6・霧島大和
「かなり霧が出てきたな。美和たちを見てくるよ」
霧島が山に向かおうとするのを嵯峨野が止めた。
「なんか、不気味でこわーい。ここにいて」
「もう一人男子がいるし、みんなも先生もいるから大丈夫でしょ。待ってて」
ムッとした嵯峨野を置いて霧島は山に入って行った。
「さて美和さん、どこかな」
カラコンを外して霧の中を見つめると、登山用ストックを構える美和が見えた
…正しくは視えた。
「あの構えって剣術やってるのか」
霧島の目は千里眼だ。相手が千里の先にいても知っている者なら視える。
美和の姿を追って、霧の中を歩いて行った。
*
美和が声の方へ近づくと霧の向こうに男たちの影があった。
「ケガしました?」美和が声をかけると
「痛いよぅ」と返事がきた。
「元気そうですね。大丈夫でしょう。じゃっ」
その場を離れようとした時に、少し霧が晴れて
後ろから羽交い絞めにされてしまった。
ストックの持ち手で脇腹を突くと、男は呻いて離れた。
続けざまに背中に一撃入れて倒した。
沙織が大木を男たちの上に置いた。これでしばらくは動けないはず。
「戻ろう」ふたりはキャンプ場に戻って行った。
*
「あーあ。情けない」
霧島が男たちを見下ろしてため息をついた。
「襲われている彼女を俺が助けて一躍ヒーローのハズだったのに。
何やってんですか? 役立たずのポンコツですか?」
「う…。話が違う。かわいいJKって言ってたのに、強いじゃないか」
「あ、それは想定外でした。お疲れでした。 はい、バイト代の一部です。
残りはこの住所へ行ってください。
自動ドアが開くので、それに従って進んで。交通費や食事代も出ます。では」
*
渡された紙にある住所へ男たちは向かって、そして消えた。
*
キャンプ1日目の夜は班ごとのキャンプファイヤーだった。
となりの班とおやつを交換したり、一緒にしゃべったりして
普通に高校生をしてかなり楽しい夜だった。
夜中、トイレに起きた美和は大きな石の上に座って
頭を抱えている霧島を見かけた。
「どうし…たの?具合悪いの?」
顔を上げた霧島は、月明かりに照らされてドキリとするほど綺麗だった。
だが、同時に美和の中で警鐘が鳴る。
これは人間の「綺麗」じゃない。 そう、狐族の戸隠の綺麗さと似ている。
アヤカシの危険な美しさ。
「逃げろ。こいつから」
霧島が焦点の合わない目を美和に向けて言った。
ドクン。
美和の心臓が鳴った。
左右の瞳の色が違う。 黒と青。いつか聞いた千里眼の色だ。
「…何?霧島くん、ヘンだよ?」
「こいつに関わってはダメだ」
そう言って霧島は…消えた。
美和の目の前から忽然と消えた。
呆然とする美和。
今のは霊?いや、違う。霧島には影がある。
クラスのみんなにも見えている。
じゃあ何? 分身?
有能な霊能者ならわかるのだろうか?
多嘉良さんならわかる? 村へ行かなきゃ。
*
2日目のキャンプは近くの山に登って、地元のガイドさんが
山の植物を教えてくれた。
だが昨夜の霧島が気になって、頭に入ってこない。
霧島を見ると嵯峨野にぴったり付かれながら、美和に手を振った。
当然、それに気が付いた嵯峨野は睨んでくる。
うん、関わらないほうがいいわ。と、しみじみ思った。
*
*
「連休に美和と旅行とか、最高。おやつ食べる?」長距離バスの中で
沙織が嬉しそうにする。
「で、その村って遠いの?」
「うん、バスで5時間ってとこかな。あと歩いて2時間」
「あはははは」沙織は笑ってしまった。
「でもわたしにとって必要なんだよね。うん、美和を信じてついて行く!」
ガッツポーズの沙織に
「愛だなー」と美和が笑った。
「愛って言えばさ、霧島くんとはどうよ?」
「ううん、何とも…」 「付き合わないの?彼はマジだと思うよ?」
そんな話をしながら、あっという間に終点に着いた。
ここまで来たら村まで残り徒歩2時間だ。
沙織としゃべりながら歩いていると、一人で歩くよりも
早く着いたような気がする。
川の結界を渡って茂み超えると、白川郷のような村が広がっていた。
「はうー。綺麗…」沙織が感嘆のため息をついた。
*
広い屋敷の部屋で霧島は青い瞳で美和を追っていた。
「やうと村か…。アヤカシとその末裔が住んでる。
結界で囲まれているけど目くらまし程度だな。なるほど。うひゃひゃ」と笑った。
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