母上はまいりました…
「最近は、何をしているのかしら?」
うん、明らかに家族の会話としておかしいね。ここはちょっと刺激を与えてあげよう。
「体を鍛えております!」
「「…は?」」
出来損ないの娘なんて興味なさそうな様子だった父までもが反応しました。馬鹿正直に答えすぎたかな!?
今日はカラメロもリリもいないから、暴走したかったらいくらでもできてしまうのだ。
「ええと……見ててくださいまし……はあっ!」
シュッと小気味良い音がして、母親の真横を全速力で私の拳が駆け抜けていった。
彼女の濃い赤の髪が一房落ちた気がする。ちょっと制御ミスしてしまったような…?女王は王家の血筋を表す金髪だから、この部屋に赤いかみが落ちているのはまずい…。どどどどどどうしよ
「あわわわわわわわ」
母の声か自分の声かはわからないが、とりあえず今現場は混乱しているっ!あ、そうだ
「ふんっ」
美しい髪を鷲掴みにし、力任せに引きちぎる。魔法の粉のように、窓から差し込んでくる光に煌めいて髪の毛だったはずの細い糸たちが、絨毯の上に広がる。
絨毯が赤だから遠目からはわからない!よし!
「髪の毛が、ひき、ちぎ、られた…?」
もう、自慢の髪が一房なくなったショックよりも、私のスンバラしいパワーに見惚れているようだ。
「他にも、見せてあげてもいいですよ」
「いや、いいわ…」
「髪の毛が、ひき、ちぎ、られた…?」
私は公爵夫人。この国の貴族社会で言うと女王陛下のつぎに尊い立場の貴族女性に当たる。その私の髪を笑顔で風圧のみで落とし、おまけに隠滅を引きちぎってばら撒くという強引な方法でやるだなんて…!
私は、今までの人生に誇りを感じ、ただしき選択、貴族として何恥じない選択を常に心掛けてきたつもりだった。そのおかげで社交界では「大輪の薔薇」という名誉ある呼び名までいただき、満ち足りていた。
…長女が魔法を使えないこと以外は……。
その上、今目の前の彼女は信じられない力を魔法も使わずに擁している。末恐ろしい…。
「他にも、見せてあげてもいいですよ」
それでいて笑顔でにぎり拳を掲げながら更なるマウントを重ねてくるのですよ!?
横の夫はいつも通りボーッとしていらっしゃるし…
「いや、いいわ…」
なんだか母が静かになりました。女王陛下が来る前に家族仲が落ち着いて(?)良かった。
「やっと我が子を見つけたわあ、お姉様あ!」
ダダダダダダダダ
廊下をかけてくる足音が二人分、特にドタドタうるさいのは女王のようだ。
「それはようございました。女王陛下」
「へ?」
部屋の前で急ブレーキをかけて立ち止まったフィレンツェティトは、私たち三人が臣下の礼をとっているのを見て青ざめらた。
「さっきの、聞かれた…」
「女王陛下は先日お姉様がおできになる夢を見られて、夢でも王太子殿下が我々の前からいなかったためその時と混乱しておいでなのです。どうか、お気になさらず。」
「え、ええ。そう、あの夢は面白かったわ。あはははははは」
異論は許さない、と言う目で見つめたら、なぜか母上も父上もあっさり頷いてくれた。権力ってすごい。
「こんな場所じゃなんですから、他の部屋へ移動しましょう。ここは私の私室だった場所ですし、正式な婚約式の準備は別の部屋に取り揃えてありますわ。」
さっきのことを忘れたかのように平然と案内できるフィレンツェティトのメンタルは、ミスリルでできていそうだな…。
「ここですわ!」
色々ありすぎて忘れかけていたが、ここは煌びやかで絢爛豪華な宮殿、当然婚約式の会場も高そうなものばっかだ。重心を崩したりして壊さないか心配すぎる。
お淑やかに歩くお淑やかに歩く…
おおっ!礼儀作法はレイティーンに染み付いているようで、一端の淑女に見える。
「その様子なら、婚約披露パーティーも大丈夫そうですわね、レイティーン公女」
「はい、って、婚約披露パーティー!?」
「もちろん、王族と公爵家の婚姻で開かない方がおかしいですわ。貧乏男爵家などでも、婚約披露パーティーだけは奮発して開くと言うのに」
そう言いながらソファにゆったりと腰掛けるフィレンツェティト。その正面に座る私と王太子殿下。サイドには両親だ。
「さあ、ダンスの練習なども頑張らなくてはいけませんね。それを成立させるためにも、まずはこれにサインを」
もうすっかり調子を取り戻したらしい王子に書類を渡される。婚約に関しての細々したことが書いてある書類だ。その下の自分の名前のところに、
レイティーン・ド・リキャリニス
と書き加える。正式な書類であるため、高位貴族の証拠であるド、も書かなくてはならない。
などとどーでもいいことを私が考えている間に、婚約が成立してしまった…。
「これからよろしくね、レティー」
波乱の予感しかしないしもうやだけど、横のショタがイケメンなので許せる気がしてきました!




