第29話 私たちの戦いはこれからだ!
「有効期限の表示が消えている――これでようやく落ち着けるか」
二月は短いとはいえ、月の後半があっという間に過ぎていった。事実は小説より奇なりとは、よく言ったものだ。この世界に来てからは何が事実なのか、事実とは何なのかもよくわからなくなってきたから、なおのこと奇なり、である。もはや何を言っているのかわからない。
「いや、直近のワケのわからなさに比べれば、どうということは無い」
くだらないことにダラダラと思いを馳せることができる、この唯一絶対安全な娯楽に浸ることができる時間は、本当に貴重だ。それを好きな時に堪能ができる環境は、かけがえのない約束の地だ。この楽園から追放されたら生きていける自信がない。昔はそこまで心が脆くは無かったと思うのだが、いつからそう確信してしまう身になってしまったのか――
「しかし約束の地においてすら、私はまた、やらかしてしまうのではないか……」
もう取り返しがつかないことをしてしまっている可能性がある。先週の土曜の詳細が思い出せない。口にしてはいけないことを口走ったりはしていないか? いまだに追い出されていないところから察するに、一発退場級の粗相はしていないようではある。だが、私の実力では修復不可能な亀裂を生んでしまったかもしれない。記録が無いから、はっきりしたことが何もわからない――
「万が一、これから先、次から次へと登場人物が量産され始めたら――私には制御不可能だ」
……一対一でのコミュニケーションなら、それなりに自信はある。タイマン格闘の極意は修得している。相手の出方について良く観察し、経験からの未来予測を踏まえて先を読み、落ち着いて丁寧に無駄を省いた動きをすれば、大抵は切り抜けられる。いったん会話が終了した後の反省会を抜かりなく開催し理想を徹底的に追及することで、避けられない悲劇を可能な限り先延ばしにしていけるのだ。
だが、すでに四人もいる――四人に同時に襲われでもしたら、かなりの達人でも敗北は免れないのではないか。私ごときには無理だ。なんとなく三人でまとまっている時に黙ってしまうのはいつも私だった。そうして全てのことから取り残されてきた。考えているうちに終わってしまうのだ。どうして考えることに時間を消費しなくてはいけないのだろう。たまには無料で考えさせて欲しい。
「ポイントを時間と交換――名作にウザ絡みをしてはいけないな」
あの世界もなんだか可笑しな世界だった。かなり昔の記憶だから詳細は覚えていないし、今更あらためて作品に触れる気にも、あんまりなれない。子供の頃にはじめて触れて、初見では目を見張る派手な演出も無く退屈で、しかしいつの間にか惹きこまれていた。そのような魅力を生み出す力とは何であろうか。そんなものは存在せず、ただ私が興味を持ったというだけなのだろうか。それだけで名作が生まれるものなのか?
「私に関係ない世界の話は止めよう。それより、これからどうするんだ……」
そろそろ話を畳むのが、私にとってダメージが少なくて済むかもしれない。興味関心がゼロという客観的なデータさえあれば、それを盾にして堂々と退場することはできた。まあ、あちらではゼロだと言えるのだが――そちらでは安定低空飛行が続いているものの、Botなる者も存在するとかしないとか――だれでも手軽にその状況を確認できるという仕組みは残酷である。
これから先、私を取り巻く環境がまた変わっていく気配がする――良い事なのか悪い事なのか、すくなくとも今こうしている時間がいとおしく思えてしまう私にとっては悪夢でしかない。あちらからは、また変な話が舞い込んできてもいる。どうもあちらに私の席はないようではあるものの、管理の面で利用価値があったり多少の恩も受けていたりで、なんともいえない。私にとって害が無いうちは現状維持――この結論が間違っていないと良い。
「明日からどうするかな……」
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