1話『偶然の産物』
転生初日、親が居ないと始まりませんよね。
風の音が響き渡る森の中、1人の赤ん坊がカゴから出られずにいた。
当然、幽希の事である。
「おぎゃー!!」
(そうだよな。全力で泣いたって、人がいる訳ないんだよ畜生!!)
目が覚めたと思えば、辺りは見たことの無い気に囲まれていた。そして、動けないのは仕方ないと諦めて、人が来るのを待っていたのだ。
だがしかし、赤ん坊は限界が来るのも早い。
更に、知らない鳴き声も聞こえてくるのだから、精神的な負担も相当なものだ。
ならば、全力で人を呼ぶしかないと考えるのは当然だろう。
(何でここなんだよ……強いとか弱いの話じゃなくて、運の問題だよな!?)
助かる道は、誰かに拾われる事だけなのだ。
「おぎゃーーー!!!」
(くっ、喉がマジで痛い……)
喉が枯れて泣くのをやめようとしたその時、声が聞こえてきた。
「何処かしら……赤ちゃんが泣いていた気がするのよね……」
「流石に、気のせいだと思うけどなぁ。」
(居る!居るから!気のせいじゃないっ!)
最後の力を振り絞り、声を上げる。
「おぎゃー」
先程までと比べると、遥かに小さくはあったが、どうにか届いたようだ。
「こっちよ、絶対聞こえたわ……あ、ほら!大丈夫?もう安心ですからねー?」
カゴから持ち上げて、優しく撫でてくれる若い女性。そんなことよりご飯をおくれ。
「おお、本当に居たな。瞳に知性が宿ってるみたいに見えるが……目つきは悪いな。」
(失礼な……でも、目つきが悪い、のは、前、世)
さすがに体力が尽きていたのだろう。少しの疑問を抱きつつも、女性の腕の中で眠りにつく。
―――――――――切り取り線――――――――――
「ほらー、おっぱいですよー?」
(うぅん?おっぱい……?目の前に大きな桃がある……真ん中に桜色の何かが……)
寝起きで何を言っているのか理解出来ないまま、目の前に見える桃の真ん中を掴もうとする。
「ひゃう!?あ、あらあら。そこは掴んじゃいけないのよ?おっぱいは優しく扱わないと。」
全国の奥様方、是非言って欲しい事がある。
それは、「それは赤ん坊に教えることじゃない!」だ。
(お、おお?ちょっと待ってくれ……)
幽希の意識もハッキリしてきたようで、中々凄い状況なのを理解した。してしまった。
「あうー!?」
(なんじゃこりゃー!!)
――ドタドタドタ
幽希の大きな声に驚いた男性が、別の部屋から走ってくる。
「どうしたセリナ、何があっ……何を、しているんだ……?」
ビクッとしたセリナというらしい女性は、震えながら後ろを振り返る。
「ち、違うの。これはね、お乳をあげようと思っただけなのよ?決して、そういうあれじゃ……」
慌てるのには理由がある。それは、セリナに子供が居ないということだ。
それはつまり、母乳も出るわけが無いという事であり、その状況こそに意味があるわけだ。
(そういうあれって何だよ。あれって。)
非常に気になっている幽希だが、喋れない事には聞きようがない。
ところで、ずっと言葉を理解出来ていることに疑問を感じないだろうか。
そう、日本語を話しているのだ。
文字は違うのだが、この世界の共通言語として日本語が使われている。
理由は……そのうち分かるが、残念な感じがするかもしれない……とだけ言っておこう。
閑話休題。
「いや、そういう趣味があるのが悪いとは言わないがな?……ただ、ユウキの未来が心配になるんだよ。変な性癖にならないだろうか、とな。」
「ちょっと魔が差しただけよー!二度とやったりしないわ〜。……もしかしたら。」
(え?する方が確率高いの?)
残念ながらこの呟き、男性の方には聞こえていなかったのだ。
とはいえ、おっとり系美人さんなので、幽希はいくらでも相手をするが。
それよりも、だ。
(俺の名前をどうやって知ったんだ……?)
「それなら良いけどな……ユウキー。お、こっち向いたな。自分のことだって分かるのか?メモに書いてあったから、意味は知らないんだけどさ。」
「でも、いい名前だわ。拾ったのだから、最後まで私達が育ててあげないとね。」
(メモ?カゴと一緒に入ってたのか……それにしても、この若い女性が母親に……)
思い出すのは先程の感触。
これだけでも異世界に来た甲斐がある、なんて考えた幽希はダメかもしれない。
「そうだ、本当のミルクをあげなくちゃ。シェド、さっき頼んだものは持って来てくれたかしら?」
「……急いで来たから置いてきちった。急いで取ってくる!」
ダッシュで部屋から出ていくシェドという名の父。陸上選手よりも速いのは、さすが異世界と言うべきだろう。
「もう、仕方ないわねー。ユウキ、もう少しだけ待っててね〜?ギュー!」
「キャッキャ!」
「ふふ、やっと笑ってくれたわ。ずっと森の中で怖かったのかしら?」
そう言って微笑んでいる。
セリナは、見つけた時から今まで、起きている間はずっと眉を寄せていたのを心配していた。
(笑ってなかった?別にそんな事は……)
幽希は全く自覚していなかったが、無意識の内に2人を警戒していた。何も出来ない体で、知らない相手なのだから、警戒もする。
それが、こうして優しく抱きしめられた事で、本能的に平気だと理解し、ようやく警戒が解かれたのだ。
――ガチャ
「持ってきたぞ。……それはいいが、セリナ。」
「ありがとう。……で、どうかしたの?」
ミルクを持ってきたシェドだったが、物凄く言いずらそうにしている。
「?……ほら、言って?」
セリナに促されて、ようやく口を開く。
「あー……胸、出てるぞ。」
「え……?」
そんなまさか、と思いつつも視線を下に向けるセリナ。
幽希を胸に寄せて抱いているが、モロに出ている2つの肌色が……
「………あらあら、うふふ?」
「誤魔化せてないぜ、それ。」
この後、セリナは崩れ落ちた。
――10分が経過
「あう、あうあー?」
(大丈夫だって、母さん)
「……慰めてくれるの?いい子ねー……」
崩れ落ちてから10分程経つと、 ミルクをあげるために復活したのだが、未だに落ち込んでいた。顔を真っ赤にして。
現在、赤ちゃん言葉で慰めようとした俺だが、言葉にせずとも気持ちは通じたようだ。
「じゃあ、俺は仕事に行ってくる。あんまり気にすんじゃねぇぞ?」
「ええ、分かってるわ。行ってらっしゃい。」
触れるだけのキスをすると、シェドは部屋から出ていった。今度は歩いて。
(うーん、色々調べたいことがあるんだけど……さすがに、この体じゃ動けないか……)
セリナに抱かれたまま、腕や足を動かしてみるも、自由自在には程遠い。
そうやって自分の体を確かめている幽希だが、何やらうずうずしているセリナの言葉に反応する。
「うーん、幽希の才能値を見たいわ。アンロック……やっぱり、血縁者じゃないから見れないのよねー。」
(才能値って普通に見れるのか……よし、アンロック!)
出来るかは分からないが、心の中で念じてみる。成功したら儲けもの、程度の気持ちで。
――カチャ、パラパラ。
鍵のかかった本の様なものが出てきて、鍵が外れると本が開かれた。
「……ビックリした〜。ユウキ、自分で出せるのね?凄いわ!」
どうやら、この本は人にも見えるらしい。
そして、幽希の横から覗き込むと、少し驚いた様子。
(どう見ても、オール1なんだよな……0じゃないのはありがたいけど、2以上もないのか。)
「ユウキは何でも出来るって事かしらね。低くても、Lvさえ上がれば大丈夫だし……まあ、本人のしたいようにさせましょう。」
(ま、最初が低くても問題ない……ん?本の右下に出てるこれは……)
ボーナスポイント
残り:32p
本の端に表情されている数字をみると、なにやらとんでもない物が。
(ボーナスポイント……まさか、これって。)
悩んでいるよりも、自分の考えが合っているのか試すことにした幽希。
リストを見ていった中で、今必要そうな『身体操作』をタップする。
すると、
【身体操作:体を自在に操る才能】
という、説明文が表示された。
そのままなのはいただけないが、赤ん坊の体に慣れる時に使えるだろう。
どうやって消せばいいのか迷う幽希だが、右上にある×を押して、一旦閉じる事に成功した。
続いて、1と書いてある部分をタップする。
【身体操作に割り振るポイントを決めてください。】
その文と共に、ポイントを割り振る画面が出てきた。1から4まで自分で選べる。
(これが、俺の望んだ能力?確かに、凄いとは思うけど……この世界の法則に喧嘩売るようなものじゃないか?)
しばらく心の中で唸っていた幽希だったが、使えるんだから仕方ない。
そう割り切って、最大の4ポイントを選んだ。
(確認も飛ばしてっと……上がった、のか?実感が無い。まあ、才能だしな。ついでにもう1つくらい上げとこう。)
【筋力強化:筋力のステータスが運動によって上昇するようになる。】
これを見た瞬間、速攻で割り振る。
当然、4ポイントだ。
(追加項目とか書いてあるぞ……?勢いでやったけど、絶対おかしいよな。他にもこれを持ってる人が居るなら、エルフとか最強種族になる。)
実はこれ、シトロフのサービスである。
全て才能値が1になる代わりに、新しい項目を追加したのだ。
なにせ、ステータス強化系は、1だけでも強くなることが出来る優れものなのだから、そうしないとバランスが取れない。
しかし、幽希の能力は才能値にポイントを割り振る能力。これはシトロフにも予想外。本来1だけになるはずの才能達が、最大まで上げられるようになった。
だが、それを知らない幽希は、死なないように鍛える事を視野に入れ始めた。
異世界なのだから、物騒な事も多いだろうと。
「あら?もう閉じたのね。」
(こんな物見られたら困るからな。というか、ポイント振ってるの見られなくて良かった……)
先程から気になっていたことだが、ボーナスポイントとは何か。
32という微妙な数字だが、必ず意味があると思った幽希は、1つの答えに辿り着く。
(俺の前世は16歳。1年で2ポイント貰えるって事か?……もしそうなら、1歳の誕生日で増えるはずだよな。)
現在の体は、生後6ヶ月程になっている。
恐らくシトロフが自由に動けるまでを短くしてくれたのだろうが、半年程で追加のポイントがあれば、証明出来る。と、考えた。
それも、この世界が地球と同じく12ヶ月でなければ成立しないが。
(……それはともかく、まずは動けなきゃ何ともならないよな。)
この日から2週間、まずは歩けるようになる事だけを考えて鍛えた。
……ステータスの存在を忘れた状態で。
2人に子供はいません。その理由は次にでも。
スキルですぐに強くなったら努力も何もないので、才能の方にしました。
それに、チートよりも努力で最強になった方が、カッコイイと思いますし。




