5.優雅な密談
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マリユスは母親譲りの儚げな美貌に柔らかい微笑を乗せたまま、執務室に腰掛ける王を見やっていた。
恭順の意を示すように胸元に手をやったまま、美しい笑みで小首を傾げる。
「 ーーそれで、お話とは何でございましょう、父上」
王は沈黙する。獅子のような猛々しい美貌を鮮やかに彩る金色の瞳をマリユスに向けると、ふっと笑う。
「…テティリーヌを嫁がせようかと思ってな 」
「 それはーー喜ばしいことです」
マリユスは笑みを浮かべたまま。
「 嫁ぎ先はまだ決まっておらん。ただテティリーヌももう二十だろう。嫁ぎ遅れもいいところだ。あまり王冠の夢を見せても哀れだしな」
牙のように見える尖った歯が薄いくちびるから覗く。マリユスは笑みを崩さない。
何年経っても、この王の真意は読めた試しがなかった。
「お前がいい嫁ぎ先を見つけてやれ。直ぐにな 」
「 承知いたしました、父上。大切な妹の嫁ぎ先ですから、良い条件のものを探してまいりましょうーーああ、勿論このリュクラシアにとって、でございますけれど」
マリユスが笑みを浮かべるまま語れば、王は低く唸るように笑った。
「 別にテティリーヌの為になる場所でも構わん。あの子に世の厳しさを教えてやっても、それもまたいい」
「 それはーー大切なことですね。テティリーヌは少々世間知らずなところがございますから」
「 はっ、抜かせ」
王がひらひらと手を振った。それを合図に、マリユスは一礼して部屋を退出する。
微笑みの裏に浮かべるのは、大陸の地図。
国益、それから自らに降ってくる利益。そして、テティリーヌへのわずかばかりの悪戯心。
「…可哀想に。父上のお顔に泥を塗るからーこうなるんだよ?」




