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3/27

毎日来る兄と姉

 ――生まれて、一週間が経った。


 俺はベッドの中で目を開けた。


 生まれたばかりの頃とは、少し違う。


 明るい。


 それだけじゃない。


 目の前に何かがあることが、少しずつ分かるようになってきた。


 生まれたばかりの頃は、光と影くらいしか分からなかった。


 今は、近くにあるものなら、ぼんやりと輪郭が見える。


 特に、二十センチから三十センチくらいの距離なら、人の顔らしきものが分かる。


「レオン、おはよう」


 すぐ近くから声がした。


 いつもの声。


 母さんだ。


 顔が目の前にある。


 まだぼんやりしている。


 細かいところまでは見えない。


 でも、人の顔だということは分かる。


(……これが母さんか)


 毎日聞いていた声。


 それと、ぼんやり見える顔。


 ようやく、それが結びついた気がした。


「今日はよく目が開いているわね」


 母さんが笑う。


 俺はその顔を目で追った。


 少し動く。


 俺の視線も、その動きを追う。


「ふふ。見えているのかしら?」


(うん)


 心の中では、ちゃんと返事をしている。


「……あぅ」


 口から出たのは、小さな声。


「お返事してくれたの?」


 母さんが嬉しそうに笑う。


 額を優しく撫でられる。


 その手が気持ちよくて、俺は少し力を抜いた。


   ◇


 そのとき。


 廊下から、聞き慣れた足音がした。


 ぱたぱた、ぱたぱた。


 そして。


「母上ー!」


 兄、カイルの声。


「カイル、走らないの」


「走ってない!」


 どう聞いても走っている。


「アリシアも、ちゃんとついてきてる?」


「いるー!」


 今度は姉の声。


 二人とも毎日のように俺を見に来る。


 でも。


 どうやら目的は、俺を見ることだけではないらしい。


 扉が開く。


「母上!」


 カイルが真っ先に母さんのところへ行く。


「おいで」


「うん!」


 母さんの足元に抱きついたらしい。


 続いて。


「おかあさまー」


 アリシアも母さんに近づく。


 そして、そのまま母さんの服をぎゅっと掴む。


(……なるほど)


 どうやら二人とも、母さんが大好きらしい。


 というよりまだまだ母さんにべったりだ。


「二人とも、まずはレオンに挨拶しましょう」


 母さんが言う。


「うん!」


 カイルは返事をする。


 でも、母さんの手を握ったままだ。


「レオン、おはよう」


 カイルが俺を見る。


 その顔が近づいてきた。


 ぼんやりしているけれど、顔は見える。


「僕、今日もレオンを見に来た!」


 毎日聞いている気がする。


 でも、本人は毎回嬉しそうだ。


「母上、抱っこして」


「さっきまで自分で歩いていたでしょう?」


「でも抱っこしてほしい」


 四歳。


 まだまだ甘えたい年頃らしい。


「仕方ないわね」


 母さんがカイルを抱き上げる。


 するとカイルは嬉しそうに母さんの首へ腕を回した。


 その横で、アリシアが母さんの服を引っ張った。


「アリシアも抱っこ?」


「うん!」


「はいはい」


 母さんがアリシアも抱き上げる。


 今度は母さんの両腕に、兄と姉。


 俺はベッドの中。


 なんだか妙な光景だった。


   


   ◇


 その日の夕方。


 カイルとアリシアは、また母さんのところにいた。


「母上、お話して」


「何のお話がいいの?」


「レオンのお話!」


「レオン?」


「うん!」


 カイルが俺を見る。


「レオン、もっと大きくなる?」


「もちろんよ」


 母さんが答える。


「じゃあ、僕がお兄ちゃんだから、ちゃんと教えてあげる!」


 カイルが張り切る。


「何を教えるの?」


「いろいろ!」


「何を?」


「……いっぱい!」


 母さんが笑った。


 アリシアも笑う。


「レオン、おおきくなって」


「そうね」


 母さんが優しく答える。


「大きくなって、みんなで遊べるようになるといいわね」


(……そうだな)


 俺も心の中で答える。


 今は何もできない。


 見ることも。


 話すことも。


 歩くことも。


 何一つできない。


 でも。


 いつか。


 この二人と一緒に遊べる日が来る。


 その日が、少し楽しみになった。


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