一歳児、教会に連れていかれました
――翌日。
朝から、屋敷の様子がおかしかった。
いつもなら、母さんが俺の着替えを手伝ってくれて、その後は朝食。
それから、いつもの一日が始まる。
ところが、今日は違った。
「レオン、今日はちょっと出かけるわよ」
「おでかけ?」
「ええ」
母さんはそれだけ言って、俺の服を整えていく。
「どこ?」
聞いてみる。
母さんは少し間を置いてから、
「行けば分かるわ」
と笑った。
「…………」
なんだ、それ。
明らかに何かある。
少しして、父さんも部屋に入ってきた。
「準備はできたか?」
「ええ」
父さんが俺を見る。
いつもの穏やかな顔ではない。
昨日からずっと、どこか真剣な表情をしている。
「レオン、今日は私たちと一緒に来てもらう」
「どこ?」
「それは着いてからだ」
「……うん」
どうやら、教えてくれる気はないらしい。
俺は少し不安になった。
昨日、俺が一歳児とは思えないほど喋ったことで、屋敷の空気が変わった。
そして、使用人たちの間では、俺が悪魔憑きではないかと疑われている。
(……まさか、昨日の話の続きか?)
嫌な予感がした。
◇
屋敷の庭に、一台の馬車が用意されていた。
母さんに抱かれたまま、俺は馬車へと近づく。
「さあ、乗りましょう」
母さんに促され、馬車の中へ入る。
母さんが俺を抱いたまま座り、向かいには父さんが座った。
扉が閉められる。
直後、馬車がゆっくりと動き始めた。
窓はあるものの、外の様子は見えない。
これでは、どこへ向かっているのか分からなかった。
「……どこに行くの?」
もう一度、母さんに聞いてみる。
「もう少ししたら分かるわ」
母さんは優しく答えた。
けれど、それ以上は教えてくれない。
父さんも黙ったままだ。
(……絶対、何かある)
俺はそう確信していた。
昨日、俺が一歳児とは思えないほど喋ったことで、屋敷の空気が変わった。
そして、使用人たちの間では、俺が悪魔憑きではないかと疑われている。
(……まさか、昨日の話の続きか?)
嫌な予感がした。
馬車に揺られながら、俺は両親の様子をうかがう。
母さんは時折、俺の顔を見ては優しく微笑んでくれる。
でも、どこか心配そうにも見えた。
父さんも、いつもより口数が少ない。
(やっぱり、何かあるんだよな……)
そう考えているうちに、馬車の速度が落ちた。
やがて、ゆっくりと停止する。
「着いたぞ」
父さんが言った。
扉が開かれる。
父さんが先に降り、続いて母さんが俺を抱いたまま外へ出た。
そこで、俺は目の前の建物を見上げた。
「…………」
大きな建物だった。
白い壁。
高い屋根。
そして、正面には見覚えのない紋章が掲げられている。
建物の周囲には、どこか張り詰めた空気が漂っていた。
「ここ……?」
俺が呟く。
母さんが答えた。
「ええ」
それ以上は何も言わない。
俺は建物を見上げた。
正面の大きな扉。
独特な建物の形。
周囲を歩いている人たち。
それらを眺めて、ようやく気づいた。
(教会、か?)
前世の記憶にある教会とは少し雰囲気が違う。
それでも、宗教に関係する場所だということくらいは分かった。
(……なんで教会なんかに?)
考えられる理由は、ひとつしかなかった。
やっぱり、昨日のことだろう。
◇
教会の中へ入る。
外よりも、さらに静かだった。
広い空間。
高い天井。
壁には見たことのない装飾が施されている。
父さんが、一人の男性に声をかけた。
「アークライトです」
「お待ちしておりました。アークライト子爵様」
男性が頭を下げる。
父さんも軽く頷いた。
男性の視線が俺へ向く。
「こちらが……?」
「息子のレオンです」
「なるほど」
男性は俺をじっと見た。
その視線に、俺は少し身構える。
昨日まで屋敷で向けられていたものと似ていた。
珍しいものを見る目。
警戒するような目。
(……やっぱり、俺を調べるつもりなんだな)
「こちらへどうぞ」
男性が案内する。
俺は母さんに抱かれたまま、父さんと一緒についていった。
◇
通された部屋には、別の男性がいた。
落ち着いた雰囲気の人だ。
父さんと母さんが挨拶をする。
「本日はありがとうございます」
「こちらこそ。お越しいただきありがとうございます」
男性が俺を見る。
「この子がレオン君ですね」
「はい」
「少し、お預かりしても?」
母さんが俺を見る。
「レオン、大丈夫?」
「……うん」
俺は頷いた。
母さんから離れ、男性の前に座る。
「怖がらなくていいですよ」
「こわくない」
そう答えると、男性の表情がわずかに変わった。
やはり、一歳の子供がこれほどはっきり話すこと自体が珍しいらしい。
「いくつですか?」
「いっさい」
「そうですか」
男性は俺をじっと観察している。
俺も、その人を見返した。
(……何を調べるんだ?)
不安はある。
でも、ここまで来た以上、もうどうしようもない。
そして、男性が静かに口を開いた。
「では、簡単な確認から始めましょう」
俺は黙って頷いた。
こうして俺は、生まれて初めて――。
教会という場所で、自分について調べられることになった。




