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初! 宿屋ですよ?


さっそく新しい従魔を召還してみる。

現れたのは巨大なクモとオオカミだ。

クモの方はでかい分不気味。

虫が嫌いな人は生理的に受け付けないんじゃないだろうか。

スキルの毒生成は牙から麻痺毒を流し込んだり直接吐き掛けることができるらしい。

躁糸の方は丈夫な経糸や粘着質でよく伸びる横糸、またそれらの組み合わせなどの糸が自由に出せるらしく、器用に足を使って糸玉を作って見せた。

オオカミの方はひたすらでかい。

何せ体長が4m近くある。

それ以外はいたって普通のオオカミだ。

あえて言うなら乗り物にできそう。


乗ってみると案外乗り心地が良かった。

ロックボアのように激しく上下しないためまるで大地の上を滑っているような気分になる。

装甲がない分戦闘には不向きだが、普段乗る分にはこちらの方がずっといい。

イノシシだと振り落とされないように余分な体力を使うからね。

その点オオカミなら上下がほとんどなく、滑るように駆けるため騎乗時の負担が少なくていい。



そろそろ日が落ち始めてきたためグレイウルフに乗って草原を駆ける。

あまりの乗り心地のよさについボーっとしていたらいつも従魔を送還しているあたりを越えてしまいそうになっていた。

あぶないあぶない。

もしこのまま気づいていなかったら大騒ぎになっていただろうな。

次からは隠蔽の結界を果ておこう。

効果は完全な隠蔽でなく、そこにあるものが「なんとなく気にならなくなる」程度。

そうしないと結界を解除した時にいきなり現れたように見えるからね。

もし見つかったとしても馬か何かと錯覚するだろう。



日暮れ間近の西門は今日も多くの人であふれている。

みんな閉門前に町に入ろうと急いでいる。

いくらこのあたりの魔物が弱いとはいえ夜になれば門が閉ざされるのはどこでも同じだ。

いや、町の近くが安全だからこそ閉門までに間に合わなかった商人などの野営を狙う盗賊が現れる。

なので好き好んで城壁の外で野宿するような者はいない。

いるとすればそいつは相当の物好きかよほど自衛に自信があるのだろう。

そんなことを考えながらカードのチェックを受けて町の中に入る。


何気に今まで実験で野宿ばかりだったので、今日こそは宿に泊まろうと思う。

そのために門番の人にいい宿がないか聞いたら『小枝の小鳥亭』という宿を紹介された。

素泊まりであるが、安い割にセキュリティーがしっかりしていて駆け出しにおすすめなんだそうな。

俺の装備を見て言っていたので駆け出しだと思ったのだろう。

失礼な話である。

まぁ実際駆け出しみたいなものだからその通りだけど。

それでも数か月は働かなくてもいいくらいのお金は持っている。

安いに越したことはないし食事も必要ないからいいんだけど。




目的の宿屋は南大通りの路地裏の一角にあった。

こぢんまりとしているが寂れているわけではなく、かといって繁盛しているようにも見えない。

冒険者ギルドからも遠く交通の便も悪いため、駆け出しを抜けたらすぐに他の宿に行ってしまうのが原因だろうとあたりをつける。

ドアのベルとともに中へ入ると、以外にも店内はきれいに掃除されていた。


ただし受付のカウンターには誰もいなかったが。



「すみませ~ん」


受付から声をかけると、奥の方でごそごそ音がしたと思ったらオーガのような体格をした大男が出てくる。

思わず腰の剣に手が伸びかけたが、寸でのところでこらえることができた。

大男はこちらをじろりと見下ろすと、受付の裏に回る。


「いらっしゃい」


ニィッと口角を釣り上げるように笑って言うが、正直威嚇されているようにしか見えない。

小さい子供なら迷わず泣くか漏らすだろう、そんな凄味がある。

正直場違いなことこの上ないが受付の向こうにいる以上この宿の店員なのだろう。


「えっと・・・・・・。ここは、宿屋・・・・・・ですよね?」


思わず聞き返してしまった俺は悪くないと思う。

大男は一瞬きょとんとした表情をしたが、すぐに笑いながら言った。


「くははははっ! 俺を見ると大体の奴は同じ反応をするな。

心配しなくてもここは宿屋だ。

ようこそ、『小枝の小鳥亭』へ、俺は店主のヒガンテだ」


どうやら宿屋で間違いないらしい。

正直どう見ても名前詐欺だ。

こんないかついのが店主なら『オーガの巣穴亭』とでも名付けるべきだと思う。

そんな俺の思考を知ってか知らずか、宿帳を引き出したオーガことヒガンテが聞いてくる。


「宿泊かい?

悪いがうちは素泊まりだけだ。

そのかわり1泊130G、1週間以上泊まるなら1割引きするが、どうする」


通常の宿が1泊150Gからとすればずいぶん安い方だ。

理由は食事が付いていないからか。

そんな俺の考えを読み取ったのか答えが来る。


「言っておくが俺の料理の腕に期待はするなよ。

俺は料理は苦手なんだ。


その代り宿泊中の安全は保障する。

こう見えても元Cランク冒険者だからな」


こう見えてっていうか、どう見てもガチ戦闘系ですやん。

若干気圧されつつも泊まることに決定する。


「えっと、それじゃあ1週間お願いします」


「あいよ、700Gだ」


アイテムボックスから700G出して渡す。

ちなみにこちらの暦で1週間は6日で1か月30日、1年は12ヶ月の360日だ。

一日は24時間で地球とほぼ変わらない。


「まいど! 名前は?」


と聞かれたので「カナタです」と返しておく。

ヒガンテは帳簿に名前を書き込むと鍵を差し出してきた。


「2階の一番奥だ。鍵はなくすんじゃないぞ」


そう言ってカウンター脇にある階段を指さした。

お礼を言って鍵を受け取ると、そそくさと階段を上って部屋へとたどり付く。

セキュリティーがしっかりとしているというから防犯対策をしているのかと思ったが、あんな大男が待ち構えているのだ。

よほどのことがない限り喧嘩を売ろうとは思わないだろう。

ヒガンテ自身がセキュリティーというわけだ。

ただその見た目も相まって客自体も寄り付かなくなっているような気がするのは否めない。



たどり着いた部屋は6畳ほどの広さで個室付き。

驚いたことに個室の方はトイレと風呂があった。

こちらの世界では風呂は貴族のものだとばかり思っていたがどうも違うらしい。

どうやら魔石と魔道具がライフラインの代わりをしていて、一般家庭でも普及しているんだとか。

なので魔力さえあればお風呂が沸かせるし、トイレも水洗式になっている。


一般的に使われている魔道具は前時代の遺跡から発掘したものを復元・複製したもので、魔石に『理力文字ルーン』を刻んだ物をはめ込んで使用している。

ルーンは発掘されたものの中から効果を確認できたものしか出回っていないため、発掘数が少なく希少なものほど高価な魔道具になっているようだ。

そういったものは国が管理しているため、貴族階級にしか普及していないらしい。


そういえばギルドや街の明かりなどに火が使われず蛍光灯のようなものが付いていたが、あれが光の魔道具なんだとさ。


ごく一般的なルーンは模様さえ知っていれば誰にでも扱えるため、魔石商から魔石を購入し各自で刻み込んで使う。

しかし模様に法則性がないため、『魔道ギルド』が日夜あたらしいルーンの発見に取り組んでいるようだが、成果は芳しくないらしい。

それもそのはず。

このルーンは『漢字』をデフォルメしたような文字でできている。

というかそのものずばり漢字だ。

そのためこちらの世界の人にはただの模様にしか見えないのだろう。

なぜ漢字がこの世界にあるのかはわからないが、とりあえずそういうものだと思っておく。


つまりだ。

漢字を知っている俺は魔道具を作り放題ということになる。

魔石は数種類であるが一般的に取引されているので自分で作ってみるつもりだ。



ここで魔石について記しておこう。

・魔石とは生物が魔物化するときに生成される魔力の塊で、魔物の力の根源となっている。

・魔石にはランクがあり、大きいものほど内包する魔力が多くなる。

・内包する魔力がなくなると砕けて消える。

・等級は1級-1cm、2級-2cm、3級-4cm、4級-8cm、5級-16cmで、現在確認されている最高級が5級品となる。

・属性によって色が異なり、火―赤、水―青、土―黄、風―緑、光―白、闇―黒、無―透明、爆―橙、氷―水色、木―茶、雷―金、聖―銀、毒―紫の色をしている。


また自然界にも魔石は存在しており、魔力の濃い場所で自然と結晶化する。しかしそういった場所は強力な魔獣の生息する地域であり、一般に出回ることはほぼない。

そのため一般的に魔石と言うと魔獣から採集した魔石のことをさすようだ。

魔物が生成する魔石は純度が低いため、天然ものの魔石は高価な代物になる。

超文明時代には人工魔石も作られていたという。


というのが【世界知識】の情報だ。

ちなみに一般販売されているのは基本属性の魔石のみとなる。

これは上位属性を持つ魔物は強力なものが多いため、討伐数が少ないせいだ。

そして等級も2級までとなる。

これも同様に3級以上の魔石を持つ魔物はBランク以上で、流通量が限られてくる。

なので自然と3級からは高級品となり、貴族や裕福な商人でなければ取引できない値段で売られているのだ。


なので上位属性の魔石が欲しければ自分で取りに行くしかない。


普通なら。



俺の場合は普通じゃないので案外できたりする。

まず魔力を通さない結界を張り、内部を魔力で満たす。

後は結界を縮小して高圧縮するとはいこの通り。

結晶化した魔力の塊、魔石の完成だ。

超文明時代には大掛かりな機材が必要だったのがチートのおかげで解決してしまえる。

しかも純粋に魔力だけで作ったので不純物が混ざらず、モンスターからとれる魔石よりも内包する魔力がずっと高いというおまけつきだ。

2級品の大きさなのに4級品相当の魔力を保有しているのが分かる。

いわゆる人口魔石というやつだ。

今作ったのは無属性だが、属性を込めれば属性魔石もできる。

これに楷書体で『発光』と刻み込んで魔力を通すと、


ピカ―――


明かりの魔道具の完成だ。

ルーンが正確なことと人口魔石なことも相まって普通の魔道具より強力な光を発している。

魔力の光なので手に持っていても熱くはないが、正直まぶしい。

なのでアイテムボックスにしまっておく。

暇なときにサーチライトにでも改造しようと思う。


ちなみに魔石とルーンには相性があり、相性が悪いと暴走する。

どの属性で無使える『発光』であれば属性の色に光り、『矢』なら属性の攻撃呪文になる。

しかし、火属性魔石に『流水』など属性と反するルーンを刻むと暴走し、最悪爆発することがあるようだ。

そのため属性共通のルーン以外は使用が厳重に取り締まられている。


逆に言えば暴走させなければセーフ。

ぎりぎりグレーゾーンともいえるかな。

もともと暴走させるつもりはないので魔道具作りに支障はない。

ただし流通させるには商業ギルドと魔道ギルドの許可が必要だ。

どちらも多額の申請費用がいるため、資金に余裕ができたら申請しようかと思う。

別に申請しなくても売買はできるけど、わざわざギルドと敵対してまで得られるメリットは少ない。

むしろ今後のことを考えるとデメリットの方が多いくらいだろう。

なのでギルドとは穏便な関係を築いておきたい。



ベッドに腰掛けながらあれこれしていたがそろそろ寝ようかと思う。

この世界の一般的なベッドは箱に藁を敷き詰めてシーツをかけただけのものなので寝心地はお世辞にもいいとは言えない。

貴族なんかは綿のベッドで寝ているようだが、洗濯や手入れの手間から簡素なものが多いようだ。

それでも地べたで寝るよりはずっとましなので文句は言わない。

魔物の跋扈するこの世界では、安全な場所で寝られることも贅沢のうちなのだ。

そんなことをつらつらと考えているうちに瞼が重くなってゆく。





翌朝。

今日はホーンラビットの素材を売るために冒険者ギルドに来ている。

買取カウンターでいつものように素材を出すと、受付のお姉さんの顔が心なしかひきつったような気がした。

お姉さんは何事もなかったかのように姿勢を正す。


「申し訳ありませんがこの素材はこちらのカウンターで受け付けることはできません」


なんと買取拒否されてしまった。

どういうことだ、依頼にはちゃんとホーンラビットの素材があったはず。

品質に問題はないはずだ。

むしろ召喚術で出した品のため他の物よりずっと質がいいくらいだ。

もしかしてずるしているのを見抜かれたか?


そんなこちらの混乱を見越したかのようにお姉さんが言う。


「ギルドの裏手に回ったところに倉庫と一体化した『討伐専用カウンター』があります。

討伐したモンスターの素材はそちらに持ち込んでもらえれば買取させていただきます」


ということだった。

まさか召喚術がばれたんじゃないかとびっくりしたよ。

確かにこんなところで大物を出されても運ぶのに困るな。

それに血の匂いもするだろうし。



妙に納得して裏手に回ると、確かに『討伐専用カウンター』と書かれた受付があった。

ただしこちらにいたのはきれいなお姉さんではなくごっついおっさんだったが。

そんなこちらの表情を読み取ったのかおっさんが声をかけてきた。


「そんな顔をするんじゃねぇよ。

たしかにこっちゃ華のない作業場ではあるがな」


そう言って鼻息荒く腕を組む。

背後の作業場では黙々と獲物の解体をする作業員たちがみえる。

どれもおっさんばかりだ。


「獲物の解体ってのは力がいるからな。

軟な奴には勤まらんさ。


んで、本日はどのような用件で?

買取か? 解体か?」


どうやらここでは買取以外に解体もしてもらえるらしい。

確かに素人がやるより確実だし、実際解体が苦手で丸ごと獲物を持ち込む冒険者も多いのだろう。

とりあえず本日の目的を果たすことにする。


「買取で」


そう言って3体分のホーンラビットの素材を取り出す。

こちらがホーンラビットとはいえ3体分の素材を出したことに驚いた様子はない。

魔力の多い魔術師なら馬車一台分程度なら余裕で収納できるからだ。

多少容量に差があっても個人差で済ませられる。


むしろ目が行っているのは素材の方だろう。


「これは・・・・・・、お前が狩って解体したのか?」


召喚術で出したものであるが自分がやったものではあるのであいまいに返事をしておく。


「なかなか質がいいな、それに罠で仕留めたか何か知らんが傷一つない。

剥ぎ取りも丁寧にされていて申し分ないな。

むしろこんなに丁寧に解体されたのは初めて見た」


そう言って腕を組みながら唸る。

ふと、何か思いついたようにぽんと手のひらに拳をぶつけた。


「お前さん、うちで解体作業をする気はないか?

今ならいい値で雇う用上に掛け合ってやる」


そう聞いてくるので慌てて辞退した。

脳裏に映るのは無残に解体されたホーンラビットのなれの果てだ。

魔石をとるついでに試しに解体してみたところ、力加減がうまくいかずに皮はボロボロ、骨は肉がたくさんこびりついた結果が思い浮かぶ。

とてもではないが解体屋として生計を立てることはできないだろう。

おかげで【解体:1】というスキルが手に入ったが焼け石に水だ。

なので相手からの追及を「自分は冒険者でやってくつもりだから」と必死に断る。



というわけでいつの間にか「気が向いたら手伝う」という約束をさせられてしまっていた。

近いうちに従魔に解体を覚えさせておこう。

鑑定を終えたおっさんからカードが返される。


「ほら、690Gだ。

肉の方は質が良かったから3体目からの値引きはなしにしておいた」


そういって渡されたお金を受け取る。

これで依頼達成は9回だ。

あと何回でランクアップか知らないが順調だと思う。






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