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第51話 タイム

「はあ……荷が重すぎるんだよ……常識的に考えて」


 偉い人のお気持ち全文は読み切った。日を跨いで三回も読んだ。言いたいことはわかった。私に特に期待をしていないということも、私が傷つかないよう慎重に配慮された文面から痛いほど伝わった。だからといって、それで私がなんの気兼ねも無く好き勝手に振舞えるのだとしたら、私は今ここにはいないだろう。どこか別の世界でヒャッハーしているはずだ。


 要点はこうだ。君ならではの観察眼でもって、外から人を連れてくるなり、中の世界を改造するなり、好きにしてくれ。アイデアを出してくれれば、コチラで了承できるものについては実現しよう。滅茶苦茶になってもバックアップはとってあるから安心して! ……だ、そうだ。この世界の無茶振りを体験した今となっては、おそらくウソ偽りは無いのだろうと思える。


「嫌なのか? ……そういうわけじゃない。人間観察ならこれまでもしてきたし、どんな相手であっても声をかけるくらいのことはできる……はずだ」


 むしろ表面上のコミュニケーションであれば得意な方だろう。専門職として働いたことは無いものの、接客応対・お客様対応・クレーム対応、これらの類は一通りこなしてきた。応対についてはあまり評価は良くなかったかもしれないが、ちょっと注意されたことがある程度だ。そもそも私を人前に出してはならない。自覚のない笑顔を褒められることはあっても、容姿を褒められたことは無く、それを私も自覚している。


 直接のやりとり、電話越しでのやりとり、ネット越しでのやりとり、それらを通じて人間観察の経験だけは豊富にある。傍から見たら、人間観察が趣味なのではないかと疑われてしまうかもしれない。実際、趣味なのだろうか……私としては、防衛本能から自然とそういうことをするようになってしまっただけだと思っている。観察しきってからでないと動けないとまでは言わないものの、初手で観測気球を飛ばして相手の出方をうかがうことを自然とするようになってしまった。そして――


「観察したからって何かが理解できたワケじゃないんだ! 人間のことがよくわかって、それで対策がしっかりとれていたなら、こんなことには……って、なんだ?『こんなこと』って。さすがに気が動転しすぎだな。落ち着かないと」


 こんなのを読ませてしまって済まないね。せっかく書くからには、せめて自分だけでもダラダラ読んでいたくなるような文章を書きたいって、肝に銘じていたはずなのに……余裕が無くなるとすぐコレだ。この程度じゃ、偉い人にも愛想をつかされちゃうかな……ああそうか、私は今ストレステストを受けている最中なのかもしれないな。


 自分に自信がない。これに尽きる。自分が手を加えて、それで世界が良くなる見通しが立たない。これまでの経験からいって、自分がそれをしなければ良かった、と反省することばかりだ。つい最近の案件などは、自分が最初から関わらなければ良かった、そこに自分がいなければ良かった、と断定するしかなかった。


「そもそも私自身はこの世界に相応しいのか? 私はこの世界を必要としている。それは間違いがない。ただ、私はこの世界で必要とされているのか? 私はこの世界でこれまで、いったい何をしてきた……?」




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