片手剣ですかね。」
しっくり来るのはその二つ。
他の武器は、自分に合っていない気がするのだ。
「じゃあ、ユウキ君には近接戦闘を教えた方が良さそうだ。意外と、そういう感覚も大事なんだ。」
「じゃあ、そこにある木剣で訓練をするんですね?」
「そうそう。最初は、ステータスに表示されない筋力を付けるものなんだけど、ユウキ君は自分でやってるみたいだし、必要ないだろう?」
ステータスに表示されない筋力。
幽希も薄々分かっていた事だが、ステータスだけで決まる訳でもないらしい。
気になるので、セツナに少し聞いてみた幽希。
筋トレをする意味は、Lvアップでのステータス上昇量が変わるからだそうだ。
パワーレベリングしても、大した戦力にはならない。努力しないとただの雑魚。
幽希にうってつけの世界である。
後は、成長と共にステータスも増加するのだが、その時の上昇量も変わってくるらしい。
マッチョなのに、筋力が低いということはないようだ。
「まずは、基本である9種の斬撃を覚えてもらう」
そう言って自分も木剣を持つと、幽希の前で振り上げる。幽希も見逃さないように集中。
「上から振り下ろす――」
説明しながら、順番にやってくれる。
一つ一つの太刀筋は、素人の幽希が見ても綺麗だと思う程。セツナの鋭い剣は美しいが、これで極めていないという事は、上も存在するのだろう。恐ろしい。
「最後に、突きだ」
最後の突きだけは、よく見えなかった。
引いた腕がブレたと思えば、既に突き出した後。
「一応覚えました。で、これをやればいいんですね?」
「ああ、最初はね。ずっとこれだけやっていても仕方ないから、大体……数ヶ月程経ったら次に行こうか」
その後に、「まあ、その辺はユウキ君の上達具合で変わるけど」と付け加えるセツナ。
「じゃあ早速……」
唐竹。振り下ろした剣がピタリと止められない。
逆風。下から上へ切り上げるも、その速度はゆっくりだ。
袈裟。左肩から右脇へ。勢い余って地面にサクッ。
逆袈裟。右肩から左脇へ。止められたが、今度は意識し過ぎて遅くなっている。
右薙ぎ。右から左へ水平に。思っていたより、水平に保つのは疲れる。
左薙ぎ。左から右へ水平に。剣の先が下がって来た。
左切り上げと右切り上げは、袈裟、逆袈裟を反対にするのだが、逆風と同じくゆっくり。
「う、腕が痛い……」
「あはは。まあ、初めてだからしょうがないね。ちゃんと覚えてるみたいだから、それを繰り返す。」
木剣でも、自分と同じくらいの長さの物であれば、筋力が足らないのも当たり前。
さらに、重力に逆らう動きで剣を振ったせいで、腕が悲鳴をあげている。
それでも、セツナに言われた通り、繰り返す。
(痛い………けど、もっと成長出来る)
2回、3回、4回、5回………
何度も続けるうちに、全身が重くなってきた。だが、どんなに体が訴えようともやめない。何十回でも、何百回でも。
痛くても、努力が出来る。成長出来る。ステータスのお陰で、次の日には完治する。気にする必要は無い。
さっき目に焼き付けたセツナの動きを思い出す。
腕だけではなく、全体で剣を振るわなければ。
当然、ぎこちなくはなったが、1回毎に最適な動きへと修正する。やはり筋力が足りない。
もう少し、自分に合ったものに。
セツナの動きはセツナの体に合わせて生み出されたものであり、幽希に最適な動きはまた別にあるのだ。
無才だった前世でも努力をやめなかった幽希は、スポーツについてもかなり研究していた。
その中で、他人を真似ても自分には無理だと分かったのだ。
細い事は省くが、構造に個人差がある為に、基礎の練習でも動きが少し変わってくる。
なら、自分に最適な動きを見つけるしかない。
残念ながら、前世では市大会で優勝する程度だったが、才能値があるこの世界では違う。
「ふふ、はははっ」
才能リストの中には、『模倣』というものがある。
全てが1である幽希は、天才ではないが、無才ではない。いや、天才になる事は出来る。
模倣し、最適化する。
簡単ではないが、出来る事なら幽希はやる。
とはいえ、何百回もやれば限界は来る。
段々フラフラしてきた幽希が、後ろ向きに倒れた。しかし、気分は清々しい。
昨日まで外に出られなかった鬱憤も晴らしていたのかもしれない。
と、そこに2人が駆け寄ってくる。
「君には驚きだよ。限界まで泣き言1つ言わずに振り続けた。しかも、笑いながらね。普通は飽きた、辛い、実戦がいい。そんな事を言うんだけど……」
「……はぁ、はぁ……まあ、俺、こういうの、好き、なんで」
「ゆーくん、大丈夫……?」
「ああ。……はぁ……でも、もう少し、このまま……」
幽希も、かなり無茶をしていた自覚はあったが、確実に成長している実感が持てて興奮していたのだ。
全身が痛くて、自分でもどうやって動いていたのか分からないくらいである。
「ちなみに、どのくらいやってました?」
息が整ってきた所で、セツナにそう聞いた。
「1時間半くらいだね」
「えっ?そんなに経ってました?……ルナはよく待ってられたなぁ」
「うん。いい子にしてたよ?」
ルナは歳の割に我慢の出来る子供だ。
空気を読める、4歳児。
「ルナは偉いな……よしよし」
「えへへー」
なお、時間は地球と同じで24時間。12ヶ月、月30日と、そこだけ適当な感じに変わっている。
魔道具の時計もある。
始めたのが9時過ぎだったので、今は10時半程だ。
「動けるかい?せめてベッドで休もう」
「まあ、何とか歩けます」
心配そうなセツナ。
先程は幽希を止めようとも思ったのだが、不敵な笑みを浮かべ、1回毎に上達するのを見て笑ってしまった。
動きを覚えて、体全体を使う事に気づけば今回は十分だと思っていた。
なのに幽希は、その先にある自分の剣を探し始めている。これは、自分が思っていたよりも、期待出来るかもしれない。
そんな事を考えていたせいで、倒れるまで見ているだけしかできなかったのだ。
「お昼まで休んでていいよ。」
「分かりました。午後はユニさんの方もありますから、しっかり休んでおきます。」
「じゃあルナもー!」
別に邪魔はしない子なので、一緒に寝るのは問題ない。
だが、幽希はこう思う。この子は本当に4歳児かと。
一応言っておきましょう。
幽希はMではなくSであると。
はい、どうでもいいですよね。
次回は、ユニ師匠の魔道具講座です。
あと、もう1人の娘も出します。




