第59話 観察
「なんで鳥が犬になってるんだ……ファビコンはそのままだし」
いろいろ見て回ろうと思って久しぶりに地獄の釜の蓋を開けてみれば、そこには想像を超えた現実があった。事実は小説より奇なりとはよく言ったものである。なんかこのセリフ前にも言った気がするな。でもそういう現場を目の前にしたら何度言ってもいいセリフだろう? むしろ言わないでどうする。頑張った事実さんは、ちゃんと毎回褒めてあげるべきだ。
しかしなんだな……いきなり変わるとそれなりに反響というか、混乱は免れないようだな……根底から何かが変わったわけではないとはいえ、不安になってしまうのかもしれない。まあアレはアレで最近やらかしまくってるみたいだから、また話が違うのかもしれないけど、長年親しんできたものがいきなり変わると、そりゃ馴染んでた人であればあるほどビックリせざるを得ないよな……
私がこれからこの世界に何かを仕掛けてしまったら、同じことが起きる気がする。元に戻せるから失敗とかを気にするなとは言われているけど、戻せるから何をしても良いって、そういうことじゃないだろう……もしかして元に戻すって、住人の記憶すら元に戻せるとかそういうこと……? それこそ、そんな現場を目にしてしまったら……あ、私のその記憶も消えるのなら問題ない? うーむ……
「それはそうと、新しい世界に足を踏み出したい人がいるかどうか、だよね」
現状に悲観はしても逃げ出すまではなかなか、逃げてもすぐに逃げたことを後悔する……とまではいかなくても、居心地の悪さに気づいたりして結局モヤってるパターンが多い気がする。災害とか戦争とかで避難せざるを得ないとか、そういう差し迫った脅威みたいなものが無いと、逃げるという選択は現実的ではないのではないか?
実際、これまでにこちらの世界に逃げて――うーん、この表現が適切なのかな、まあとにかく、こちらの世界に連れてこられた人は、止むに止まれぬ事情があった人ばかりみたいだ。こちらに連れてこないと危険な人を連れてきているって話を、採用の時に聞いた。私もそうだったらしい。そんな自覚は無かったのだが、本当に危険な時は自覚が無いというのは有名だし、なんともいえない。
で、そういうレスキュー的なことは引き続き偉い人主導で行われるので、私はそれ以外の流れで住人をスカウトすることになるわけだ。といっても……私みたいな特殊な性格をしていないと、この世界に住みたいなんて思うのかどうか、正直言って疑問だ。先の『差し迫った脅威』のようなものを日常で感じていて、レスキューの目に留まらない程度には日常を送ることができている人が対象になるのかな――と捉えているわけだけれども、どうにも対象者が見つからない。
「募集をかけたところでなあ……冷やかされるか通報されるかがオチだ」
街中で私が声をかけたらおそらく通報されるだろう。逆にノリノリで迫られたら私が通報する。イケメンが声をかけるなら一定の層はホイホイついてきそうだが――私は受け入れたくないなあ。あ、そういう私利私欲を仕事に持ち込むのはいけないのかな? でもイケメンにホイホイついていくような人がこの世界を必要としているとは思えない。むしろあっちの世界でよろしくやっていけるだろう。
「なかなかムズイなあ……どうしたもんか」
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