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才能は、試してみないと分からない

「……聞いてみるか」


そう決めた俺は、もう一度母さんのところへ向かった。


さっきまで学校の話をしていたのに、また戻ってきた。


自分でも、ちょっとせわしないなと思う。


でも、気になったものは仕方がない。


母さんの姿を見つけ、声をかける。


「母さん」


「あら?」


母さんが振り返った。


そして、少しだけ呆れたように笑った。


「レオン。また来たの?」


「うん」


「まだ何かあるの?」


「ある」


即答すると、母さんは小さく笑った。


「ふふ。今日はずいぶん質問が多いわね」


「ごめん」


「いいのよ。それで、今度は何かしら?」


俺は少し考えた。


ここで「スキルって知ってる?」なんて聞くわけにはいかない。


そんな言葉を、この世界の誰かが使っているのを聞いたことがないからだ。


だから、聞き方を変えることにした。


「生まれつき、普通の人にはできないことができる人っている?」


「生まれつき?」


「うん」


母さんは少し考えるような顔をした。


「そうね。人によって得意なことが違うという意味なら、もちろんいるわよ」


「そうじゃなくて……」


俺は言葉を選ぶ。


「もっと特別な感じのやつ」


「特別な感じ?」


「例えば、生まれたときから魔法がすごく得意とか」


「ああ」


母さんが頷いた。


「そういう子がいる、という話は聞くわね」


「本当に?」


「ええ」


少しだけ期待が膨らんだ。


「じゃあ、そういうのって生まれたときに分かるの?」


「いいえ」


母さんは首を横に振った。


「少なくとも、私は知らないわ」


「……そうなんだ」


やっぱり、そう簡単には分からないらしい。


「じゃあ、大きくなってから分かるの?」


「そうね。実際に何かをさせてみて、普通の子とは違うと分かることはあるわ」


「なるほど……」


例えば、魔法。


魔法を使えない子供がいる。


普通に使える子供がいる。


そして、普通では考えられないほど上手に使える子供がいる。


そういう場合なら、実際に試してみれば違いが分かる。


「つまり、やってみないと分からない?」


「そういうことね」


母さんは頷いた。


「生まれたばかりの子供を見ただけで、将来何が得意なのか分かるわけではないでしょう?」


「確かに……」


それはそうだ。


赤ん坊を見て、


『この子は魔法の才能があります!』


なんて言われても、どうやって判断したんだという話になる。


「でも、貴族の家なら、子供の才能を見ることは大切じゃないの?」


俺はさらに聞いた。


「そうね。それは大切よ」


「じゃあ、どうやって見るの?」


「日々の勉強や生活を見ていれば、自然と分かってくるものよ」


「自然と?」


「ええ」


母さんは穏やかに答えた。


「例えば、読み書きを教えていて覚えるのが早い子もいれば、計算が得意な子もいるわ」


「うん」


「人と話すのが上手な子もいるし、細かな作業が得意な子もいる」


「なるほど」


「そういうものを見ながら、その子に合った教育を考えていくの」


……なるほど。


ものすごく地道だ。


でも、現実的ではある。


前世の学校でも、先生が生徒を見て、


「この子は数学が得意だ」


「この子は運動が得意だ」


と判断することはあった。


それと似たようなものなのかもしれない。


「じゃあ、最初からこの子にはこういう才能があるって分かるわけじゃないんだ」


「ええ」


母さんは笑った。


「人は成長してみないと分からないことも多いものよ」


「……そうか」


俺は腕を組んだ。


ここで、俺の中にあった考えが一つ崩れた。


もし俺の考えていたように、個人ごとの能力を簡単に確認できるのなら、その能力に合わせた教育を専門の学校で行うというのは、かなり合理的だ。


でも、この世界では、少なくとも母さんの話を聞く限り、そういう仕組みがあるわけではないらしい。


「じゃあ、特別に魔法が得意な子がいたら?」


「その子が魔法を学んでいけばいいでしょうね」


「普通の子よりずっと得意でも?」


「ええ」


「それなら、その子だけ特別な教育を受けたりする?」


「もちろん、必要ならそうなるでしょうね」


「必要なら?」


「本人が望む場合もあるし、その子の将来を考えて家族が決める場合もあるわ」


「なるほど……」


つまり。


『才能に合わせて教育を変える』という考え自体は、この世界にもある。


ただし、本人の成長を見ながら決めていく。


最初から何かが表示されていて、それを基準に振り分けるわけではない。


俺はそこまで考えてから、ふと自分のステータスを思い出した。


俺にはある。


【スキル】召喚魔法


でも、この世界の人たちは、少なくとも俺が見聞きした範囲では、そういうものを使って能力を判定していない。


……だったら。


俺だけなのか?


俺だけが見えているのか?


それとも、俺以外にも同じものがあるのに、知られていないだけなのか。


分からない。


「……ありがとう、母さん」


「どういたしまして」


「また質問してもいい?」


母さんは一瞬だけ俺を見た。


それから、くすっと笑った。


「もちろん。今日は何回目かしらね?」


「……それは」


俺は何も言えなかった。


確かに今日は、かなり聞いている。


俺は母さんのもとを離れ、自分の部屋へ戻ることにした。


歩きながら、頭の中を整理する。


この世界では、生まれつき特別な能力を持つ子供はいるらしい。


でも、それを生まれた時点で簡単に確認する方法があるのかどうかは分からない。


成長して、実際に何かをやってみて、その結果から得意なものが分かっていく。


そして、その得意なものに合わせて教育を変える。


だったら、俺がさっき考えた『能力ごとの学校』という発想は、完全におかしいわけではない。


ただし――


そこへ進むためには、まず自分が何に向いているのかを知る必要がある。


俺の場合は――


もう分かっている。


召喚魔法。


ただ、それを誰にも知られていないだけだ。


「……どうやって調べればいいんだ?」


部屋に戻った俺は、もう一度ステータスを表示する。


【名前】レオン・アークライト

【年齢】6歳

【性別】男

【種族】人間

【スキル】召喚魔法


やっぱり。


今日も、そこには同じ文字が表示されていた。


俺だけが見ることのできる、謎の表示。


「……やっぱり、これについて調べないとな」


学校のことを調べるつもりが、いつの間にか自分自身のことを調べる話になっていた。


まあ、こういうところから一つずつ調べていくしかないか。


転生したからといって、答えが勝手に出てくるわけじゃない。


それくらいは、もう分かっている。

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