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side.テティリーヌⅢ

*****




「…っ…!!!!! 」


手を伸ばしてきた侍女の腕を振り払い、叫んだ声はかすれた吐息に掻き消された。あたりには割れた調度品が散乱している。



「テティリーヌ様、落ち着いてくださいませーー!」


「…!!……っ…!!!…!!」


怒鳴りつけた言葉は、はくはくと口を開いてこぼれ出た空気として消えていく。

テティリーヌの視界の正面には、赤いドレス。リュクラシアとは少し形式の違う、すとんと落ちた華やかな刺繍を用いたもの。テティリーヌが嫁ぐ、ドゥエンデ王国の花嫁衣装だった。


テティリーヌがそれを破ろうと手を伸ばせば、侍女たちが必死の形相でそれを押さえつける。


「テティリーヌ様、いけません!! 」


「オルニエフ国王陛下が用意してくださったものですから…っ…!! 」


「 だれか花嫁衣装(それ)を片付けて!!」


オルニエフ国王、との言葉にまた怒りが込み上げて、全身が震えた。


あんな男!!あんな男、自分の夫なんかじゃない…!


わたくしは王になるの。リュクラシアの王に!!


そう決めたの!


決まっているの!!


怒声は掠れた息となって消えていくばかりで、それにまた激しく苛立つ。

吐き気がするほどの怒りに、目の前にあった机をひっくり返した。

ガシャンガシャンと、ひどい音を立ててティーポットやティーカップが割れていく。


「テティリーヌ様……!! 」


「どうか落ち着いてくださいませ……!! 」


「 ーーーテティリーヌ…!」


侍女が呼んだのだろうか。聞こえてきた声に、テティリーヌはぱっと顔を上げた。


「 ………っ」


お母様、そうくちびるを震わせて、息を吐く。


テティリーヌと同じ、豪奢な金髪は緩く結い上げている。琥珀色の瞳がテティリーヌを柔らかく捉えた。


「 テティリーヌ」


蠱惑的な紅いくちびるが、笑みの形を描く。


「お母様に全部任せなさい 」


「…、、ぅ……… 」


母、ヴィクトワールにいつの間にか抱き寄せられていた。柔らかい体に、どうしてか力が抜けていく。


「 貴女はよく頑張ったわ、テティリーヌ」


そっと愛おしむように、髪の毛を撫でられた。頬を包まれて、目を合わせられる。柔らかな琥珀に目が逸らせなくなった。


「 可哀想に…坊や(マリユス)に声を取られたの。駄目ね、わたくしの可愛いテティリーヌにそんな酷いことをするなんて…」


ヴィクトワールは蠱惑的な微笑をただ深めると、テティリーヌの頬を撫でた。


「それに……貴女が田舎のドゥエンデに嫁ぐ?どうかしているわ、そうでしょう? 」


「…っ……!!」


何度も何度頷く。そうだと言わんばかりに。

ドゥエンデに嫁ぐなんて、おかしい。テティリーヌはリュクラシアの王となるために生まれてきたのに。王とならなければ、ならないのに。


「 そうよね、テティリーヌ。大丈夫、お母様は全部分かっているから。お母様が陛下(アレクシス)に掛け合ってあげる」


「…… 」


思わず母を見上げれば、妖艶な笑みを浮かべて頷かれた。


「 そうよ。陛下が認めればーーー」


母の琥珀色に、獅子のような獰猛な光が瞬く。凄絶で、それでいて目を離せない。


「 あの可愛い坊や(マリユス)も、文句を言えなくなるでしょう?」



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