第五話 俺がお前の居場所になる。
「では、ここからは別行動にしましょう!」
「それはいいね、リーン!」
「いやいや、四人で来た意味よ!!」
タイガに手を引かれ、ようやく二人に追いついたと思ったらこれだ。
それに、ここからはってまだどこも行ってないけど……。
「タイガ、ユイ様をしっかりエスコートしてくださいね」
「……わかりました」
「ちょっと!? 今の間はなによ!」
「お前は本当にうるさいな。見たいところがあるなら言えばいいだろ」
「いやそんな話今してないじゃん……」
こいつもコミュ障なん!?
異世界って、コミュ障しかいないんか……?
「では、後ほど!」
「二人も楽しんでおくれ」
「え? ちょっ、リーン! シル!」
どんどん遠くなっていく、二人の背中。
……あーあ、行っちゃった。
本当に二人きりになっちゃったよ。
どうすんのさ、こいつと二人で……。
「……行っちゃった」
「最近、お二人はお前のことで忙しそうにしていた。ゆっくり過ごす時間が欲しいんだろう」
「そっか、それは申し訳ないことしたな……」
あーしが完全にこっちに来てから、リーンはずっと一緒にいてくれた。
シルも顔出してくれてたけど、あーしがリーンとの時間を奪っちゃってたのか……。
「……気に病むな。お前が来たおかげで、お二人は結ばれたんだ」
「そう、だといいけどさ……」
「そうだと言っているだろ。ほら、行きたいところはないのか?」
相変わらずタイガは不機嫌そうな顔。
でも、声は少し優しくて見た目より怖くない。
……たぶん、気つかってくれてるよね?
なんかよくわかんない男だな、こいつ。
でも、ちゃんと伝えなきゃ。
「あのさ、その……ありがとう」
「……お前、人に感謝できるんだな」
「はぁ!? あんたさっきから失礼過ぎない!?」
あーあ! やっぱりこいつムカつく!!
ちょっといい奴かもって思ったのにさ!
なんでこんなのがモテるんだよ!!
そんなあーしを見て、タイガがフッと笑う。
「お前はそうやって騒いでいる方が似合う。ほら、行くぞ」
まだ繋がれていた手が、その言葉と共に優しく引かれた。
*
「どこか見たいところはないのか?」
「そう言われてもさ、よくわからんし」
「なら、食べたい物や欲しい物はないのか?」
「うーん……なんだろう……」
そんなこと急に言われてもなぁ。
てか、こいつ割と紳士なのでは……?
いやいや、そんなことない。ありえない。
さっきから、ちょっといい奴では? って思った途端に裏切られてるんだから。
「欲がないのか?」
「あんまりないかも? それに、欲しかった物はもう手に入ったしね〜」
「そうか。何が欲しかったんだ?」
「……友達と居場所」
「お前……」
「なんてね! 冗談だよ、冗談!!」
まずいまずい。誤魔化さないと……。
またバカだな、って言われると思ったのに。
それなのに……。
なんであんたがそんな顔するんだよ……。
——ちゃんと、笑わないと。
「お前——」
「冗談だって、冗談! ねぇ、なんか食べに行かない?」
「おい、俺の話を——」
「あーし、お腹空いちゃった! あんたどっかに——」
「ユイ!」
日が傾き始めた広場に、響き渡るタイガの声。
未だ繋いだままの手が、少し強めに握られる。
「……なに?」
「お前は、俺の婚約者だろ」
「急になんの話始まった!?」
「俺がお前の居場所になる。絶対に一人にしない」
「待って待って! なんの話?」
タイガの目は、まっすぐあーしの目を見ていた。
何が言いたいんだ?
急に婚約者の話始まったし……。
「リーン様も殿下も、お前を大切に思っている。俺がお前の居場所になる。だから欲しい物を探せ」
「ちょっと、なに言うてるかわからん……」
「だから、その……」
「うん、なに?」
「欲しい物が友達や居場所なんて、寂しいことを言うなってことだ」
最後の方、声ちっさくなってるし……。
でもこいつ、言葉が下手くそなだけでいい奴? かも?
まだわかんないけど、婚約者なのは確定らしいし。
知り合って数時間だけど、嫌な感じもしない。
それなら、ちょっと信じてみてもいいのかな……。
「……ありがと、そんな風に言われたの初めてだよ」
「俺もお前のような、欲のない女は初めてだ」
「それ褒めてないよね!? ちょっといい奴かなって思ったのに!」
「お前に褒めるところなどないだろ……」
「あーし仮にも婚約者なんだけど!? それなのに失礼極まりないんだが!?」
やっぱりちょっと腹立つ!
……でも、こいつなんだかんだであーしの話聞いてくれるし。
それに、こうやって言い合えるのも案外悪くないかもって思ったりもする。
「そうやって、すぐ騒ぐから腹が減るんだろ」
「あーあ、そうですね! おっしゃるとおりです!」
「……ユイは、苦手な食べ物はあるか?」
「別にないけど……」
「そうか。俺が知っている店でもよければ連れていけるが」
「え、まじで!? ありがとタイガ!」
あれ……? 今あーし、初めてタイガの名前呼んだかも……?
「……行くぞ」
「あ! ちょっと引っ張んないでよ!!」
「ユイは歩くのが遅い」
「タイガが合わせてくれればいいでしょ!?」
「何故俺が合わせなければいけないんだ……」
そうブツブツ言いながらも、結局タイガはあーしに合わせてくれる。
「なにが美味しいお店なの?」
「……ユイにはケーキが合うと思う」
「ケーキ!」
繋がれている手のことなんて、もうあーしの頭にはなかった。
(・8・)




