淑女教育は大荒れです①
祝日も投稿することに決定!
今日は、フィレンツェティトにつけられた淑女教育の先生との対面だ。婚約式からまだそれほど日も経っていないのに、もう王妃教育が始まるのか…。王太子はヒロインと真の愛を見つけるから、そんなのいらないのに。まあ、礼儀作法はどこでも使えるから、覚えておくに損はない。
「失礼します。お待たせいたしました。」
軽く顔を上げて目にした女性は…
「いいえ、こちらが早く着きすぎてしまっただけですわ。
今日からお嬢様の淑女教育を担当させていただくことになりました。キーシー・マーストンと申します」
腰を落として挨拶する、モノクルをかけ髪の毛をひっつめて高い位置でお団子にしたザ・教頭という感じの淑女はマーストン伯爵家の未亡人で、60代だという。怖そうだ…。
「よろしくお願いしますね…」
ぎゃあ!口角がきゅっと持ち上がると、ただでさえ威圧的な雰囲気を与える切れ長の目が吊り目になり、近寄る物は全てを罰するオーラが出てくる。
おおおお落ち着け、パワーも権力も私の方が上な…はず!うん、はず…。
「あわわわわわ、また初対面のご令嬢を怖がらせてしまいました…。」
頭を、抱えているだと!?あれ?意外と…
「意外と優しい……?」
「ひゃいっ!優しいかどうかと言われますと、相手の方には最大限に敬意を払っているつもりではありつつも断言はできません…。しかし、この顔のせいで恐ろしく見えてしまうのですうう!」
彼女が語ってくれた話によると、昔は「森の宝石」だなんて噂される美貌のと美しい所作の持ち主で、艶やかな深緑の髪が揺れれば場が華やぎ、イエロートルマリンのような黄緑の瞳は吸い込まれそうな煌めきだという評判だったのだが、先のマーストン伯爵と結婚してからは次第に社交界に出なくなっていき、妊娠、出産、子育て、と人生の山場を経験して行くうちに顔つきがただでさえ冷ためだったのにどんどん険しくなってしまい、それのせいもあり最近はマーストン伯爵家の別邸に篭りがちなのだという。しかし、昔の社交の腕を見込まれて女王陛下から未来の王妃の教育を頼まれたとあっては断れないし、もし断れば国家に反逆する意図があるのかと疑われかねないので、渋々やってきたのだという。
「すみません、お嬢様に私の裏事情までお話ししてしまって…。無駄な時間を作らせて本当にすみません…」
『この人が、「森の宝石」…?なんか随分おどおどしていて頼りなさげじゃない。』
『こら、カラメロ。さっきの話聞いてた?彼女は色々大変で自分に自信をなくしてしまっただけなのよ。
きっと今からでも取り戻せるわ』
などと念話をしながら彼女を観察する。挙動こそ堂々たる振る舞いとは言えないが、背筋がしゃんと伸びて立ち居振る舞いが綺麗で、迫力は十分にある。
「あなたが周りからの心無い視線で失ってしまった誇りと自信、私に淑女教育するうちに取り戻せるといいですね!」
「はひ、ありがとうございます…」
それからキーシーから色々詳しく学んだ。立ち居振る舞いに関してはレイティーンが努力していた頃の記憶が体に染み付いていたが、難題だったのは…
ダンスとお茶会、そして社交会の掌握である!!!
「まず、基本所作に関しては問題なさそうなのでダンスについて今日からはお教えいたします。」
「はい!あれ?でも先生は女性ですから…」
「問題ありません、今回のために男性パートも習得して参りました!」
頑張り屋さんだなあ。ちょっと自信も取り戻してきたように見える。
「あと、うちのお抱えのバイオリン奏者も読んできましたので!」
見ると後ろに怪しい覆面さんがいる。
「んんっ?」
「見た目は怪しいですが、腕は確かですよ。まあ、手とか見るに若い男の子じゃないですか?」
「ええと、彼を雇ったのはいつ?」
「一ヶ月前くらいですかね…?すごく演奏が上手なんですよ。突然、僕を期間限定でバイオリン奏者として雇ってよ、っていうので。家出じゃないってましたよ。行儀見習い的な?あ、私以外の前では声から人を特定されたくないから喋んないんですって」
「そんな曖昧な説明でよく雇いましたね!?」
「あら、私だってこの子の正体は知っておりますわ。調べさせましたもの。あの子や他の子には言えないけれど」
小声で私にそう告げてくる。さすが人身掌握に長けた「森の宝石」だ。
無言で席につき、バイオリンを構える彼を尻目に、
「さあ、私と踊っていただけますか?公女」
やけに恭しい…
「ええ、こちらこそ、踊っていただけるだなんて光栄ですわ、キーシー様」
そうしてワルツが流れ出す…。私は優雅な音楽に身を委ね…
というわけに、パワーはあっても繊細さのかけらのないレイティーンがなれるはずもなかった。
「きゃあ!足踏まないでくださいまし!!」
「ごめんなさーい!!」
レイティーンの淑女教育は難航しそうだ…。




