第45話 カット
ヘアーサロンに到着した。昨日は他の店同様、開いていても中に人がいる気配が無かった。今日は違う。ベンチに腰掛けてリラックスしながら何かを読んでいる人がいる。店が混んでいる気配が無く――店内に一人しかいないし――制服っぽいのを着ているから、多分あの人が店員さんなんだろう。緊張してきた。
「お、おじゃまします」
店内に入ると、その人がコチラをチラ見して、セットチェアのうちの一つにどうぞ、という仕草をしてから、そそくさと奥に入っていった。なんだろう。手でも洗うのかな? 予約の時に『会話』のオプションを『控え目』にしたから、あまり積極的に絡んでくるような接客をしていないのかもしれない。正直、助かる。
「普段から、この髪型で注文されていらっしゃるんですか?」
「あ、はい。サッパリするし、そこそこ長持ちもするので」
「良いですね。では、お任せください」
「お願いします」
「終わりましたよ」
「……あ、どうも」
ウトウトしていた。頭がグラグラとか、していなかっただろうか? 正面の鏡を見ると、しっかり注文通りに出来ているようだ。手で持ってくれている後方左右の鏡を見ても――うん、バッチリ。バッチリ過ぎてちょっとビビる。
「バッチリです」
「よかったです」
「それでは、こちらにスマホをかざして頂ければ、お支払い完了となります」
「はい」
ピッ。
「ご利用ありがとうございました」
「あ、あの。ちょっとよろしいでしょうか」
「どうされましたか」
「あ、いえ。特にどうということでは無いんですけれども、今回初めてこちらを利用させていただきまして」
「そのようでございますね」
「正直なところ感服しました。よくこれだけのことを全国展開できていますね。客だってそんなにいらっしゃるとは――あ、失礼でしたでしょうか」
「いえ、そんなことはないですよ。今日はもうおしまいですし、よろしければちょっとそこのベンチでお話でもいたしましょうか?」
「あ、いいんですか? 『控え目』とか設定してしまったもので――」
「もう仕事は終わっているんですから、これはただのプライベートですよ」
「そうですか。それでは、お言葉に甘えて――」
「そうなんですか。しょっちゅう移動されているなんて、大変なお仕事ですね」
「自分で行き先を決められるわけではないですけど、あちらこちらをフラフラするのは楽しいんですよ。根っからの旅好きとでも言いますか」
「では、仕事と趣味の両立ができているわけですね」
「その通りです。自腹でないのが特に素晴らしい」
「あはは、その気持ちわかります。こちらで働いていらっしゃる方は、そういう方が多そうですね」
「そうでしょうね。お客様のタイプ毎にスタッフが配置されているようですけど、移動が苦痛だと続かないと思います」
「なるほど、それであれだけのいろいろなサービスを提供できているわけですか。私なんて客単価が少なくて、わざわざ来ていただいたのが、なんだか申し訳ないです」
「そんなことは気にしなくていいんですよ。そもそも私はそういうタイプの方専門ですから、これからも遠慮なく利用なさってください。そうでないとクビになってしまいます、あはは」
「そ、そうなんですか。あはは……」
はー、サッパリした! 初めてのお店って怖いけど、大当たりで良かった! あ、でも毎回あの店員さんだとは限らないのか――とはいっても、このチェーンもコッソリと偉い人が関わってそうだし、そんなに心配しなくていいかな! 毎回あれだけのイケメンな店員さんでなくても良いよ!
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