依頼主は誰??
「い、いやぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!」
「‥え?」
声のした方を見ると、依頼主が魔物に襲われていた。
といっても下位のスライムである。
そしてその周りに懐かしの炎ガエルが数匹。
「た、助けてっ!リール助けてぇ」
さっきは威厳いっぱいに見えたけど、やっぱ普通に怖がりじゃん。
年相応な姿に相好を崩しながら、
「はいはい」
そういって魔力を抑制していた力を緩める。
一気に身体中が元気になっていくような感覚にニヤニヤしながら、
「water」
手から水が渦になって空を舞い、スライムや炎ガエルの上は土砂降りに。
炎ガエルが纏っていた炎が消えたのを確認してから、
「water&wind」
鋭いつららのように、組み合わせによって水が凍って、スライムと炎ガエルを突き刺した。
うわ、魔物が死ぬ瞬間を、初めて至近距離で見たかもしれない。
シューっと音を立てながら、空気に霧散するように消えていく。
ほんのりと漂う、スライムの濁りと炎ガエルの赤い霧をふぅっと吹いてみると、そこには何もいなかったみたいになった。
いや、下にある綺麗な魔石だけが魔物と戦った証拠かな。
「ルーク、この魔石って持ち帰ってもいい?」
護衛などの依頼中に取れた魔石は、冒険者が持ち帰らせてもらえるのか依頼人側が全て管理するのかは、その依頼によって違うらしい。
「う、うん‥」
振り返ってから初めて気がついた。
ルークは、普段見慣れない魔物に腰を抜かしてしまっていたようだ。
「どうしよっかなぁ‥」
せっかく、この日を楽しみにしていたらしいルークが腰を抜かしてしまっているのは、前世も含めたら確実にお姉さんの私としては見過ごせない。
「よいしょっと」
「んん!?」
手を身体強化して、ルークを持ち上げる。
「何してる!?」
腰を抜かした衝撃も忘れたようで、レース越しに尋ねてくる。
「いわゆる、お姫様抱っこってやつ!」
乙女ゲームとかでヒロインを持ち上げる王子様を見て、前世ではよく身悶えしたものだ。
ただまぁ、今は悪役令嬢が見知らぬ依頼人を持ち上げているわけだから全く萌えないけれど‥‥。
「そ、そういうのは男が女にするものでしょう」
私と目が合わないように(元からレースで合わないのだが)顔を背ける依頼人を可愛らしく思う。
「このままどっか開けたとこ行きましょう。なんか切り株とか探して、そこに座らせてあげますから」
「気遣いはいらない」
「じゃあ立てますか?」
「う‥‥」
そんな感じでお姫様抱っこに決定したのだが、年頃の男子だ、このままの姿勢は恥ずかしいだろう。
「スピードあげますねぇ!」
「え」
「wind」
足元で風を巻き起こし、疾風のごとく走る!
「sjふぁkdsぁhがp;」
依頼人がちょっとかわいそうなことになっているが気にしない。
だけど、進んでも進んでも開けた場所はなかった。
ゼェゼェ息をしている依頼人を見ながら、カラメロがいたら怒られそうだなぁとか思う。
「仕方ないから、fire」
ごうっと音を立てて木々が燃え、更地ができた。
前世では絶対怒られそうだけど、ここは無法の異世界ダァ!
「からの、soil」
そして土魔法でベンチづくり。我ながら完璧である。
「どう?ルーク」
「す、すごい‥。冒険者って本当に強いんだね」
「んー、私が例外かもしれないね」
「そっか」
ふふっと素でわらった彼の声は、どこかで聞き覚えがあるような‥。
「ねぇ、私‥いや、もう僕でいいか。僕の知り合いの話を聞いてもらえますか?」
「ええと、知り合い‥?」
「うん、それはもう本当に‥本当に可愛くてしょうがなくて、何より力が強くて格好よくて、この前なんて僕のことを謎の魔獣からかばってくれたりして!!」
なんだかとても自分と類似点が多すぎる気がする。
可愛さに関しても‥さすが乙女ゲームの悪役令嬢という感じで、まぁ可愛い。
そして力が強いのも、変な魔獣を倒したのも事実。
「ええと、その知り合い‥さんとはどういう関係なの?」
「実はね‥僕の愛しの婚約者様なんだ!」
「アッ」
なるほど、完璧王子と噂される婚約者様を魔物から守って、挙げ句の果てにお姫様抱っこしていたらしい。
「ん、どうかしたの?」
顔を覗き込んでくるクラッセルに対して、どう反応すべきかぐるぐると思考する。
ここで実は私がレイティーンだよ!とバラしてしまうと今後冒険者として自由に活動できなくなる気がする‥。
よし、なるべくバレないようにして、もしバレたらそのときはドッペルゲンガーです作戦で行こう!!
「ええと、それで、何を私に聞かせたいのかな?」
「いやぁね、リールって女の子でしょ?」
「成人男性です」
「無理があるって!あははっ」
クラッセルって、素だとこんな感じだったんだ。
普段敬語同士だから、タメで話すと不思議。
ゲームでもレイティーンにも、完璧な王子様の面しかあまり見せなかったからとても新鮮だ。
もしかして‥ヒロインにも心を完全に開けてはいなかったのかな。
「だから、今度買うレイティーンへのサプライズのプレゼントの相談をしようと思って」
「お菓子がいいと思う!!!」
しまった、素が出てしまった。
「お菓子‥?君はなんだか僕の婚約者に似てるね」




