罠を利用いたしましょう
「おば様、昨日はありがとうございました。」
「ううん、京香ちゃんのためになったのならよかったわ。」
「これ、ほんのつまらないものですが…」
「まあ!京香ちゃん、気を遣わないで?」
「でも、せっかくですので。」
「そうだわ!お礼なら、私、京香ちゃんにお願いしたいことがあるの。それでもいい?」
「もちろんです!」
「うれしいわ。それじゃあ早速……」
あれ?
私は確か昨日のお礼に伺ったはずなのですが。
なぜか、おば様のきせかえ人形になっています。
フワッとした、淡いピンクのシフォンワンピース。
アジアン系のチュニック。
裾がチューリップのようになっているスカート。
裾のプリントが可愛らしいブラウス。
……一時間はきせかえ人形になっていたでしょうか。
やっと決まったようです。
…でも、この服はどなたのものでしょう?
この家に女の子はいないのですが……。
おば様の昔の服にしては新しいですし。
「おば様、この服はどなたのものでしょう?私が着たままだとよくないのでは。」
「あら、それは京香ちゃんのものだからいいのよ?」
「……私のですか?」
「ええ。京香ちゃんのお母さんと一緒に京香ちゃんの服を選びにいったのよ。女の子の服選ぶのって楽しいわよね。」
……お母さんが買ってくださったのなら安心ですね。
「じゃあ、京香ちゃん。お出かけしましょう!」
「え!?この格好のままでしょうか!?」
「もちろん!さあ、行きましょう!」
あれ?お礼に来たはずなのですが、いつの間にか、きせかえられたまま、街に出ています。
今の私の格好は、白いインナーに淡いピンクのカーディガン、白くて裾に刺繍が入っているスカート。アクセサリーは、ハートのネックレスだけ。靴はおしゃれなパンプス。
普段着ないような服ですので、なんだか気恥ずかしいです。
その格好のまま、おば様と楽しく色んなお店を見ていたのですが、あれ?おば様はどこにおられるのでしょう?
お店のウインドウの中のバックにに気をとられている間に、おば様とはぐれてしまったようです。
大変です!探して合流しなければ!
「ねえ、そこの可愛い女の子、1人?」
……電話にも出てくださいません。
「ねえ、そこの女の子~!」
……送ったメールの返信もないですね。
「そこのピンクのカーディガン着た女の子!」
……どうしましょう。もう一度はぐれたところまで戻ってみましょうか。
「君だって!君!」
知らない方にいきなり手を引かれ、体をその方の方向に向けられます。
……格好いい方ですね。
身長はスラッと高く、足も長いです。
顔立ちも、ひとつひとつのパーツが整っています。
目元の泣きぼくろが色っぽいですね。
長髪を1つにくくっているのも、なかなかいいです。
さりげなくつけているアクセサリーも、質のよいものばかりです。
態度は堂々としていて、眼には自信がみなぎっています。
「君、1人?」
「いえ、連れが…。」
「そうなんだ。じゃあ、連れの人が来るまででいいからさ、お話ししよう?実は……君に一目惚れしちゃったんだ……。」
照れたように、少しだけ顔を背けながら、『一目惚れ』。
それも、素敵な男性から。
思わず、胸が高鳴る………………わけがないではありませんか!
確実に、罠ですね。
伊達に、あの幼馴染みたちと付き合ってきた訳ではありません。
容姿のいい方には慣れております!
……この方も、幼馴染みほどのイケメンではないですしね。
ですから、落ち着いて観察すると、顔は笑っていても、眼が笑っていないのがわかります。
それに残念ながら、私は、自分が一目惚れされるような容姿ではないことを十二分に分かっております。
……あの幼馴染みたちと比べられてきましたからね。
自惚れることができたのは、三歳ぐらいまででした。
罠……ということは、仕掛けてこられたのは、部長さんではありませんね。
あの方は、罠を仕掛けるよりも、直接私に向かってこられるでしょうから。
でも、どなたかと手を組まれた可能性も否定出来ません。
相手がまだ特定できないということは、罠を解除するのもいいですが、利用させていただきましょうか。
罠を仕掛けてきた相手を、性悪女らしく撃退してやりましょう!




