side.テティリーヌⅢ
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「…っ…!!!!! 」
手を伸ばしてきた侍女の腕を振り払い、叫んだ声はかすれた吐息に掻き消された。あたりには割れた調度品が散乱している。
「テティリーヌ様、落ち着いてくださいませーー!」
「…!!……っ…!!!…!!」
怒鳴りつけた言葉は、はくはくと口を開いてこぼれ出た空気として消えていく。
テティリーヌの視界の正面には、赤いドレス。リュクラシアとは少し形式の違う、すとんと落ちた華やかな刺繍を用いたもの。テティリーヌが嫁ぐ、ドゥエンデ王国の花嫁衣装だった。
テティリーヌがそれを破ろうと手を伸ばせば、侍女たちが必死の形相でそれを押さえつける。
「テティリーヌ様、いけません!! 」
「オルニエフ国王陛下が用意してくださったものですから…っ…!! 」
「 だれか花嫁衣装を片付けて!!」
オルニエフ国王、との言葉にまた怒りが込み上げて、全身が震えた。
あんな男!!あんな男、自分の夫なんかじゃない…!
わたくしは王になるの。リュクラシアの王に!!
そう決めたの!
決まっているの!!
怒声は掠れた息となって消えていくばかりで、それにまた激しく苛立つ。
吐き気がするほどの怒りに、目の前にあった机をひっくり返した。
ガシャンガシャンと、ひどい音を立ててティーポットやティーカップが割れていく。
「テティリーヌ様……!! 」
「どうか落ち着いてくださいませ……!! 」
「 ーーーテティリーヌ…!」
侍女が呼んだのだろうか。聞こえてきた声に、テティリーヌはぱっと顔を上げた。
「 ………っ」
お母様、そうくちびるを震わせて、息を吐く。
テティリーヌと同じ、豪奢な金髪は緩く結い上げている。琥珀色の瞳がテティリーヌを柔らかく捉えた。
「 テティリーヌ」
蠱惑的な紅いくちびるが、笑みの形を描く。
「お母様に全部任せなさい 」
「…、、ぅ……… 」
母、ヴィクトワールにいつの間にか抱き寄せられていた。柔らかい体に、どうしてか力が抜けていく。
「 貴女はよく頑張ったわ、テティリーヌ」
そっと愛おしむように、髪の毛を撫でられた。頬を包まれて、目を合わせられる。柔らかな琥珀に目が逸らせなくなった。
「 可哀想に…坊やに声を取られたの。駄目ね、わたくしの可愛いテティリーヌにそんな酷いことをするなんて…」
ヴィクトワールは蠱惑的な微笑をただ深めると、テティリーヌの頬を撫でた。
「それに……貴女が田舎のドゥエンデに嫁ぐ?どうかしているわ、そうでしょう? 」
「…っ……!!」
何度も何度頷く。そうだと言わんばかりに。
ドゥエンデに嫁ぐなんて、おかしい。テティリーヌはリュクラシアの王となるために生まれてきたのに。王とならなければ、ならないのに。
「 そうよね、テティリーヌ。大丈夫、お母様は全部分かっているから。お母様が陛下に掛け合ってあげる」
「…… 」
思わず母を見上げれば、妖艶な笑みを浮かべて頷かれた。
「 そうよ。陛下が認めればーーー」
母の琥珀色に、獅子のような獰猛な光が瞬く。凄絶で、それでいて目を離せない。
「 あの可愛い坊やも、文句を言えなくなるでしょう?」




