↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたつみの魔王  作者: 山谷 宗
第2章 緒戦
22/32

2.トラック(1)

呉を出航して6日後の昭和17年4月15日、伊23はトラックに到着した。


中部太平洋に浮かぶトラック環礁は帝国海軍の外地における最大の拠点である。元々はドイツ領だったが、先の大戦後にマリアナ諸島やパラオ諸島等の南洋諸島と共に日本の委任統治領となった。


しかしアメリカ本土とフィリピンとの間を扼することができる立地のためアメリカは当初日本の領有に難色を示していた。そこで1922年のワシントン会議でトラックを含めた南洋諸島を非要塞化地域とすることで一応の決着を見た経緯がある。その後は南洋庁の支所が置かれて統治が行われていたが、1936年のワシントン条約失効後は海軍が中心となって急速に軍事拠点化を進めてきた。


周囲200キロに及ぶ環礁内は空母が全速航行しながら搭載機の発着艦訓練を行えるほどの広さがある。また堡礁によって外海の荒波から守られているため艦隊の泊地としても申し分ない。現在は南太平洋及び豪州方面作戦の策源地としての役割を担っており、同時に日本本土からこれらの方面に向かう艦船の中継地にもなっている。


環礁内には大小200を超える島々が点在している。春夏秋冬の名を冠する四季諸島、曜日名を冠する七曜諸島は比較的大きな島々のため飛行場や石油タンク、司令部施設等が置かれている。潜水艦基地隊は夏島に置かれて、第6艦隊旗艦や潜水母艦、帰航した潜水艦が桟橋に繋留されていた。


伊23が指定された桟橋で繋留作業を行っていると、第6艦隊旗艦である香取の艦橋から手旗信号が送られてきた。


「伊23艦長ハ繋留作業終了後二旗艦二来ラレタシ」


通常なら戦隊司令官に先に申告するべきなのだが、命令とあれば仕方がない。指定された桟橋にフネを繋留すると、武田は小幡と原を伴って香取に赴いた。


香取は練習巡洋艦として建造されたが、本来の任務である練習航海に使われたことはほとんどない。その代わりに充実した居住施設を活かして第6艦隊が編成されて以来旗艦を務めている。

開戦直前にはクェゼリンに進出していたが、去る2月の米空母機動部隊による空襲で損傷し、最近まで呉で修理を受けていた。


その空襲の際に清水光美長官が負傷したため、後任として小松輝久中将が発令され、司令部も体制を一新している。


ちなみにこの小松長官、現在は小松の姓を名乗っているが、元の名前は北白川宮輝久王。つまり皇族である。だがこの宮様は型破りな方として海軍内では有名だった。

皇族なら無試験で入学できる恩典を拒んで実力で海軍兵学校に入学したり、卒業後も特別扱いを拒否して実力で昇進を重ねてきた。廉直というか剛直というかとにかく武人肌の人物として知られている。

そして臣籍に下ったとは言え、元は貴い出自。にも拘わらず偉ぶったところがないため、下々の受けも良い人物でもある。


潜水母艦の艦長や潜水戦隊司令官、潜水学校長を歴任する等、潜水艦との関わりが深い人物でもあり、面識はなかったが武田は以前から好感を持っていた。



武田たちが乗艦すると、小松は自ら茶菓子を出してもてなしてくれた。


「到着早々済まない。GF長官の秘蔵っ子に早く会いたくてね」


思わず顔を強張らせた武田をよそに小松は悪戯っぽく笑った。


「ハワイでは良くやってくれた。おかげで他の潜水艦の士気も大いに上がっているよ」


手元の羊羮を綺麗な所作で切り分けながら小松は続けた。


「君のフネには米豪間の交通破壊戦をやってもらうつもりだ。アメちゃんの主力は身動きがとれないからね。他に1潜戦(第1潜水戦隊)の2個潜水隊を使って豪州東岸からフィジーまでの海域で期間は2ヶ月を考えている」


「フネの配置はどのようにするのですか」


「主要港同士を結ぶ航路に配置することになるが、ちょうどインド洋で交通破壊戦をやっていた2潜戦(第2潜水戦隊)から戦訓の報告があってね」


小松は卓上の書類挟みを開いて該当する箇所を開いて武田に示した。


『広汎なる海面を潜水艦に与えて状況判断を艦長に委ね、自由に行動させる方法が潜水艦の特性を十二分に発揮させる最良の方策と認む』


「実際にこの方針で戦果が上がっているんだ。伊6の稲葉君を知ってるか。彼は商船を2万トンも沈めてきたよ」


小松は茶を一口啜った。


「他のフネも何隻か沈めてきたから、こっちも同じやり方でやろうじゃないか。各艦毎に重複しないように哨戒区を決めて通行するフネをやる」


「作戦実施の細目は戦隊司令部に下ろしてあるからそちらで指示を受けてくれ。戦果を期待しているよ」



武田たち3人は小松の下を退出すると、上甲板を経て舷門に向かった。出された羊羮の旨さについて語る小幡たち2人をよそに武田は考え込んでいた。


商船攻撃に不満はない。むしろ潜水艦の役割はこれだと考えていた。だが、2潜戦の報告書にはこんな戦訓も書かれていた。


『上級司令部は命令に際して個別的な命令を発して各潜水艦の自主性に製肘を加えることなく、大局的な方針の指示に撤するべき』


『司令部は靡下の潜水艦に対して不要不急の報告を求めることは厳に慎むべき』


司令部はこれについてどう考えているのだろうか。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。