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第46話 ファインプレー

「しばらく天気もぐずつきそうですからね。火曜のうちに済ませてしまったのは正解だったと思いますよ」

「そうですね。あなたはもう済ませましたか?」

「収集車からよく見えますから、もうそれだけで充分ですね」

「そうですか……無用な詮索をしてしまってすみません」

「お気になさらないでください。それよりも楽しめましたか?」

「ええまあ……お花見なんて久しぶりで、こういうのも良いものだなあと」

「それは良かったです」

「なんていうか……私には無縁なことだって思っていたんですよね。それで近年はずっと、自然と避けてしまっていました。桜が咲いているのなんかわざわざ見に行って、それでどうするんだって」

「まあ無理に見に行くようなものでもないとは思いますよ」

「そうですよね! 人混みも好きじゃないし、どうしてみんなそんなことしたがるんだろ――」

「何を言っているんです?」

「えっ?」

「人混みなんて、どこにも無いじゃないですか」

「……あ、そ、そうですね……ちょっと嫌な事を思い出してしまって、取り乱しました」

「まだ引きずってしまいますか?」

「いえ……最近はあんまり以前のことに囚われないっていうか……記憶としてはありますけど、今と過去は違うんだって、ちゃんと区別して冷静に捉えられている場合が多い気がします」

「いい傾向ですね――思い悩み続けるっていうのは健康に良くないですから、そういう状態からは早く脱出したいものです」

「あなたもそういうことがあったんですか?」

「……それこそ無用な詮索ですよ」

「た、度々すみません」

「ふふ、冗談ですから――まあ、今のこの環境が快適ということであれば、ずっと腰を落ち着けることも可能ですので、心配することなど何もありませんよ」

「……それでいいんでしょうか?」

「と、いいますと?」

「もうしわけない、というのとは違いますね。なんだろう――どうして私なんかが、こんな理想郷に迎えられたのか、その理由がわからないというか――選ばれた、って思ってしまっているのかな? 他にも困っている人がたくさんいると思うし――」

「……」

「元の世界に帰れなくなるっていう心配はしていないんです。むしろ帰りたくない。あんな世界とは決別したい。あれは私にとって悪夢なんです。でも悪夢から目覚めたんだって思い切ってしまうわけにはいかなくて――結局、まだ引きずっているってことなんでしょうか?」

「くよくよしているのでなければ、特に問題は無いと思いますよ」

「自分自身、くよくよしているのか、よくわからないんです」

「そうですね――くよくよしてはいませんよ」

「そうでしょうか?」

「ええ、あなたの見た目に現れています」

「えっ?」

「正直なところ、最初にお見かけした時には少し、やつれているように見えてしまいまして――失礼でしたら申し訳ありません」

「いえ、そんなことはないです。実際にそうだったかもしれません」

「それがお会いするたびに顔色が少しずつ良くなってきてくださっていたので、嬉しかったんですよ」

「そ、そうですか」

「最近は笑顔も見られるようになりましたからね。お近づきになれた証拠でしょうか、ふふ」

「そんなこと! さすがに私でも何度も話していれば、多少は気も許すと言いますか、あ、いえ、あなたが気を許しにくいとかそういうことを言っているわけではなくてですね――」

「今日なんて、サッパリされて、とても魅力的ですよ」




 あ、今日、お別れ際にちゃんと挨拶したかなあ?




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