↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇帝陛下のお世話係〜女官暮らしが幸せすぎて後宮から出られません〜  作者: 柊 一葉
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/73

騒動の結末

夜更けの後宮。

皆が寝静まった頃、私は顔が見えないように薄布を被り、夜着のまま采和殿(サイカデン)を抜け出した。


向かったのは、執政宮の中にある一室。叔父からそこへ来いと文をもらったからだ。


正確に言うと、私と兄が叔父にそれぞれ文を出し、その返事として寄越されたのが「すぐに会おう」という内容だった。


あらかじめ人払いしてある執政宮は後宮よりも静かで、薄暗い廊下は幽霊でも出そうな雰囲気に思える。


──カタッ……。


約束の時刻ちょうど、私は叔父の指示通り、密かに尚書たちの使う部屋へとやってきた。すでに待っていた叔父は、私を見て小声で告げる。


「よう来たな。さぁ、そこへ座るがいい」


小さな机と椅子が用意されていて、ここは尚書見習いが仕事をする場所だとわかった。私は黙って頷くと、薄布をとって椅子に腰かける。


そして、兄に言われた通り俯いて無言を貫く。


「凜風(リンファ)、さぞつらかっただろう」


叔父は今、私が蒼蓮様に遊ばれて身ごもったと勘違いしている。兄がそう勘違いするように、仕向けたからだ。


私は俯き、悲しげな雰囲気を装う。

兄いわく、凜風(リンファ)に子ができれば叔父は何としてもそれを阻止しようとするだろう……とのこと。


私は叔父に会い、悲しそうにしているだけでいいと言われていた。

兄にだけすべてを押し付けるのは忍びない、と私も叔父を騙す計画に加担したわけだけれど、兄の予想通りならこの後叔父は私に薬を盛るはずだと聞いて、内心は嘘であって欲しいと思っている。


──凜風(リンファ)を狙ったものだとするならば、柳(リュウ)家の内部で起きたこととして処理できる。


すべては、叔父を極刑にしないため。

陛下の世話係や蒼蓮様の許嫁を狙ったものではなく、あくまで姪を狙ったお家騒動にするために兄はこの作戦を決行した。


柳(リュウ)家としては、そうでなくては困るのだ。縁者から極刑に処される罪人を出すわけにはいかない。

だが、兄としては私に精神的な負担をかけないためにも、叔父を極刑ではなく追放程度に抑えたいと思っているのはわかっている。


兄が決めたことに、父は「甘いな」と一言だけ告げたらしい。それでも反対しなかったのは、やはり実弟が極刑になれば柳(リュウ)家全体の威光にもかかわるからだろう。


何も知らない叔父は、騙されているとも知らず私をこうして呼び出した。

向けられる笑顔に対して、これほど冷めた気分になったことはない。


でも、未だに全部勘違いであればいいのにと思う気持ちもある。

襲撃事件が叔父の起こしたものだとわかっていても、その手で直接姪の私を害そうなんてするわけないと思いたかった。


きっと兄の言うとおりになる、いや、さすがにそんなことは……と、私の心は二分していた。


黙って座っていると、叔父は私に近づいてくる。


「話は秀英(シュイン)から聞いた。子ができたことが露見すれば、強欲な兄は右丞相としてより権威を振るうためにそなたを蒼蓮様の妃に押し込むだろう。大丈夫、子は密かに産み、然るべきところへ預けられるように手配しよう」


「叔父上……」


「ほら、そのような姿で出てきて身体が冷えたであろう?茶を飲んで身体を温めよ」


甘い香りのする赤褐色の茶が、目の前に出された。


「変わったお茶ですね」


「あぁ、妻が好きな茶でね。異国でしか手に入らぬものだ。身体によいと評判でな」


私が器を手にすると、叔父は緊張気味にこちらを見る。この人には、やはり悪だくみなど向いていないのかもしれない。


「いただきます」


そう言って口をつけようとすると、施錠したはずの扉が強引に押し開けられ、兄や蒼蓮様が護衛武官を従えて現れた。


「なっ……!?」


愕然とした叔父は、目を瞠って狼狽える。

その態度から、やはりこの茶には毒が盛られていたのだとわかった。私は茶器を持ったまま、兄のもとへ駆け寄る。


すると、一緒に来てくれていた彩林(ツァイリン)様が私の手から茶器を受け取った。


「この匂いは……当たりだと思う」


それを聞いた蒼蓮様は、叔父に対し一層鋭い視線を向けた。


「私もこの茶をもらおうか?」


「それは……」


「妻がこれを好んでいるとは、貴様の妻は不死身か何かか?」


蒼蓮様がそう言うのも無理はない。この茶には、貴人が自ら命を絶つのによく使われる毒が混入しているのだから。

死後、遺体が美しいままであるナーガと呼ばれる粉を混ぜた茶は、ある地方公主の妻が異国から仕入れたことに始まり、過去には後宮妃や女官が何人も自害するのに使っている。


叔父はそれを私に飲ませ、亡き者にしようとしたのだ。


「凜風(リンファ)を自殺に見せかけ、遺体を政務室にでも運び、柳(リュウ)家の評判を落とそうとしたのだろうが残念だったな」


「わ、私はそのようなことは」


冷や汗を流す叔父は、言い逃れできない状況でも必死で取り繕おうとする。だが、護衛武官にすぐさま取り囲まれ、観念したようにがっくりと項垂れた。


「そこまでして、柳(リュウ)家を貶めたかったのですか?」


私が政務室で自害した、なんてことになれば、それは柳(リュウ)家の監督責任が問われる。たとえ蒼蓮様に弄ばれたことが原因だったとしても、皇族であるこの方に責任を問う声など上がらない。それが、光燕(コウエン)国で絶対的な権力を持つ皇族というものなのだ。


私の疑問に答えたのは、叔父ではなく蒼蓮様だった。


「大方、己の娘を私の妃に押し込みたかったのであろう?誰に唆されたのかは、見当がつくが……。凜風(リンファ)が私の妃になるのを、何としても阻止したかったのだろうな」


誰かが叔父に何かを吹き込んだ?

眉根を寄せる私に対し、叔父は乾いた笑いを浮かべて言った。


「それだけではない。おまえが……日に日に美鈴(メイリン)に似てくるからだ」


「母に?」


「おまえの父は、地位も家も、好いた女も、私から何もかもを奪った。生まれながらにして何もかもを手にしていたのに、だ……。いつか、すべてを奪ってやろうと思っていた」


そこにいるのは、私の知る叔父ではなく憎悪に歪んだ哀れな男だった。この世のすべてを憂いているというのが伝わってくる。


兄は私に叔父を見せないようその背に隠し、それと同時に冷たい声で言い放った。


「連れていけ」


屈強な武官に捕えられた叔父は、とても細く、小さく見えた。


きっともう、会うことはないだろう。ここから遠く離れた地へ追放され、これから何を思って生きていくのか。

叔父がこれから辿る一生を思うと、同情はしないけれど哀れには思った。


「凜風(リンファ)」


黙って叔父の背を見送っていると、肩に大きな羽織りがかけられる。

蒼蓮様の衣の香りで、私は自分が夜着だったことを思い出した。


「ありがとうございます」


私が礼を述べると、兄が静かに頭を下げた。


「このたびは、我が叔父ならびに柳(リュウ)家のことでお騒がせいたしました。誠に申し訳ございませぬ」


これは謝罪でもあり、そういうことにしておいてくれという念押しでもあるのだろう。

蒼蓮様は一言「あぁ」とだけ言った。

叔父を捕えたから万事解決とはいかず、これから父と兄は後始末に奔走することになるはず。


ただでさえ仕事が多いのに、兄の今後を思うと私まで頭が痛くなる気がした。


「兄上、お疲れにございましょう?」


あちこちに根回しをして、きっと心労も多かったに違いない。今日くらいは、休んでもらいたい。

私が労おうとすると、無言で立っていた彩林(ツァイリン)様もじっと兄の顔を見て言った。


「……飲む?」


「いや、それ飲んだら死にますよね!?」


彩林(ツァイリン)様は、無表情のまま帰っていった。

あのお茶をどうするつもりなのだろう。証拠として保存するのか、何かに使うのか?蒼蓮様が何も言わないから、きっと悪いことにはならないのだろうと思って私はもう何も言わぬことにした。


5月17日発売!

「皇帝陛下のお世話係」ノベル2巻&コミックス1巻


挿絵(By みてみん)


ノベル版は半分くらい書き下ろしで、新しいエピソードが満載です♪

紫釉様の成長や凛風の仕事ぶり、蒼蓮の深まる愛情と不憫がより楽しめる内容になっております!


どうかお楽しみください!


漫画版では、吉村悠希先生の描く麗しい世界観が最高です。

お兄ちゃんと蒼蓮の不憫かっこいい姿よ……!( ノД`)煌びやかな中華の世界、詰まってます。


なお、小説版もマンガ版もずっと名前にふりがなついてます。読めない・覚えられないが解消されて、ストレスフリーな中華をお楽しみいただけます。


ありがとうございます、スクウェアエニックスさん…!


※アニメイトさんなどでの特典配布は、なくなり次第終了です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。