9・返り討ち
「で、君は誰?」
「こんにちは。霧島大和といいます。美和さんの同級生です」
やうと村が蜘蛛の襲撃にあった数時間後、
美和の母の元に霧島が訪ねてきていた。
キッチンに続く居間の窓際で、観葉植物に囲まれながら
母の藤子は腕組みして霧島を値踏みするように見ている。
「美和はまだ嫁にやらないわよ?」
「そうじゃなく。…っていうか、偉そうですね?」
「わたし?うん、偉いから」と笑った。
「君、もしかして誰かに言われてやってる?」
そう言うと藤子は霧島に近づいて人差し指を彼の額に付けた。
「言ってごらん。誰にやらされている?」
「は…あ…」抵抗したいができない。
勝手に口が動く。
「…母さま。 合う体を連れて来いと。美和がぴったり合う…。
自分の命を懸けてもやり抜く。そのために母親を人質に…」
霧島の意思を無視して、聞かれた事に答えてしまう。
「自分の子供に命を懸けろなんて、ロクでもない親ね。
本当に親なの?」
「はっ」とする霧島に、藤子は続けた。
「わたしなら、こう言う。 一番大切なのは子供の命と人生。
その一生が健康で安全に、幸せであってほしい。
だから命懸けなんて危険な事はしないでくれ。ってね。
危険から子を守るのが親よ。」と、
霧島の右腕を掴んで肩を外した。
「うあああああっ」
「痛いかな? 関節をちょっとずらしただけよ。すぐ治るわよ。
帰って自称・親に伝えなさい。挨拶ならお前が来い。って。
あ、痛くて帰れない?そしたらここにいる?」
「う…うう…」呻きながらも霧島は玄関を出て、家を出て行った。
「うんうん、頑張って帰ってね」
「さて、何が始まるのかな。できれば平和にいきたいものだわ」
ため息をついて、藤子は晩御飯の支度に入った。
*
多嘉良からの電話で、蜘蛛の話を聞いた藤子は「あららー」と
頭を振った。
「どういう事? 今さっき美和のイケメンクラスメイトが来たわ。
霧島っていう子。返り討ちにしたけど」
「蜘蛛の詳細はまだ不明なんだ。みんなで調べてる。
…それにしても霧島くんは可哀想に」
多嘉良の言葉に
「優しくしたわよ。頭にきてケンカも売っちゃったけど」と答えた。
「またそういう事を…」
頭を抱える多嘉良が想像できて「えへへ」と笑ってごまかした。
「詳細は美和が今夜帰るから、聞いてみる。
で、沙織ちゃんは?そう、早池峰くんと!?あら、幸せでよかった。
それじゃあ、また。ありがとうね」
「…旦那さんも守らなきゃ。海外出張へ行ってもらえば
大丈夫かしらね? 忙しいわね、わたし」
美和の父は技術者で出張が多い。なのでいつも家にいないのだ。
*
夜になって「ただいま」と、ぐったりして帰宅した美和に
母は霧島が挨拶に来たと教えた。
「何かあったの?」
「何もないから心配しなくていいのよ。ちょっと挨拶しすぎただけ。
彼、学校は当分休むかもね」と笑った。
「それと、大きな蜘蛛がね…」と話した。
「うん、大変だったね。無事で良かった。無理はしないで
永介たちの言う事を聞いて、安全な行動をとって」
「う…うん」
実は戦ったとは言えなかった。
母の心配はわかる。でもそうはいかない事もあるだろうと予感がした。
*
ポチャン
天井から水滴が湯船に落ちた。
「お母さんだって、何があってもわたしが困らないように
愛鷹や戸隠さんに戦い方を教えてって頼んだんだよね?」
風呂の中で目を閉じてこれからのことを考える美和だった。
*
母の言った通り、霧島は当分の間学校を休むと教師が告げた。
嵯峨野はがっかりして美和を睨まなくなったので、平和になった。
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