2話 わたしもスピカが好き!(1)
その日、隼は放送室で音楽を聴いていた。
始業式から一週間ほどが経った。この日も神戸は晴れていて、日中はやはり暑いくらいだった。
隼は着ていた詰襟制服をパイプ椅子に放り投げ、コンポにCDを突っ込み、大好きなバンドである『スピッツ』の曲をヘッドフォンで聴いていた。
隼にとってスピッツは、バイブルのようなものだった。
人生において特にこれといった趣味を持ってこなかった隼だったが、小学六年生の時、いつだったか自宅の部屋でつけていたラジオから流れてきたのが、スピッツの『スピカ』だった。
なんだ、この浮遊感は――。
耳の中で星空を見上げたような、脇の下を誰かが支えて、自分を高く、高くかかげてくれるような。
世の中の音楽で隼が聞いたことのなかった『です・ます調』が貫かれているという格別の表現も、隼の心を奪った。
スピッツのすべての曲がナンバー・ワンだが、ひとつだけ、ひとつだけ選べと言われるならば、隼は『スピカ』を選ぶのだった。
――隼は、目を閉じて『スピカ』を何度も、何度も聴き続けた。
「あ、あの!」
ヘッドフォンの遥か遠くから声が聞こえて、隼は腰が抜けそうになった。実際、パイプ椅子から転げ落ちた。ヘッドフォンが転がった。
放送室の扉が開いていた。見るとそこには、あの転校生の、一ノ瀬 菜々子がいた。
「ごめん、何度も声かけちゃって」
そうか、『何度も』ということは、俺、ずっと気づいてなかったのか、と隼は思った。
そして菜々子が相当大きな声を出し続けたであろうことも。
「ごめん、気づかなかった――」
隼はあわてて立ち上がった。
「何か、用?」
ここは放送室だ。ふつうはこの部屋に用件のある生徒などいない。
「部活見学――」
そうか、二年生とはいえ菜々子は転校生なのだ。新しい学校で入る部活を、新入生と同じように探さなくてはならないのだと、隼は思った。
「そっか」
隼は放送室の中を見やった。放送に関連するものだとかこつけて部員たちが持ち込んだ音楽雑誌や最新電子機器を取り扱ったIT・ガジェット誌、おそらくOB・OGの誰かが置いていったであろう古い参考書や問題集、バラバラになった単語帳、昔配布されたいらなくなったプリント、そして奥にある、まったく整頓されていない、CDの山。
部活見学?そういえば、すでに入学式から一週間は経っている。いつ新入生が来るとも分からないのに、誰もこの惨状に気づいていなかったのかと、隼は思った。それは隼自身も同じだった。
「今掃除の途中でさ、中が散らかってる――」
「音楽聞いてたよ?」




