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18.武闘の後には

*****



「 すごい試合でした、兄上方!」


アレスタントがヴォルフガングとレオナードに挟まれるようにしてこちらに歩いてくると、アデルナハトはぱっと立ち上がって拍手をした。


「 それに、アレスタントも…!!」


「 勿体ないお言葉です」


アレスタントは生真面目に返すと、静かに礼をした。水色の瞳と目があって、ラーレシアも柔らかく微笑んだ。


「格好よかったわ、アレス 」


びっくりしたように硝子玉みたいに澄んだ青の瞳を見開いたアレスタントは、すぐに恥ずかしそうに視線を揺らした。


「…ありがたいお言葉です 」


「 うちの騎士にならないか?って言いたいくらいだ、アレスタント!」


ヴォルフガングが炎のような赤い短髪を揺らし、楽しげに笑った。ばんばん、とアレスタントの肩を叩くと、親しげに微笑んだ。


「 また手合わせしよう、いつかな?」


「その時は俺も混ぜてくれよ、兄貴 」


第二王子、レオナードーーー赤く長い髪は高い位置で結い上げて、目端の利きそうな大きな瞳は青の水晶で覆われている。


初めて会うレオナードに、ラーレシアは静かに腰を折った。


「お初にお目にかかります、第二王子、レオナード殿下。リュクラシアより参りました、ラーレシア=スティラ=リュクラシアと申します。 」


「 …ん?ああ、よろしく」


どこか素っ気なくレオナードが返すので、庇うようにヴォルフガングが笑った。


「恥ずかしがり屋なんだ、許してやってくれ。ーーレオナード、お前ももう少し優しく、な? 」


「 …はいはい」


「お前はなぁ…」


呆れたようにヴォルフガングが笑い、つられたようにアデルナハトも小首を傾げて楽しげに笑う。


「 兄上方は仲良しですね」


「もちろん、お前とも仲良しだ、アデル」


「 ……!」


驚いたように目を瞬いたアデルナハトが、一拍後にはにかむような笑みを浮かべる。真っ白な頬に、柔らかな体温が色づいて、それに

一瞬目を奪われる。


「…そうですね、兄上 」


「 ああ、そうだ。アデル、お前も試合をするか?母上に何度か稽古をつけてもらったんだろう?」


「 …僕が、ですか?」


困ったように小首を傾げたアデルナハトが、ちらりとラーレシアを見遣る。


「 ……?母上…シェーロジァ様が?」


「ああ、そうだ。知らなかったか?母上は銀の民の長の一族の娘で、武術の達人なんだ 」


ヴォルフガングが悪戯っぽく言った言葉に、驚いてしまう。


「 …そうなのですか?その…驚きました。」


先日話したシェーロジァは儚げで美しく、触れれば消えてしまうような柔らかな繊細さがあったというのに。

その実、この兄弟たちを唸らせるほど強いというのか。


「 そう。母上は兄上たちでさえ勝てないんだよ?」


「 ……!?殿下方でさえ、ですか…」


流石に驚いて、目を丸くする。アデルナハトがころころと笑った。


「そうだよ。ラーレシア、子犬みたいで可愛い 」


「 …子犬……?」


「 うん、そう。お目々がくりくりして、きらきらしてる」


「…… 」


心の臓がどきん、と鋭く跳ね上がって、顔中に火が付いたみたいに熱くなっていくのがわかった。


どうしてこの人は、そう簡単にーーー


馬鹿みたいに頭の中が沸騰して、初心な小娘みたいに身体中が歓喜する。


ただのお世辞だと、そう受け流せない自分がいて。リュクラシアとは違う真摯で、優しくて、穏やかな日常に、自分というものが変質していくのが分かった。


「あーー 」


にこにこしているアデルナハトを尻目に、レオナードが気まずそうに頬を掻く。結い上げた赤い長髪が、馬の尻尾みたいに揺れた。


「 …お邪魔虫はさっさと退散っと…」


それだけ漏らすと足早にその場を後にしてしまい、ヴォルフガングも軽く笑った。


「 アデル、お前は天性の魔性か?」


「え?何を言うんですか、兄上… 」


「 ほら見ろ、お前の可愛い婚約者殿は可哀想に顔を真っ赤にしてーー」


「…?うさぎみたいに可愛いですよ 」


「………お前な 」


二人の会話すらも耳に入らないくらい、自分が腑抜けているのがわかる。


深く考えるな。


ただのお世辞だと、そう思えばいいだけなのに。


どうしてか、嬉しくて、恥ずかしくて堪らない。


こんなに自分は初心だっただろうか。

男性の無邪気な言葉に、心を動かされるほど、馬鹿だっただろうか。


「 ……姫」


「 ………」


「 ……姫」


静かな声音に、はっと意識が覚醒する。

見上げれば、長身を折りかがめるようにこちらを除いていたアレスタント。

水色の瞳に、惚けたようなラーレシアが写っている。


「 …アレス……」


「 …大丈夫ですか?」


何に対して問われているのかわからなくて、戸惑う。


「 ………いえ。大丈夫なら、構いません」


「…ええ…その… 」


「 ……………あのような貴女は…、あまり、見たことがありません」


「 あのような?」


違いのに、ヴォルフガングとアデルナハトが話している声が遠くに聞こえた。


アレスタントは眉を寄せた。

何かを、嫌悪するみたいに。


「 ……忘れてください。今の、言葉は」


「 …アレス?」


「 ………私は、ただの騎士だ」


「………どうしたの、アレス? 」


脈絡のない言葉に心配になって、アレスタントの指先にそっと手を触れようとすれば、まるで熱いものに触れたみたいに、アレスタントが顔を歪めた。


手袋に包まれた大きな手のひらで押し返すように優しく剥がされる。


「 ………すみません。先に、戻ります」


足早に去っていく背中に、何も言えなかった。


「…アレスタント……? 」


一体、どうしたのだろうか。様子が少し、おかしかったように思う。


「 ラーレシア?」


華奢な指先に手のひらを取られて、誰もいなくなった廊下から視線を外す。アデルナハトがこてんと小首を傾げ、ラーレシアが見つめていた廊下に青い瞳を向けた。


「 …殿下」


「アレスタントは? 」


「 いえその……疲れてしまったようで。先に戻ると。」


咄嗟に嘘を紡ぐ。


「 そっか」


疑う様子もなく、アデルナハトが微笑んだ。


「 アレスタントに伝えておいて。ありがとう、ゆっくり休んでって」


「…はい、殿下 」


後でアレスタントと話そう、そう誓いながら、ラーレシアは静かに頷いた。




更新が遅くなってしまいました…

もう少し早めの投稿を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします!

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