可愛らしいメイドさん
「あら。あなたはどなた?」
とぼとぼと自室に戻っていたところを不意に呼び止められて、リリアは声のした方へと顔を向けた。階段の踊り場から、メイド服を着た小柄な女の子がこちらを見下ろしている。
背中まであるふわふわの金髪に、ちょこんと載ったホワイトブリムが可愛らしく、まるで絵本から抜け出してきたおとぎの国の少女みたいだ。
「見慣れないお顔だわ?」
ちょっぴり舌足らずな甘い声でそう言いながら、少女は長いまつ毛に縁取られた大きな瞳に、剥き出しの好奇心を隠すことなくリリアへ向けてくる。
「リリア・キャラベルです。五日前からこちらでお世話になっています」
踊り場へ駆け上がってリリアが頭を下げると、少女は頬を桜色に染めて、毛髪と同じ金色の瞳を瞠った。
「まぁ新人さん? わたしはセシリア。よろしくね」
とろけるような笑顔に、落ち込んでいたことをすっかり忘れ去ってリリアは破顔した。
おそらくセシリアは踊り場にある飾り棚の花を交換していたのだろう。昨日飾られていた花は花瓶ごと床に置かれ、今は別の花が飾られている。
しっかりとした長い茎に、花弁が幾重にも重なった薄黄色や紅色の花は、果物のような甘い芳香を辺りに漂わせていた。
「いい香りー」
思わずそう呟いたリリアに、セシリアは表情を更に明るくして、
「でしょ~う? このお花はねぇ~……」
と、まるで自分自身が褒められたかのようにはしゃぎだした。
リリアより一回りほど小さな体格をしているが、それは単純に幼いからとか、小柄だとかいうことではなく、元々そういった身体の作り――つまり、例に漏れず妖属なのだろう。
透けるような白い肌と艶々のぷっくりとした唇、綿のようなふわふわの毛髪。全身から甘い蜜のような香りを漂わせて、まるで砂糖で作られた人形のようだ。
辺り一面に香りたつような笑顔を振り撒きながら、一生懸命に説明をする姿も可愛らしい。
屋敷には至る所に花が飾られているが、どうやらその全てを彼女が毎日生けているのだそうだ。
「お花は毎朝シモンに届けてもらっているのよ。それから前の日に飾ったお花は全部、わたしのお部屋へ持って行くの。だから勿体なくはないのよ? まるでお花畑にいるみたいでとっても良い気分よ。だってねぇ、このお屋敷ったらお日様は射さないし、す~うごく陰気臭いんだもの。でもね。たま~にだけど、お庭に小さなお花が咲くのよ。初めてそれを見た時はとっても嬉しかったわ。劣悪な環境でも一生懸命に咲いているお花は、小さくてお色も華やかではないけれど素敵だわ。健気だと思わない? もちろん手折ったりはしないわよ? お庭の隅っこや、下草の陰にひっそりと咲く姿が美しいんだもの。そんなお花を手折るのはいけないことだわ。そうだ。今度一緒に見に行きましょうよ。でも今は無理だわ、春にならないと。あらいけない。話しが逸れちゃったわ。それからね……」
舌足らずな可愛い声に相槌を打つ間さえ与えられない。
セシリアは小さな両手を胸の前で組んで、恋する乙女のように瞳をきらきら輝かせながら花への想いを熱く語り続けている。
その姿には人を引きつける魅力があった。けれど、やはり主人の在宅中に立ち話ばかりしているのは気が引ける。
リリアは放っておけばいくらでも話し続けていそうなセシリアに、何とか話を終らせようと試みるのだが、それがなかなか上手く行かなかった。
そればかりか――
「そうだわ。わたしのお部屋へいらっしゃいよ。おととい玄関に飾ったバラのお花がとっても綺麗に咲き揃ったのよ。ふふふ。今日が見頃なの」
とても断れる雰囲気ではない。
そしてそれ以上に、親しくしてもらえたことが嬉しかった。
リリアは結局、夕食の時間を過ぎても食堂に現れない彼女を、クロゲンが探しに来てくれるまで、セシリアの部屋で延々花の話を聞き続けることとなったのだった。
そんな一日を過ごしても誰に咎められるわけでもない。
ゼルラーデル屋敷はやはりとても変なところだ。




