第52話 敬遠
『はあ……荷が重すぎるんだよ……常識的に考えて。
偉い人のお気持ち全文は読み切った。もう既に十六回は読んだ。言いたいことはわかった。私に特に期待をしていないということも、私が傷つかないよう慎重に配慮された文面から痛いほど伝わった。だからといって、それで私がなんの気兼ねも無く好き勝手に振舞えるのだとしたら、私は今ここにはいないだろう。どこか別の世界でヒャッハーしているはずだ』
思考がグルグルしてしまっているようだ。そして溺れる者は藁をも掴むという、それをまさに今、体現してしまっているのだろう。
「嫌なら、やらなきゃいいんじゃないっすか?」
『嫌なのか? ……そういうわけじゃない。人間観察ならこれまでもしてきたし、どんな相手であっても声をかけるくらいのことはできる……はずだ』
「得意なら、やればいいんじゃないっすか?」
『観察したからって何かが理解できたワケじゃないんだ! 人間のことがよくわかって、それで対策がしっかりとれていたなら、こんなことには……って、なんだ?「こんなこと」って。さすがに気が動転しすぎだな。落ち着かないと。
こんなのを読ませてしまって済まないね。せっかく書くからには、せめて自分だけでもダラダラ読んでいたくなるような文章を書きたいって、肝に銘じていたはずなのに……余裕が無くなるとすぐコレだ。この程度じゃ、偉い人にも愛想をつかされちゃうかな……ああそうか、私は今ストレステストを受けている最中なのかもしれないな』
「考えすぎじゃないっすか?」
『そもそも私自身はこの世界に相応しいのか? 私はこの世界を必要としている。それは間違いがない。ただ、私はこの世界で必要とされているのか? 私はこの世界でこれまで、いったい何をしてきた……?』
「ボクが必要としてるっす!」
「ボクはたまたま事故って生死を彷徨って、そのままじゃ病院にも運ばれなくて死んじゃうからって偉い人が救い上げてくれたっすけど、そんなことがなかったら今でも不貞腐れてどこかを走り回って、そのうち取り返しがつかないことをしちゃっていたかもしれないんす。今だからわかるんす。ゾッとするっす。自分一人で勝手に山の中で崖から落ちたのは、実はとっても運が良かったんす」
「でも運が良かったのは治療してもらって配達の仕事もさせてもらって、そこまでだったんす。結局この世界の人たちともあんまり馴染めなくて、また不貞腐れてきてたんす。偉い人もそのことを心配してたっす。一度、前の世界に戻りたいかどうか聞かれたことがあったっす。正直わからないって答えちゃったんす」
「そうしたら偉い人が、諦める前に何か一つでも、みんなと楽しめるようなアイデアを考えてみるのも良いんじゃないかって言ってくれて、それでウンウンうなってひねり出したのがポイントプログラムだったんす。偉い人も気に入ってくれて、試しにやってみよう、ちょうどいいとかなんとか言って、人集めとかサービスの下地を整えたりとかやってくれたんす」
「その後のことはあなたも知ってるっすよね。そういうことだから、あなたにも諦める前に一度やってみてほしいっす。合わなかったら辞めればいいだけっす」
「そうなっちゃったらボクが、よしよし、ってしてあげるっす!」
『……わかったよ。あと、よしよしは要らない』
「ブー」
【ポイントプログラム】
利用可能ポイント: 832




