↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
17/27

狼のために肉を盗んでいました

――翌朝。


いつものように朝食を済ませ、俺は廊下を歩いていた。


すると。


「大変です!」


厨房のほうから、慌てた声が聞こえてきた。


「どうしたの?」


「昨日仕入れた肉が足りないんです!」


「足りない?」


「はい。確かに数を確認したはずなのですが……」


何やら騒がしい。


俺は足を止め、厨房の入り口から中の様子を覗いた。


使用人たちが何人か集まっている。


「どれくらい足りないんですか?」


「かなりの量です」


「誰か持ち出したんじゃないか?」


「でも、勝手に厨房から持ち出す人なんて……」


その言葉を聞いた瞬間。


「…………」


俺の身体が固まった。


(……あ)


嫌な予感がする。


いや。


予感なんてものじゃない。


心当たりがある。


「……」


俺はそっと視線を逸らした。


そして、昨日までのことを思い出す。


カイルが肉を持ってきた。


その前にも。


さらに、その前にも。


俺たちは白い狼の子供に肉を食べさせていた。


(…………)


俺は無言でその場を離れた。


   ◇


自分の部屋まで戻り、扉を閉める。


「…………」


そのまま床に座り込んだ。


(やばい)


頭の中で警報が鳴り響いている。


(やばいやばいやばい)


今まで、俺たちは何も考えずに肉を持っていっていた。


狼を助ける。


仲良くなる。


もしかしたら、仲間になる。


そんなことばかり考えていた。


でも。


そこで俺は、ようやく気づいた。


(……この先、どうするんだ?)


狼の子供が元気になったら。


もし、本当に俺たちの仲間になったら。


当然、食べ物が必要になる。


毎日、肉を用意しなければならない。


でも、俺たちが勝手に厨房から肉を持ち出すなんて、いつまでもできるわけがない。


そもそも。


(仲間になったことを、両親に隠せるのか?)


無理だ。


屋敷の敷地内で狼を飼うなら、いつか誰かに見つかる。


食事だって必要だし、寝床だって必要になる。


世話をする人間だって必要だろう。


どう考えても、家族に話さなければならない。


(……そのとき、どう説明する?)


俺たち三人で狼を見つけました。


弱っていたので助けました。


毎日、肉を食べさせています。


ちなみに、その肉は厨房から勝手に持っていきました。


「…………」


胃が痛くなってきた。


(終わった……)


完全に詰んでいる。


ここで俺は、自分の精神年齢について改めて考えた。


前世では十五歳。


今世では五歳。


単純に足せば、二十歳だ。


(……二十歳にもなって、何も考えずに肉を持ち出してました)


情けない。


ものすごく情けない。


「…………」


俺は頭を抱えた。


(いや、でも仕方なかっただろ)


そう自分に言い聞かせる。


弱っていた。


かわいそうだった。


助けたかった。


その気持ちは本当だ。


でも。


(それと、肉を勝手に持ち出すのは別問題だよな)


正論だった。


完全に俺が悪い。


   ◇


しばらくして。


「レオン」


「……なに?」


扉の向こうから、カイルの声が聞こえた。


「今日もあの狼のところに行こう!」


「…………」


俺はすぐには返事をしなかった。


やがて、アリシアの声も聞こえてくる。


「レオン?」


「…………」


「どうしたの?」


俺は少し迷ったあと、扉を開けた。


「今日……ちょっと問題がある」


「問題?」


カイルが首を傾げる。


「厨房で、肉がなくなってるって騒ぎになってるんだ」


「…………」


カイルが固まった。


アリシアも目を見開く。


「……肉?」


「うん」


「俺たちが持っていったやつ?」


「たぶん」


「…………」


三人とも黙り込んだ。


しばらくして、アリシアが小さな声で言った。


「……どうしよう」


「それを今、考えてる」


俺はため息を吐いた。


「このまま狼が元気になって、ずっとここにいるなら……」


「うん」


「両親に話さないといけない」


カイルが頷いた。


「そうだな」


そして俺は、一番考えたくないことを口にした。


「そのとき、肉を勝手に持っていってたことも話すことになる」


「…………!」


カイルが青ざめた。


「怒られるかな……」


「たぶん」


「いっぱい?」


「たぶん」


アリシアが不安そうに俺を見る。


「でも……狼さんのためだったよ?」


「理由はそうでも」


俺は苦笑した。


「勝手に持っていったことは変わらないからな」


カイルが頭を抱える。


「フェンリルが仲間になる前に、俺たちが怒られる……」


「まだフェンリルと決まったわけじゃないけど」


「それでも!」


カイルは本気で悩んでいる。


俺も同じだった。


(そもそも、フェンリルを仲間にするどころか、その前に俺たちのほうが説教されるんじゃないか?)


そんな考えが頭をよぎる。


小説なら。


弱った魔物を助ける。


仲間になる。


主人公すごい。


――で終わる。


現実は違う。


食費がかかる。


世話が必要になる。


親への説明も必要だ。


そして。


盗んだ肉の説明まで必要になる。


「…………」


俺は深いため息を吐いた。


(現実って、本当に厳しいな)


こうして俺たちは、白い狼を助けるという一大イベントの裏で。


別の問題に直面することになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。