14. 手紙
突然に手紙をお出しすることをお許しください。
私はご主人である板垣忠様が艦長を務められた伊○○潜先任将校の武田信成と申します。
既に海軍省よりご主人の戦死にかかる通知が送達されたことと存じますが、ご主人が艦上で最期を遂げられた時にその場に居合わせた者として、その模様を奥様にお伝え致したく筆を執った次第です。
昨年某月、我々は某方面に出撃した折りに猛烈な嵐に遭遇しました。本来であれば嵐を避けるために針路を変える等して艦と乗組員の安全を図るところでしたが、任務に障るためにこれを行わず嵐の中を航行しておりました。
しかし嵐の勢力は甚だしく、やむなく潜航しようとしたところ艦は巨大な波に打ち据えられ、その波によりご主人の体は艦上構造物に叩きつけられました。艦内に収容した時には既に意識はなく、懸命な治療を行いましたがその数時間後に息を引き取られました。
軍機に触れることもあり甚だ曖昧な内容で恐縮ではありますが、以上がご主人の御最期であります。
艦長としてのご主人は常に笑みを絶やさず余裕のある態度で我々乗組員に接しておられました。部下の失敗にも決して声を荒らげることなく、慈父のように教え諭される姿が今も脳裏に浮かびます。艦長としての手腕についても素晴らしく、私の目標でもありました。
また士官室での食事時に奥様とお子様方の話をするときのお姿を拝見するに、ご主人がご家族を深く愛されていた様子が窺えましたことを申し添えます。
この手紙が奥様並びにお子様方の悲しみを幾らかなりとも和らげることができましたらこれに過ぎるものはありません。
昭和17年1月31日
海軍大尉 武田信成




