転生しても三日坊主でした
丹田を意識しても何も分からない。
魔力も感じられない。
召喚魔法も使えない。
そこで俺は、今の自分でもできることを始めることにした。
――身体を鍛えることだ。
とはいっても、一歳児に本格的な筋トレなんてできない。
だから、ハイハイする。
立つ。
座る。
また立つ。
それを繰り返す。
「よし……やるか」
俺は床に手をついて、ハイハイを始めた。
前へ進む。
戻る。
また進む。
部屋の端まで行ったら、反対側へ戻る。
何度も繰り返す。
次は立ち上がる。
家具につかまって、ゆっくり立つ。
そして座る。
また立つ。
座る。
「……これ、結構きついな」
思った以上に疲れる。
それでも一日目は頑張った。
次の日も頑張った。
「昨日より動けるようになってる気がする」
少し楽しくなってきた。
ハイハイも速くなった気がする。
立ち上がるのも少しスムーズになった。
俺は調子に乗って、二日目は昨日より回数を増やした。
そして――。
三日目。
「…………」
朝。
身体が重かった。
腕を動かす。
「…………だるい」
足も動かす。
「…………痛い」
特に、昨日かなり動かしたせいか、腕や足が妙に張っている。
前世の知識でいう筋肉痛みたいなものだろう。
「昨日やりすぎた……」
ベッドから降りようとして、途中で止まる。
「……今日はいいか」
昨日あれだけやったんだ。
一日くらい休んでも問題ないだろう。
そう思って、その日はほとんど鍛えなかった。
次の日。
「今日から再開するぞ」
……と思っていた。
けれど。
「昨日休んだし、今日も休んでいいか」
さらに次の日。
「……明日からでいいか」
そして、その次の日。
「…………まあ、いいや」
そして、またその次の日。
「…………鍛えるには、まだ早すぎるでしょ。悪影響が出たら困るし」
そう考えてしまう自分に呆れた。
やる気を出そうとしても、なかなか出てこない。
終わった。
三日坊主だった。
「俺、何やってるんだ……」
ふと、前世で読んだことのある小説を思い出した。
転生もの。
主人公は転生した瞬間、前世の反省を活かして努力する。
幼い頃から毎日鍛錬。
魔力を鍛えて。
剣の練習をして。
勉強までして。
何年も欠かさず努力する。
「……なんでだ?」
俺は真剣に考える。
小説の主人公たちは、転生した途端にどうしてあんなに努力家になるんだ?
前世で何か後悔があったから?
二度目の人生だから本気になれる?
……まあ、それは分からなくもない。
でも。
「転生したからって、急に根性がつくわけじゃないだろ」
俺の場合は、まさにそれだった。
十五歳まで生きてきた性格が、赤ん坊になっただけで別人になるわけじゃない。
前世で三日坊主だった人間は、転生したところで三日坊主なのだ。
丹田を意識するだけなのは、身体を動かす必要がないから続いている。
「もっとこう……転生特典で『努力家の性格』とか付いてないのか?」
もちろん、そんなものはステータスに表示されていない。
俺はため息をついた。
「……俺だけ現実的すぎないか?」
小説の主人公なら、ここで気合を入れ直して再び鍛錬を始めるのかもしれない。
でも俺は違う。
疲れたら休みたい。
痛かったらやりたくない。
面倒なら、明日でいいと思う。
そんな普通の人間だ。
「まあ、こんなもんだよな……」
俺は床に転がりながら、ステータスを開く。
「……何も変わってないか」
まあ、当然か。
たった三日頑張ったくらいで、何かが変わるわけでもない。
俺はステータスを閉じた。
「明日は……」
少し考える。
「……明日は、ちょっとだけハイハイするか」
筋トレはやめた。
でも、身体を動かすことまで嫌いになったわけじゃない。
気が向いたときに動けばいい。
そんな程度の気持ちで、俺はまた日常に戻っていった。




