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転生先は婚約破棄の真っ最中!?〜聖女は王子と結ばれて、今度はあーしが婚約するらしい?〜  作者: おやまみかげ(・8・)


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第八話 顔が違う。


「ユイ様、おはようございます」

「……おはよう」

「朝食のお時間ですので、お着替えしましょうか」

「……あーい」


 せっせと、専属侍女のマルタさんが用意を進めてくれる。

 そんな中、あーしは未だベッドのフチに腰を下ろしていた。


 眠い、朝は苦手だ……。じゃあ夜が得意なのか?

 そんなこともない。夜も眠いし朝も眠い……。


「ユイ様、起きてください」

「うーん……」

「何を寝ぼけている、早く支度しろ」


 少し不機嫌そうな、不満そうな声。

 

 この声には聞き覚えがあるけど、ここにいるわけない。

 あれか、夢だな。眠い……。


「タイガ様! レディの部屋に急に入っては失礼ですよ!」

「ユイが朝食の時間になっても来ないからだろ」

「だからといって、入ってはいけません!」

「……ユイ、起きろ」

 

 ……誰だよ。あーしはまだ眠いんだよ。


 グラグラと、少し強めに肩を揺さぶられる。

 文句の一つでも言ってやろうと、重い瞼を無理に開けた。


「起きたか、ユイ」


 ……え? タイガ?


「ぎゃあああ!!」

「またお前はそれか。早く起きろ」

「タイガが無駄に近いからでしょ!?」


 まじで心臓止まるかと思った。


「ならさっさと起きろ、マルタに迷惑をかけるな」

「だって朝苦手なんだよ……」

「……何か、嫌なことでも思い出すのか?」

「え? いやそういうわけじゃ——」

「なら、夜眠れなかったか?」

「いや違うし……ってか顔近い!!」

 

 目の前にある綺麗な顔は、相変わらず不機嫌そう。

 それなのに目線を合わせてくるから、無駄に距離だけ近い!!


「……早く準備して食堂に来い」

「わかったよ……」


 あーしの返事を聞くと、タイガは部屋を出ていく。

 早く出ていけとでも言いたげなマルタさんは、すぐに扉を閉めた。

 

「ではユイ様、準備しましょうね」

「はーい……あ、マルタさん」

「いかがなさいましたか?」

「あの、これつけて行きたいんだけど……」

「あら……! かしこまりました! でしたら、それに合わせておリボンは——」


 マルタさん……なんか、すごい嬉しそう。




 *

 

「おはようございます、ユイ様をお連れしました」


 食堂にはパタパタと動く執事たちと、それを見守るカミヌスおじいちゃん。

 それからタイガがむすっとした顔で、腕を組みながら座っていた。


「遅い」

「待たせてごめん」

「……お前、今日は髪を結っているのか?」

「あ、うん。マルタさんがやってくれた〜」


 あーしは生まれつき色素が薄くて、目も髪も淡い茶色。

 おまけに直毛だから、腰まである髪を毎朝ゆるくコテで巻いていた。

 

 が、こっちでそんなことできるはずもなく。

 もしかしたらあるのかもしれないけど、あーしは知らないし。

 だから昨日は何もせず学園に行くしかなかった。


「そうか」

「聞いておいて、その反応なんなん!?」

「いや、似合っていると思っただけだ」

「じゃあそう言ってくれよ……」

「言わなくてもわかるだろ」

「いやわかんないよ!? 察してちゃんはモテないよ!?」


 あーしたちのやり取りを聞いて、みんながクスクスと肩を揺らす。


「またお前は意味のわからない言葉を……。もういい、早く飯を食うぞ。遅刻する」

「はいはい、話振ってきたのはそっちなのにね〜」

「本当にうるさい女だ」

「あんたはだいぶ態度悪い男だよ」


 ……でも、朝からこんな話すの久々かもしんない。

 

 ちょっとだけ、楽しかった。




 *


「おい、早く乗れ」

「はいはい、わかってますよ」

「あれ〜? なんかかわいい子がいる!!」


 突然聞こえた大声に、あーしの肩がビクッとなる。

 そんな姿を見てたからか、タイガが大きなため息をついた。


「おい、突然大声を出すな」

「ごめんごめん! だってさ〜、かわいい子がいるんだもん! ねぇ、名前なんていうの?」

「止めろ、絡むなソキウス」

「俺の名前はねぇ——」

「しつこい、ユイに話しかけるな」

「ユイちゃんって言うのか! よろしくね〜!」


 パッと右手を出される。


 ……これは、握手ってことかな?

 タイガとは仲いいみたいだし、あーしも仲よくした方がよさそうだ。

 それに制服着てるってことは、同じ学園なのかな?


 返そうと手を差し出すと、タイガが男の手を叩いた。


「へぇ〜、そういう感じ?」

「お前が何を言いたいのか知らないが、ユイは俺の婚約者だ。むやみに触れるな」

「えぇ〜。それじゃあエスコートはどうしたらいいの〜?」

「お前がする必要ないだろ。俺がユイの側にいる」

「あら〜、お熱いこと!」

「婚約者なんだから当たり前だろ」

 

 ……なんかすごい誤解を招く言い方してるけどさ。

 あーしたち別に形だけなんだから、そこそんなに気にしなくてもいいと思うんだけど。


 あー! あれか! 変な噂流されたら困る系だ。

 婚約破棄、ってなったら大変だもんね。

 この婚約も国が決めたことだって言ってたしなぁ。


 今度はあーしが悪役令嬢になったりして!

 

「おい、ユイ聞いていたか?」

「あ、ごめんなに?」

「はぁ……お前は本当に。そうやってすぐぼーっとするな」

「そんな言い方してると、ユイちゃんに捨てられるよ〜?」

「元はといえばお前のせいだろ!!」


 タイガが大声出してる。

 それに——


「顔が違う」

「は?」

「今タイガ、すごく楽しそうな顔してた」

「……うるさい、もう行くぞ。お前は早く馬車を出せ」

「へいへい。ユイちゃん、また後でね〜」

「もう二度と話すな」


 学園に向かう馬車の中。

 もちろん会話なんて一つもない。


 だけど、タイガのあんな顔がまた見たいな、なんて。

 あーしはそんな風に思ってしまった。


 


 チャラ男登場(・8・)



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