表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見上げるだけの天文部  作者: こおりがし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/21

第16話 真夜中の通話と、創作論

第16話 真夜中の通話と、創作論

 午前二時。  世界が寝静まった深夜。小日向あかりの部屋だけがノートパソコンのブルーライトに照らされていた。


「んんんん、、、、書けない」


 あかりは頭を抱えてデスクに突っ伏した。画面には、書きかけのテキストファイル。カーソルがチカチカと点滅している。それがまるで「まだ書けないの?」「才能ないんじゃない?」と急かしてくる信号のように見えて、あかりは胃が痛くなった。


 合宿で見た星空。あおい先輩の写真。みんなと過ごした時間。


 書きたいことはたくさんあるはずなのに、いざ言葉にしようとすると陳腐な表現になってしまう。「美しい」とか「綺麗」とか、そんな手垢のついた言葉じゃなくて、もっとこう、胸の奥を掴むような。。。


「あー、もう!ダメだ!」


 あかりが自分の髪をクシャクシャにしたその時だった。枕元のスマホがブーッと震えた。画面には『星野キキ』の文字。


「、、、え、キキちゃん?こんな時間に?」


 何かあったのかと慌てて通話ボタンを押す。


「もしもし?どうしたの?」


『、、、あかりーん、、、』


 スピーカーから聞こえてきたのは、この世の終わりみたいな、へにゃへにゃの声だった。


『、、、UFOが、、、私のプリン、、、食べたぁ、、、zzz』


「、、、寝言?」


 あかりは力が抜けて、椅子に深く座り直した。


「キキちゃん、それ夢だよ。プリンは冷蔵庫にあるよ」


『、、、んん?あれ?あかりん?』


 ガサゴソと布が擦れる音がして、キキの声が少しだけはっきりした。


『、、、なんであかりん、私の夢に出てくるの?出演料高いよ?』


「夢じゃないよ、電話かかってきたの。・・・私、起きてるから」


『えー。こんな時間まで?不良だー。補導だー』


「違うよ。。。小説、書いてたの」


 あかりは少し躊躇ためらいながらも、正直に答えた。誰かに聞いてほしかったのかもしれない。


『小説?、、、進んでる?』


「ううん、全然。・・・なんかね、書いても書いても、面白くない気がして」


 深夜のテンションのせいか、あかりは弱音を吐いてしまった。


「私には才能ないのかなって。あおい先輩みたいに独自の視点があるわけじゃないし、部長みたいに度胸があるわけでもないし、、、」


『ふぁ~~~~、、、ふーん』


 キキはあくびをしながら興味なさそうに返事をした。やっぱり、こんな話つまらないよね。あかりがそう思った瞬間。


『、、、でもさ、私は好きだよ』


「え?」


『あかりんの話。……合宿の怪談はビビりすぎてて面白かったし、星の説明してくれた時も、なんか楽しそうだったし』


 キキの声は、眠気でトロトロしていたけれど、不思議と芯が通っていた。


『あかりんが「面白い」って思ったことを、そのまま書けばいいじゃん。難しい言葉とか、私わかんないし』


「、、、そのまま?」


『そう。あかりん自身が見た星が、一番綺麗なんでしょ? ……なら、嘘つかずにそう書けばいいじゃん。あおい先輩がどうとか、関係ないし、、、むにゃ』


 後半はほとんど寝息混じりだった。でもその単純明快な言葉は、あかりの胸にストンと落ちた。


 そうだ。誰かに評価されるために書くんじゃなくて、私が見た景色を残したくて書くんだった。キキの言う通りだ。難しく考えすぎて、自分の言葉を殺していたのかもしれない。


「、、、ありがとう、キキちゃん」


『……んー……プリン……返せぇ……』


「ふふ、やっぱり夢の中だ」


 あかりはクスッと笑って、通話を切った。部屋に戻った静寂は、さっきまでよりも少しだけ優しく感じられた。


 画面に向き合う。点滅するカーソルはもう敵ではない。次の言葉を待ってくれている相棒のように見えた。


 あかりはキーボードに指を置いた。『真夜中の電話は、宇宙からの交信に似ている』


 一行目がスラスラと打てた。それはきっと、名作ではないかもしれないけれど。今のあかりにしか書けない、等身大の言葉だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ