第15話 部長のミステリー・ショッピング
第15話 部長のミステリー・ショッピング
お盆休みの真っ只中。あかり、キキ、あおいの三人は、駅前の商店街にある甘味処で涼んでいた。店内のテレビでは甲子園の熱戦が流れている。
「、、、あ、見て。あれ」
窓際の席に座っていたあおいが、かき氷のスプーンを止めて外を指差した。あかりとキキが振り返ると、ガラス越しに衝撃の光景が飛び込んできた。
「えっ、、、部長?」
真夏の太陽が照りつける通りを夏目みどり部長が歩いていた。しかし、その様子がおかしい。黒い日傘をさし、サングラスをかけ、手には『極秘』と書かれた(ように見える)アタッシュケース。そして、反対の手にはなぜか『金属バット』が握られている。
「、、、な、何あれ!?ヒットマン!?殺し屋!?」
キキが氷を吹き出しそうになりながら叫ぶ。
「バットに、アタッシュケース・・・どう見てもカタギじゃないね」
あかりも冷や汗を流した。普段のふわふわした部長とはオーラが違う。みどりは精肉店の前で立ち止まると、強面の店主と何かをヒソヒソと話し込み、アタッシュケースを軽く叩いた。店主は深々と頭を下げ、裏口から『赤い液体が入った瓶』を渡している。
「血だ!生き血の取引だ!」
「、、、トマトジュースかもしれない」
あおいは冷静だが、目は面白がっている。
「尾行するよ。・・・このまま見過ごすと、天文部が『犯罪組織』の下部組織になりかねない」
「えええ!?私たち消されるの!?」
こうして、天文部による「部長追跡ミッション」が始まった。
みどりは商店街を抜け、神社の裏手にある人気のない広場へと入っていく。三人は電柱の影に縦に並んで隠れた。上からあおい、あかり、キキ(しゃがんでいる)のトーテムポール状態だ。
広場の真ん中でみどりが立ち止まる。彼女はゆっくりとアタッシュケースを地面に置き、金属バットを構えた。その目の前には、ビニールシートに覆われた『人くらいの大きさの物体』が転がっている。
「ひぃっ!死体!?死体処理!?」
キキがガタガタと震える。みどりがバットを振り上げた。太陽の光が金属に反射しギラリと光る。
「、、、成仏しなさいよぉ~!」
ドゴォッ!!鈍い音が響き、赤い飛沫が飛び散った。
「ぎゃあああああ!!やったぁぁぁ!!」
キキが叫び声を上げて飛び出した。あかりとあおいも慌てて続く。
「部長!早まらないでください!自首しましょう!」
「カツ丼なら私が差し入れしますから!」
三人が広場の中心へ駆け寄ると、みどりはサングラスをずらし、キョトンとした顔で振り返った。
「、、、あらぁ? みんな、どうしたのぉ?」
彼女の足元には粉々に砕け散った『巨大なスイカ』が転がっていた。赤い飛沫の正体はスイカの果汁だった。
「、、、え?スイカ?」
「うん。商店街の福引の景品なんだけどねぇ。大きすぎて包丁が入らなくて」
みどりは金属バット(実はプラスチック製の子供用おもちゃ)をポンポンと手で叩いた。
「だから、『スイカ割り』で解体してたんだよぉ」
「紛らわしいわ!!」
キキが全力でツッコミを入れた。
「じゃあ、あのアタッシュケースは!?」
「これ?、、、中身は『保冷剤』だよぉ。スイカ冷やすための」
「精肉店でもらってた赤い瓶は!?」
「『キムチの素』だよぉ。今夜は豚キムチにするから」
すべての謎が解けた。ただの生活感あふれる買い物だった。三人は力が抜け、その場にへたり込んだ。
「あああ、よかった。。。てっきり闇バイトかと」
あかりが胸を撫で下ろすと、みどりはニコニコしながら砕けたスイカの一欠片を拾い上げた。
「そんなわけないでしょぉ。私は清廉潔白な天文部部長だよぉ?」
そう言って笑う彼女の笑顔は、いつも通り優しく、そしてどこか底知れない。
「、、、でも、そうだねぇ。ここを見られたからには、、、」
みどりの目が、スッと細められた。
「、、、『共犯』になってもらおうかぁ?」
「えっ」
「スイカ、多すぎて食べきれないんだよねぇ。。。全部食べるまで帰さないよぉ?」
みどりはアタッシュケースから人数分のスプーンを取り出した。まるで最初からこうなることを予期していたかのように。
「さぁ、スイカ地獄の始まりだよぉ~」
「結局、『証拠隠滅』の手伝いじゃないですかー!!」
セミの鳴き声が響く神社の裏手。真っ赤なスイカを囲んで、四人の『組織的犯行』は夕暮れまで続いた。甘くて、少しぬるい、夏の味がした。




