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七歳、ようやく勉強が始まりました

――あれから一年。


俺は七歳になった。


「七歳か……」


今までずっと待っていたものが、ようやく始まる。


勉強だ。


六歳のころ、母さんから、この家では子供を家庭教師に教えてもらうことが多いと聞いていた。


だから俺は、ずっと待っていた。


文字を覚えたい。


この世界のことを知りたい。


そして、いつか前世の知識を使って何かできるようになりたい。


そのためにも、まずはこの世界のことを知らなければならない。


――そんなことを考えていた。


そして今日。


「レオン、先生が来るわよ」


母さんが部屋に入ってきた。


「先生?」


「ええ。今日からあなたも勉強を始めるの」


「本当に!?」


思わず声が大きくなった。


母さんが少し驚いた顔をする。


「そんなに楽しみだったの?」


「うん!」


即答だった。


勉強が楽しみ。


前世の俺なら、たぶんそんなことは言わなかった。


でも、今は違う。


俺にとっては、待ちに待った機会だった。


「どんな先生?」


「優しい先生よ。まずはレオンに合わせて、基礎から教えてくださるそうよ」


「基礎……」


つまり。


ようやく文字を覚えられる。


それだけで胸が高鳴った。


◇


母さんと一緒に部屋を移動すると、そこには一人の女性がいた。


二十代前半くらいだろうか。


落ち着いた雰囲気で、きちんとした服装をしている。


机の上には、何冊かの本と紙。


そして――見たことのない文字が書かれた板のようなものが置かれていた。


「初めまして、レオン様」


女性が立ち上がる。


「本日から、レオン様の勉強を担当させていただきます。エレナと申します」


「よろしくお願いします!」


俺も頭を下げた。


「そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ、レオン様」


エレナ先生は微笑んだ。


「レオン様は文字に大変興味がおありと聞きました。まずは文字から始めましょう」


「文字……!」


思わず目が輝く。


「はい」


エレナ先生が机の上に紙を置いた。


「この世界で使われている文字です。まずは一つずつ覚えていきましょう」


そして、最初の文字を教えてくれた。


「これは――」


エレナ先生が文字を指差す。


俺はじっと見つめた。


「…………」


見覚えがある。


もちろん、見たことがあるというだけだ。


意味は分からない。


でも、前世の日本語の文字とは違う。


「これが文字……」


思わず呟いた。


前世なら、ひらがな、カタカナ、漢字を知っていた。


でも、この世界では違う。


だから今まで本を見ても、内容がまったく分からなかった。


それが今日から変わる。


「では、書いてみましょう」


「はい!」


エレナ先生から筆記具を渡される。


紙に文字を書く。


……難しい。


「…………」


線一本。


それだけなのに、思うように手が動かない。


「違います。ここをもう少し長く」


「こう?」


「そうです」


書き直す。


また違う。


もう一度。


そして、また書き直す。


「…………」


これは思っていたより大変だ。


前世の文字なら読める。


でも、知っていることと、実際に書けることは別だった。


ましてや、初めて見る文字だ。


形を覚えて。


読み方を覚えて。


意味を覚える。


そして、自分で書けるようにする。


「なるほど……」


俺は妙に納得した。


以前、俺は「転生した主人公が、異世界の文字を見ただけですぐ読めるのはおかしくないか?」なんて思ったことがあった。


実際にやってみると。


「普通に難しいじゃないか……」


思わず苦笑した。


「どうしました?」


エレナ先生が首を傾げる。


「なんでもないです」


危ない。


余計なことは言わないほうがいい。


◇


文字の勉強が終わると、次は数字だった。


数字は文字より少し分かりやすい。


数えること自体は、前世でも知っている。


ただ、この世界で使われている書き方を覚える必要がある。


「一、二、三……」


エレナ先生の説明を聞きながら、数字を書いていく。


すると、少しずつ分かってきた。


「これなら何とかなりそうです」


「そうですね。飲み込みが早いですよ」


エレナ先生が褒めてくれる。


少し嬉しい。


でも、俺には前世の知識がある。


数字という概念そのものを知らないわけではない。


だから、ここは有利だった。


ただし。


「掛け算や割り算も、覚えないとな……」


そこまで考えて、これから先のことが楽しみになった。


勉強をすれば、文字が読めるようになる。


文字が読めれば、本を読める。


本が読めれば、この世界について今までよりずっと詳しくなれる。


この世界の歴史。


国のこと。


貴族のこと。


魔法のこと。


商売のこと。


そして、この世界に何があって、何がないのか。


それも分かってくるかもしれない。


「……やっとだ」


思わず笑ってしまう。


現代知識チートをやるなら、まずはこの世界を知らなければならない。


そのための第一歩。


文字の勉強。


ようやく始まった。


◇


その日の勉強が終わった。


思っていた以上に疲れた。


机に向かっていただけなのに、頭が重い。


「今日はここまでです」


エレナ先生が言った。


「ありがとうございました!」


俺は頭を下げた。


「明日も続けますから、今日覚えた文字を忘れないようにしてくださいね」


「分かりました!」


エレナ先生が部屋を出ていく。


俺は一人になった。


「…………」


机の上に置かれた紙を見る。


今日覚えた文字。


まだ数個しかない。


でも、俺にとっては大きな一歩だ。


これでようやく、この世界を自分の目で知るための準備が始まった。


「よし……」


俺は小さく拳を握った。


七歳。


今日から俺の勉強が始まる。


そして、ここから少しずつ、この世界について知っていこう。


前世の知識だけに頼るのではなく、この世界の知識も身につける。


「……現代知識チートは、そのあとだな」


そう呟いて、俺はもう一度、今日覚えた文字を眺めた。


まだ読めない。


まだ書けない。


それでも、昨日までとは違う。


俺は今、少しずつだけど、この世界のことを知り始めている。

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